学校長より
洲本高等学校 学校長
越田 佳孝
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4月のこの時期、咲き誇る桜花とともにこの大地に満ちあふれる春の香りと華やぎは、何ものにも替えがたいものがあります。この春のよき日に、育友会・同窓会役員の皆様をはじめご来賓の方々、保護者の皆様のご臨席を賜り、ここに兵庫県立洲本高等学校定時制の課程の入学式を挙行できますことは、私のこの上ない喜びであります。ただいま入学を許可いたしました三十三名の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんを昭和二十三年、新制高等学校の誕生と同時に創立された歴史と伝統を誇る本校定時制の生徒として迎え入れることを、在校生、教職員一同、本当に嬉しく思います。また、今日まで、新入生の皆さんを支えてこられた保護者の皆様には、心よりお祝い申しあげます。
洲本高校の定時制は、太平洋戦争後の昭和23年10月、新しい高等学校の制度が発足すると同時に生まれました。県下で一番古い定時制です。実はそれ以前にも歴史があります。昭和23年の1月、「働く青年のために夜間学校をつくろうという」というポスターが、洲本市内いたるところの電柱や家々に貼り巡らされた運動です。二十歳にも満たない少年たちの運動でした。市内全域にわたって行われた戸別訪問で集められた約5,000人の署名が洲本市を動かし、その年の6月には洲本市の全面的な支援のもと、洲本市立幼稚園を間借りして「夜間高校準備教育」が始まったのです。記録では6月25日から9月25日まで授業を行っていたとあります。まだ正式に定時制が発足する四ヶ月も前の話です。この洲本高校定時制の歴史は、学校のために「学び」があるのではなく、「学び」のために学校がつくられたという、「教育」と「学び」の本質を体現しています。暗い冬の夜に、洲本市内の各所に「働く青年のために夜間学校を」というポスターを貼りまわり、見ず知らずの人の家の戸をたたき、「働く青年のために夜間学校をつくって欲しい」という署名を集め回った者こそ、皆「学ぶこと」の本質を知っていた皆さんの先輩なのです。
学校のために「学び」があるのではなく、「学び」のために学校がつくられた。この教育と学びの本質を体現している学校が、県立洲本高等学校定時制です。今日、洲本高等学校定時制に入学した皆さんは、そういった素晴らしい先輩たちの歴史に加わったのです。そういう先輩たちの姿を心に描き、洲本高等学校定時制での生活を充実したものにしていって下さい。六十数年前の先輩たちも、まだ見ぬ今の皆さんを心に描き、夜の洲本市内の各所にポスターを貼りまわったのでしょう。自分のことだけではなく、自分以外の人のことも、そして、自分に連なるまだ見ぬ人のために行動する。それが成長です。
成長とは、昨日に比べて今日、昨年に比べて今年の変化をいいます。これまでの自分に比べて現在の自分の変化です。成長を実感するにはまず、昨日の、昨年の、そしてこれまでの自分にしっかりと向き合わなければなりません。それは決して楽しいことではありません。時には避けたいことかも知れません。しかし、それを避けている限り成長はありません。自分のものにならないのです。この洲本高等学校定時制には、しっかりと皆さん一人ひとりに向き合ってくれる先生がいます。そして、一緒に学ぶ仲間がいます。さらには、皆さんを温かく見守ってくれる先輩たちがいるのです。
私が、みなさんに、洲本高等学校定時制の生徒として期待することは三つあります。まず学校に来ることです。そして授業をしっかり受けて学ぶこと。さらには学んだ「成果」をいかし自らの将来への道筋をつけていくことです。洲本高校定時制は、その魅力・特色を「できる」「わかる」「つながる」三つのコンセプトで説明できます。まず、学校に来れば、小中学校の時に学び残してきたものを学び直すことができます。さらには、一旦は学校を離れてしまったが、もう一度学びたいと思う人は再び学び直すことができるのです。これが「できる」です。学校に来て授業を受ければ、少人数で丁寧な先生の指導により、授業内容がわかるようになります。また、ホームルーム活動でのソーシャルスキルトレーニングを学び、相手の気持ちもわかるようになります。これが「わかる」です。そして、体育祭、文化祭、ボランティア活動、生徒会活動等の様々な学校行事によって、友だち、先輩、先生、さらには地域の人たちとつながっていきます。そしてそういう人たちとのつながることによって視野が広まり、責任感などの意識が深まり、そのことで自らの将来に道筋がつき、自分の未来につながるのです。それが「つながる」です。
まず学校へ来ること、そしてしっかり学びましょう。仲間たちと関わり合い、楽しく過ごしましょう。そうすれば確実に成長します。対象に働きかけて対象を変えることは、それと同時に、あるいはそれ以上に自分自身が変わることです。ある人は「成長とは今ある自分を否定して生まれ変わることだ」といっています。果物は、種であることを否定して芽となり、花となり、花であることを否定して初めて実となります。人間は、自分のなかの「子ども」を否定して「おとな」になるのです。
あとになりましたが、保護者の皆様に対して、心からご子弟の本校入学のお祝いを申し上げます。本日確かに、ご子弟をお預かりいたしました。四年後の卒業時には、県立洲本高等学校に入学させてよかったと喜んでいただけるよう、私どもは教え、育むことの専門職としての誇りと矜恃にかけて、全身全霊を込め、真剣勝負をするつもりでご子弟の教育に当たりますので、保護者の皆様にも、本校教育に対するご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。最後に、本校の校歌に歌う「洲高の若きもの」三三名の今後の成長・発展を心からお祈りして、私の式辞といたします。
平成二十七年四月八日
兵庫県立洲本高等学校長 越田 佳孝
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