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学校長 越田 佳孝
 

学校のミッションとビジョン(全日制)

 

平成29年度のはじめにあたって、教育のミッションと県立洲本高等学校のビジョンについて話をします。教育のミッションとは、現在の教育に課されている課題と使命のことです。社会からの期待、地域からの期待、そして保護者からの期待、それぞれレベルは違いますが、それらのミッション、期待に応えるのが公教育の務めであり、全ての学校の役割です。そして、県立洲本高等学校のビジョンとは、それらのミッションを前提とした上で、洲本高等学校全日制では「どういう生徒を育てていくか」という具体的な話です。

 

私は、現在、教育は二つの大きな課題を抱えていると考えています。 

 () 格差の連鎖を断つ ~子どもの格差問題~ 

一つは「子どもの貧困」です。これはもう社会問題といえます。平成26年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行されました。この法律は、教育に、資産格差、雇用格差、教育格差等から生じる貧困の連鎖を断ち、生まれ育った環境(経済的・文化的な環境)が、子どもの将来に与える影響を低く抑え、格差を低減させる役割を託しています。

 

最近の日本では、教育の分野でも、自己選択と自己責任を中心とした市場主義が広がっています。私は、こういう社会の風潮の中で、選ばなかった、そしてなによりも選べなかった子どもたちの視点が抜け落ちることに危惧を感じます。公立学校は、そういう子どもたちのためにも「力」をつけていかなければなりません。「学力問題は、もはや教育問題ではなく社会問題である」というのは、私たちの社会の未来が、親世代の階層よって固定化されていき、その結果、社会全体の活力が失われていくという問題だけではありません。これまで、私たちの社会の基本的な理念であった「教育の機会均等」が、実質的に空洞化されていくという問題なのです。学力問題で大切なのは、まず、全ての子どもたちの「学び」を、外からではなく、子どもたち自身の「内側からの欲求」として実現し、保障することです。「学力向上」はその結果としてもたらされるものです。その逆では決してありません。

 

 () 社会の変化に対応する資質や能力の育成 ~21世紀を生き抜く力~

二つ目が、変化が激しく、予測の難しい社会で生き抜いていく「人財」を育成することです。内閣府の「人間力」(2003)、経済産業省の「社会人基礎力」(2006)、中教審第2次教育振興計画の「社会を生き抜く力」(2013)、国立教育政策研究所の「21世紀型能力」(2013)といわれている様々な「○○力」も同じ危機意識から発しています。これらは未知の問題に答えを見出す「思考力」、多様な価値観を持つ他者と協働して問題を解決する「実践力」を重視したものであり、今、学校は、「何を」、「どのように学ぶか」という学びの質や深まりが問われています。

 

現代という時代は、「分かりやすさ」を求める風潮が各所に蔓延しています。確かに、「分かりにくい」よりも「分かりやすい」に越したことはありません。ただ、少し考えれば誰でも、現代社会は簡単に「分かりやすく」割り切れるものではないということはわかっています。にもかかわらず「分かりやすさ」を称賛する風潮が蔓延しているのです。いわゆるポピュリズムです。こういう議論の行き着く先は、自分と異なる者たちを排除してしまおうとする偏狭な思想です。こういう時代こそ、「分かりやすさ」を無批判に求める風潮について、「わかりやすさ」を鵜呑みにせず、立ち止まって考える「姿勢」が必要です。私たちに求められるのは、自分とは違う他者の存在を認め、そういう他者と、対話をとおして辛抱強く違いを埋めていこうとする姿勢なのです。そういう姿勢を「知性」と呼び、そういう姿勢をとることができる人を「教養ある人」といいます。

 

私たちに求められる力は、与えられた問題の解を、教えられた方法によって探し出す力では決してありません。与えられた問題の解を、自ら編み出した方法によって導き出す力でも不十分です。自ら自由に問題を設定し直して、新しい解を探っていく力。時には、所与の条件そのものを疑ってかかるような柔軟な考え方、問題の設定そのものを自ら設定し直す力まで求められます。言い換えれば、既存の社会や組織のシステムやフレーム、それ自体を変えていく力が求められるのです。その「力」の源こそが「教養」なのです。

 

「教養」という概念の元はラテン語のhumanitas(フマニタス)です。人間性を意味するhumanityの語源ですが、自由人である市民の「人としての嗜み」を意味しています。「教養」とは、英語で“liberal arts”といいます。liberal”とは「自由な」という意味で、ここでいう自由とは、誰かの指示でもなく、誰からも束縛されず、自分で判断して行動できる人間としての「自立」をいい、liberal arts”とは、そういう自立した人間に必要な知識・技術のことをいいます。また、私は、「教養」には二つの意味があると考えています。

一つは、今、学んでいることは、その学問体系の中でどういうところに位置するのかがわかることです。当該の教科・科目の「学問」の中で、自分がいる場所を俯瞰する力(マッピング“mapping)です。今、学んでいる「自分の立ち位置」を知ることです。

