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県西随想 ~県西歴史物語~


県西と図書館

図書館に今日も多くの生徒が集まる。何かを調べ、読み、学んでいる。高校生活の中で大切な光景だ。生徒が図書館に集まり、本に親しむように、いろいろな工夫がなされていて、図書便りも出ている。県西の図書館はとても明るくなった。県西の古いアルバムを見ると、戦後まもなく上ヶ原に来ての校舎では本館2階に図書館があり、多くの書物を収納した長い書架の前で多くの生徒が真剣に読書している写真が残されている。1955年(昭和30年)6月18日にはPTAの協力でモダンな図書館(現・旧図書館)が完成し、7月22日には西宮市費出費の最後である講堂が完成(10月1日に落成記念式)して、この昭和30年は現在の県西の歴史的景観の原点ともいうべき校舎群完成の年となった。私はこのロータリー前の旧図書館を図書館として使用した世代だが、レンガ壁に張り付けられ残っている鉄文字の「KENNISHI LIBRARY」に、単なる郷愁でなく、かつて多くの市民がこの建物に本の寄贈などで夢を託し、県西の生徒を支援したことを思いおこすのである。
 県西と交流の協定を結んだ南オーストラリアのアバフォイルパーク・ハイスクールに県西の生徒たちを引率して訪ね16日間過ごした時、大都市アデレードの近くにある、豊かな自然の中のこの高校の校舎が図書館を中心に他の校舎を配置していることに気づいた。そして一般市民も利用する大きな図書館で、地域社会の中での図書館の役割の大きさを感じた。佐賀インターハイに行った時に民間資本導入で話題になった武雄市の図書館を訪ねたことがあるが、電子書籍や、若者の本離れが話題になり、町では昔からの小さな書店や古書店が次々に姿を消すのを私は嘆いていて、こんな時代だからこそ、本が大好きな県西生がどんどん増えて欲しいと考えている。リサーチや課題研究の授業で、生徒たちは図書館を活用し、世界を広げている。進路を考え、人生を豊かにするためにも図書館は大切だ。大学図書館は蔵書数を誇る。
 世界史を教えていると、都市の文明の中で図書館の大切さがわかる。今のスペインのコルドバはイスラーム王朝の支配下、「世界の宝石」と称された人口80万の都市だったが、600のモスクと70の図書館があり、彼らの文化はヨーロッパのルネサンスにも影響を与えただろう。フランスの哲学者デカルトは「良き書物を読むことは過去の最も優れた人達と会話をかわすようなものだ」と言った。「読書尚友」という言葉もある。一冊の本との出会いが生き方を変えることもある。もっともっと、本を読もう。そして、もっともっと、文章を書こう。
 先日、京都の古書店の知人から一枚の小さな定期大の「優待券」を入手した。戦前の西宮市立図書館発行で、第297号、校園名は「西宮市立商業学校」とあり、生徒名が記入されていて、中央には西宮市の市章がデザインされ、裏面には「本券ヲ持参スル者ハ無料ニテ館内ヲ閲覧スルコトヲ得」など注意事項が記載されている。戦前、公立図書館は有料であったという。「西宮市立商業学校」は県西の前身である。有効期限は昭和19年3月31日とある。敗戦の前年。今の生徒のはるか、はるか大先輩。彼は、時代の重圧、迫り来る戦火の中で、どんな本を手にし、読んでいたのだろうか。その後、どんな人生を歩んだのだろうか。2015年執筆(石戸信也)

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