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県西随想 ~県西歴史物語~


県西のキャンパス … 多くの人々からの贈り物

厳冬の寒さの中で、朝、正門を入ると、「憩いの広場」の池が全面、凍っていた。県西のキャンパスの樹木もすっかり冬の装いである。この広場の大きな木々を横に見ながら、生徒諸君が毎日、元気に登校している。寒風ついて校地の周囲を走る早朝練習の生徒もいる。ところで、毎日、みんなが見ている、正門に出ている「兵庫県立西宮高等学校」と刻まれた校名の字は誰の揮毫(きごう)か、知っているだろうか。校門を入ると、校舎まで続く道の、大きな樹木と「憩いの広場」はどのようにして生まれたか、知っているだろうか。
 昭和20年8月6日の空襲で春風町の校舎を失った本校は、今津国民学校、浜脇小学校と仮住まいの流転を続け、昭和23年4月1日には学制改革で「西宮商業高等学校」と校名を変更したものの、独自の校舎が無く、9月11日には建石町の学舎(旧西宮高女の移転先)に移り、西側校舎を使用した。東側は女子が使用し、2校併存の共学である。アメリカによる占領下での共学の経緯については、「80年のあゆみ」に詳しい。アメリカの軍政担当官の視察で、アメリカ側から「不十分な」共学の実態に不満が出たという。10月30日には、校名を「西宮山手高等学校」と変え、普通科・商業科・家庭科の3学科を持つことになり、新校舎建設の願いも強まった。山手高校に「市立」がついていなかったのは、市費の負担による維持が困難と考え、将来の県への移管を視野に入れていたためと言われる。翌年8月15日新校舎の敷地を「西宮市門戸字篠畑343(上甲東園2丁目4-32)」とする決定通達が市教委から出された。現在の場所に、ついに校舎を新築することになった。「県西」は地元・西宮市の熱い期待の中で「進化」し、発展してきたのである。
 「80年のあゆみ」によれば、その場所はもともと敗戦直後、連合国軍最高司令部(G.H.Q)が関西学院前に国際キリスト教大学を建設しようとしていた約10万坪の跡地のうち、1万坪。ここから眺める一面の小豆畑は戦時中、西宮航空隊の予科練のグライダー練習地。南の神戸女学院まではススキの原野だったという。昭和25年(1950)、4月1日、県営移管の告示で、校名は新たに「兵庫県立西宮高等学校」となった。「県西」の呼称の開始である。10月25日、新築校舎は竣工し、11月4日、建石町からついに移転した。竣工式では、岸田県知事が玄関右手、辰馬西宮市長が左手にキンモクセイの若木を植樹した。
 当初、県西の敷地は旧図書館の北側の溝が最北端。テニスコートの西は小豆畑で、音楽棟の北には関学の寮もあったらしい。今の前庭の広場には、この一帯の土地所有者である芝川農園の作業場や倉庫、従業員寮もあった。昭和30年6月には旧図書館、7月には講堂(市費による最後の施設)が完成したが体育館は無く、今の広場に仮体育館。しかし、これは昭和36年9月の第2室戸台風で壊れ、新しい体育館が必要になる。もともと甲東園一帯は果樹園として開拓した芝川家の土地。県西周辺は芝川柿や桃の果樹園。「甲東園」という地名は芝川農園の命名で、阪急の駅名は「甲東園前」だった。この芝川家と甲東園については次号で見てみよう。芝川又四郎氏が県西のキャンパスになる土地の桜も、甲東公民館の梅林も一本一本、大切に植え、愛情を注いで育てたという。正門東に商店が来る話が出た時、景観上も良くなく、県西はこの土地を得ようとしたが困難だったところ、芝川氏側の厚意で学校裏地と交換。広場は氏の厚意で安く入手できた。「桜も楠も、木々を切らない約束で」という条件だった。広場は一晃園が整備し完成。正門から校舎へのびる美しい風景ができたのである。また、今の校門は、昭和34年完成。校名の字の揮毫は、県西誕生に貢献された市長・辰馬夘一郎氏である。この校門を内側から見てみよう。「第11回卒業生」の字がある。また、広場の池は小さな生物もいて心休まる、言わば「ビオトープ」。29回生の自分のクラスの卒業写真もこの池の場所で撮った。昨年、3年生の「日本の文化」の授業では、この「憩いの広場」で全員が俳句を作った。この池の石組みには、「第13回卒業生」の字が刻まれている。旧図書館前には「第15回卒業記念」の石柱もある。汗を流し、机や椅子を上ヶ原に運び、校地を整備した先輩の方々。そして県西のために、未来の生徒諸君のために校地を提供していただいた地元の人々。母校に贈り物を残してくれた各時代の卒業生。現在の生徒諸君はその伝統ある「県西」のキャンパスで毎日、学んでいるのである。 2011年1月25日執筆(石戸 信也)

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