〒662-0813 西宮市上甲東園2-4-32
Tel 0798-52-0185 Fax 0798-52-0187

  1. ホーム
  2. 県西随想
  3. 赤屋根瓦の旧図書館

県西随想 ~県西歴史物語~


赤屋根瓦の旧図書館

県西のキャンパスで最も美しいロケーションの一つは、B棟入り口側から甲山の方向を見た風景であろう。右手に赤屋根瓦の旧図書館、中央に築山のロータリー、その向こうに講堂、そして、さらに関西学院の時計台(昭和4年、図書館)、甲山、はるかに六甲山のやまなみを望む。県西のモダンでエキゾチックな講堂から、スパニッシュ・ミッション・スタイルの関学、そして丸い甲山を一直線に見上げる。まさに県西が上ヶ原の丘陵に建つ景観の美しさを知るのである。5~6月のこの時期は、新緑があざやかで、赤いツツジと、さわやかな青空の「スカイブルー」が、まぶしいぐらいに輝き、県西の学舎を浮かびあがらせる。この風景の中で、県西の図書館は「憩いの広場」に隣接する小さな建物だが、「県西らしい風景」の構成要素として大きな存在感を見せている。
 県西の旧図書館は、今は演劇部や生徒会の理事会室などに使われているが、もともとは図書館として講堂と同じ昭和30(1955)年に落成した。私の在学中は図書館として使われていた。講堂とともに県西の現存最古の建物のひとつである。もともと図書室は普通教室を転用したりしていたが、当時、市費や宝塚市良元村からの贈与もあり「蔵書が飛躍的に伸びて」書庫も含め狭くなり、昭和30年6月13日に落成した。PTAの全額負担で造られ、独立した図書館は長年の夢であったと県西「80年のあゆみ」は伝えている。戦後の新校舎建設で、この図書館は第7期工事、直後の7月22日落成の講堂(10月1日、落成記念式)は第8期工事であった。図書館の建設費は2,550,000円と記録されているが、当時、これは大変な額である。戦災からやっと立ち上がり復興し始めた日本の社会。当時の保護者の熱い思いがこの図書館を誕生させた。
 この旧図書館は、レンガの外壁に張りつけた「KENNISHI LIBRARY」のモダンな鉄文字が有名だが、実は、あまり、多くの人が気づいていない建築装飾がある。玄関入り口の上部にあるガラス窓の装飾である。グラヴュール加工されたような、すりガラスに見えるガラス装飾である。(江戸後期からのガラスの切子技法は鉄棒に水溶き金剛砂を使ってカットし、西洋では回転グラインダーで削ったが、水晶の装飾から発達したグラヴュール技法は、銅の回転小円盤でガラスを浅く彫り、傷をつけて加飾した。engraving-cutting。そのガラス技法の歴史を感じさせる)。このガラス窓は現在は破損防止ではずし、保存されている。デザインは、スカートの少女が座って読書し、またその横に立つ少年も本を開いている。周囲には六甲のような山や、草花、動物のデザイン。モダンなアール・デコの空気を伝える。ほほえましく、優しい印象のガラスの絵である。
 読書は人格を形成する。良い本を読み、人間として成長してほしい、これは古今東西、どの親もこどもたちに期待することであろう。旧図書館の玄関上部の、このデザインの絵こそ、県西の生徒たちに図書館をプレゼントしてくれた、当時の保護者の思いを伝えるものではないか、そう思えるのである。図書館ができて55年。大切にされてきた、この玄関のガラス。旧図書館の内部の一部は倉庫などにも使用されているが、搬出入の事故などで割れないか心配である。西宮市民をはじめ、多くの保護者、PTAのあたたかい思いにより育まれてきた、県西の歴史を伝えるものだからだ。いつまでも大切にしたいものである。2010年執筆(石戸 信也)

このページのトップヘ