このストーリーは、兵庫県立歴史博物館の所蔵資料である仏画・仏像から着想をえて、六道輪廻(ろくどうりんね)や涅槃(ねはん)など仏教の世界観をテーマに構成したオリジナルの物語です。
六道輪廻
地獄道(じごくどう)・餓鬼道(がきどう)・畜生道(ちくしょうどう)・阿修羅道(あしゅらどう)・人道(にんどう)・天道(てんどう)の六道は、いずれも苦しみに満ちた世界であり、衆生(しゅじょう)は悟りを完成しない限り、永遠にこれらの世界で転生する、とされました。六道輪廻とは、六道で繰りかえす生死(しょうじ)のことです。
涅槃
お釈迦さま(ゴータマ・シッダールタ)は、悟りを完成して仏(ブッダ、如来:にょらい)となり、死後に生まれかわることなく六道輪廻を超越したと考えられています。また、お釈迦さまの死は、煩悩(ぼんのう)も肉体も滅しつくした状態で、涅槃(ニルヴァーナ)と呼ばれます。
大乗仏教と末法思想
東アジアでは、仏教のなかでも、お釈迦さま以外にもさまざまなブッダや菩薩の世界が存在すると考える、大乗仏教が広く受けいれられました。さらに正法(しょうほう)・像法(ぞうほう)・末法(まっぽう)という三つの時期をへて仏教が衰退する、という末法思想が、中国で起こりました。
浄土信仰
日本では、末法に入ると信じられた永承7年(1052)ごろから、人々はみずから仏道修行して悟りひらくことよりも、むしろ死後に阿弥陀如来(あみだにょらい)の住まう極楽浄土(ごくらくじょうど)に生まれかわり、そこで成仏(じょうぶつ)することを願いました。
仏や菩薩(ぼさつ)の住んでいる清浄な世界を浄土といい、浄土に転生することを往生(おうじょう)といいます。浄土信仰は、宗派を問わず日本中世の人々の心をとらえ、念仏(ねんぶつ)や写経とともに流行しました。
ストーリーとかかわる仏教の世界観についての説明は、ひきつづき作品解説において、館蔵の仏教美術を読み解きながらご紹介いたします。