学校長より
洲本高等学校 学校長
越田 佳孝
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私の手元に佐滝剛弘著『国史大事典を予約した人々』(勁草書房2013)という本があります。「朝日新聞」書評欄(7月28日付)で紹介されていたので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。『国史大辞典』は、現在も全15巻で吉川弘文館から発行されている日本史の権威ある辞典です。『国史大事典を予約した人々』は、佐滝さんが、1908(明治41)年発行の『国史大辞典』を予約した人たち約10,000人の名簿(「国史大辞典予約者芳名録」)を、群馬の旅館で偶然発見したのをきっかけに、「教員の初任給」くらいする辞典を一体どんな人たちが予約したのか調べ始め、その顛末を記載した本です。名簿には、与謝野晶子、高村光雲、折口信夫らのほか、陸羯南(くが かつなん)、黒岩涙香などの言論人、金田一京助、新村出(しんむら いずる)などの著名な学者もいます。徳川、伊達、毛利といった旧大名、西園寺などの公家、琉球国王の子孫など錚々(そうそう)たる人が名を連ねています。
『国史大辞典』を予約したのは個人だけでなく、全国の神社仏閣、企業、軍隊や学校も予約しています。「芳名録」の津名郡の欄(当時は津名郡洲本町)の予約購入者10人の中に「洲本中学校」があります。「洲本中学校」とは現在の兵庫県立洲本高等学校(本校)のこと。さらに本校図書館には「淡路高等女学校」の所蔵印がある『国史大辞典』も残されています。これは旧制の高等女学校が刊行直後に直接購入したことを表わす「貴重な記録」であり、佐滝さんの著書に画像が掲載されています(152頁)。本文には「また、洲本高校では、洲本中学校から引き継いだ本だけでなく、芳名録に記載のない淡路高等女学校(1903年開校、戦後洲本中学校とともに新制洲本高校となる)の蔵書印のある本も所蔵されているなど、旧制中学校が購入した本にも、百年を超える星霜を耐えてきたものがある」と紹介されています。
入学式や創立記念式でも話しましたが、116年の歴史を誇る洲本高校は、県下にあまたある高校とは異なる一つの特徴を持っています。それは「設立された」とか「創立された」というように「受け身」で語ることのできない学校であるということです。洲本高校は、全日制も定時制も、洲本を中心とした淡路の人々の「学ぶこと」に対する真摯な欲求が、「学校をつくろう」という大きな運動を呼び起こし、その成果が実を結んで生まれた学校だからです。その「学ぶこと」を大切にしてきたのが「洲高の文化」です。洲本高校の歴史は、「学ぶこと」の「大切さ」や「素晴らしさ」とはどういうものかということを、身をもって知っている者自身による、「学ぶこと」に対する押さえうることができない欲求・衝動で始まりました。それが、100年以上も前に、当時の「教員の初任給」ほどもする高価な辞典を買わしめたのです。洲本高校は、これまでの116年そんな学校であり続けてきましたし、これからもそんな学校であり続けなければなりません(Always
has been,and always will be.)。私たちに課せられた使命は、それを受け継ぎ、次の世代に受け渡していくことです。それが歴史であり、伝統であり、それを守り、伝えていくことが、今を生きる私たちの「誇り」です。
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