もう一つは、立ち居振る舞いの適切さです。英語ではdecency(礼儀正しさ)いいます。教養のある人とは、自分がどういう場面で、どういう行動・振る舞いをすることが求められているかがわかっている人のことです。洲本高校で、「洲高生らしく」というのは“decency”を身につけろということ、つまり「教養のある人になれ」ということです。

 

この4月に入学してくる生徒は、神戸の三つの学区と淡路学区が一緒になった、新しい第1学区の複数志願選抜制度3年目の生徒です。第1学区の複数志願選抜制度は、神戸・芦屋・淡路地区の普通科・普通科単位制・総合学科計25の高等学校を一つにして合否と合格校を決定します。洲本高等学校は第二志望とする者が一番少なく、ほぼ全員が第一志望で合格するという数少ない学校の一つです。それだけ中学生と保護者の本校の教育力への期待が高いのです。入学予定者の全員が第一志望といっても、上位は神戸地区の進学校に匹敵する学力の生徒から下位の生徒まで、幅広い生徒が入学しています。私は、成績上位の生徒もさることながら、成績下位に位置する生徒の「学力の下支え」こそ大切であると考えています。成績上位の生徒も、そうでない生徒も、全ての生徒が学ぶ喜び、学ぶ意欲を失わない指導をお願いします。全ての生徒が学ぶ意欲を失わない学習環境こそ、それぞれの持てる力を遺憾なく発揮できる原点です。まさに専門職としての教師の力量が問われるところです。教育は英語でeducation、これは持てる力を外へ引き出すことを意味します。

 

今、学校の授業では、「何を」「どのように学ぶか」という学びの質や深まりが問われています。キーワードは「アクティブラーニング」です。主体的・自立的・協働的学習のことを意味します。その中でも「協働的である」ことが重視されます。「アクティブラーニング」は何かこれまでと違う新しいことをしなければならないものではありません。本校ではすでにそれを実践してきています。本校での総合的な学習の時間「しんか」です。3年生の2単位、それぞれの進路、興味や関心に応じた14の講座で、個人やグループで課題を研究し、発表する授業が行われています。

 

新しい年度も、「生徒の学ぶ意欲の向上」のために、(1)「生徒による授業評価週間(全・定)(6月、12)」の全教科・科目で継続します。目標を肯定的評価90%として、各教科で改善点レポートと改善点を中心に研究授業の実施をお願いします。(2)ロングテスト(基礎・基本の完全習得)を実施し、それぞれの教科の基礎的基本的事項(知識)を徹底的に身につけるようにします。課題に正対し、論理的にものごとを考え、自分の異なる考え方を持った他者に対して説得力をもって話すためには、基礎的な知識は必要です。「知識の真空地帯」では独創性は生まれないからです。(3) 「週課題」として、一週間の各教科の課題をまとめて課します。一週間というまとまったスパンで、計画的に学習する習慣を身につけることを促すためです。(4)「しんか」(総合的な学習の時間)では、21単位、32単位で、課題を探究し、まとめ、発表する学習を実施します。(5)キャリア教育の一環として、1年で「職業探究ワークショップ」、2年で「学問探究ワークショップ」を実施し、外部講師を招き、現在の学びと自らの将来(キャリア)を意識させます。

 

学校予算については、県財政がまだまだ厳しい状況にありますが、予算・決算について教職員全体で内容を共有化し、生徒に関わる事項(旅費、課外活動委託料)を最優先事項として実施します。不要不急の事柄についてはひきつづき節減・節約の協力をお願いします。また、本校では、教職員の協力を得て、毎学期の始めに「危険箇所チェック」を行っています。老朽化した部分も多い施設設備を定期的に丁寧にチェックすることで、生徒の安全・安心を確保していきましょう。結果、本校から財務課への補修等の要求をたくさん上げていますが、それは施設・設備を大切に使っている本校の職員の姿勢を示すことになります。

 

校長は数年、先生方も長くても十数年で変わります。しかし、学校は何十年と変わるものではありません。むしろ変わってはならないものです。洲本高校の特色とは、創立以来120年の長きにわたって私たちの先輩が大切にしてきたものを守り伝えていく教育活動にあります。それを具現化したものが「至誠、勤勉、自治、親和」からなる教訓です。そういう歴史と伝統を持つ学校で学んだという事実が持つ「効果」は数値では計ることができませんが、人が生きていく上で一番大切なものである「自信」と「誇り」となります。フランスの小説家サン=テグジュペリが、彼の代表作『星の王子様』の中で「大切なものは、目に見えない(What is essential is invisible to the eye.)」といったとおりです。平成29年には、本校は創立120年を迎えます。120年、変らずに大切に育んできた大切なものを次世代に大切に伝えていくことが、今を生きる私たちの勤めです。新しい年度、みなさんと一緒に「人づくり」に勤しみましょう。





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