兵庫県立洲本高等学校定時制
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学校長より

洲本高等学校 校長
 越田 佳孝

県立洲本高等学校定時制の課程第66回卒業証書授与式式辞


今年の冬は2月にはいって厳しい寒波に見舞われました。本校の南側の敷地に沿って植わっている、水仙も長らく固く蕾をとじたままでした。しかし、月も下旬になり、春の季節のようなうららかな陽光に誘われるように蕾は花を咲かせ、今日のよき日を迎えることができました。本日、洲本市副市長 森屋 康弘 様 本校同窓会長 川端 通 様、はじめご来賓の方々、多くの保護者の皆様のご出席をいただき、兵庫県立洲本高等学校定時制の課程 第66回卒業証書授与式が挙行できますことを、うれしく思います。

 

ただ今卒業証書授与した 男子13名、女子名、計21名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。みなさんの在学中の努力に対し、賛辞と祝福を送ります。みなさんは、それぞれ一人一人が、数えきれないほどの苦労と喜びを積み上げて、今日の日を迎えられました。みなさんは、みなさん自身が思っているよりもはるかに「大切な時」を過ごし、年前、あるいは年前より着実に成長して、今日の日を迎えたのです。

 

私は、年前、みなさんが洲本高校定時制に入学してきた年の月に、はじめて校長という職に就いて、この洲本高等学校に着任しました。同時に着任したのが、昨年月まで本校で勤務していただいていた得能弘一先生でした。得能先生は、木原先生とともに一年生の担任をしていただきました。私たち二人は、「夜学の灯」第101号に、「平成二五年度の新しい風」として紹介してもらっています。しかし、本当の「新しい風」は、四年前に洲本高等学校定時制に入学してきた男子19名、女子14名、計33名のみなさんなのです。

 

この洲本高等学校定時制での年ないし年間の間のみなさんの成長を如実に現わしているのが「生活体験発表会」校内大会です。場所は、今日と同じ、この洲本市立市民交流センタービバホールです。生活体験発表大会は、定時制や通信制高校に通う高校生が、学校生活を通して、感じ、学んだ貴重な体験を自らの「ことば」にして発表する、定時制・通信制高校ならではの長い歴史と伝統を持つ大会です。

 

大会そのものが重要なのではありません。それに向け、学校のこと、仕事のこと、定時制に入学して経験したこと等から、考えたり、感じたりしたことを作文に書き、クラスや学年を越えた仲間たちの前で発表することで、自らの変化、成長を確認することが大切なのです。作文とは、自分も知らなかったもう一人の自分との対話です。作文として文字で書き現わすことで、自分の中にいるもう一人の自分が、自分の前に現れてくるのです。また、考えていることがあるから書くことができるのでもありません。書くことによって考えていることが明らかになるのです。

 

さらに発表することは他者の前に自分をさらすことです。自分を他者に曝すことで、自分自身の話したことが「リアリティー」を帯びます。自分の話したことに責任と自覚が生まれるのです。また、生活体験発表会は一方通行的に発表者の話を「聞くこと」ではありません。互いには言葉を発しはしませんが、双方向のコミュニケーションです。そういう時に大切なのは、発表者にたいする「敬意」です。哲学者の鷲田清一は、「わたし」の前で、他人がどんな振る舞いをするか、どんな服装をしてあらわれるかは、「わたし」がその人にどのように扱われているかを、想像以上に如実に映しだすといっています。

 

みなさんは、洲本高等学校定時制に入学してからか月後に「生活体験発表会」校内大会を経験しました。その大会で、友だちなどの学校生活、仕事や将来のこと等、自分が「体験したり」「見たり」「聞いたり」「感じたこと」を、自分の「ことば」で一生懸命話す先輩や仲間の姿を見たはずです。同時に、その話に熱心に耳を傾ける先輩の姿も見たはずです。その姿は、発表している人を知っているとか知らないとかではなく、また話が面白いとか面白くないなどとに関係なく、発表者に対して「敬意を表そう」とする姿勢であり、態度だったはずです。「他に対して敬意を表する」とはどういうことかを知っている者だけが、他から敬意を表されます。ですから、他人に対して敬意を向けたことのない人間が、他人から敬意を向けられることはあり得ないわけです。みなさんは、洲本高等学校定時制に入学して、わずかヶ月後に、人間として一番大切なことを学ぶのです。それは、単語を一つ、公式を一つ知っていることよりも大切な成長です。

 

「成長」とは、昨日に比べて今日、昨年に比べて今年の「変化」をいいます。これまでの自分に比べて現在の自分の「変化」です。果物は、種であることを否定して芽となり、花となり、花であることを否定して初めて実となります。人間も同じように、自分の中の子供を否定して大人になるのです。

 

私は、高等学校で学ぶということは、三つの点で成長することだと思っています。一つは「知識が増える」ことです。英単語や数学の公式等これまで知らなかったことを知るようになります。新しい「知識」が増えるのです。二つ目は、部活動、ボランティアという体験活動によって「視野が広まる」ことです。体験をつうじて自分とは違う行動や考え方をする人に出会います。そうすることで「そういう考え方もあるんだ」とか「こういう方法もできるんだ」と自分自身の考え方が広まるでしょう。それが「視野が広まる」ということです。

三つ目は「意識が深まる」ということ。インターシップ、ボランティア等で仕事を任されることによって「しっかりしなくては」と思い、「もっといい方法はないか」といろいろ工夫します。それが「意識が深まる」ということです。そうなれば、それは誰かに命令されてする「受け身の仕事」ではありません。「自分の仕事」です。仕事を任され「もっといい方法はないか」と思案するとき、役に立つのがこれまで学んだ「知識」であり、自分とは違う行動や考え方の人と出会うことによって身につけた「視野の広さ」です。その域に達すれば、三つの成長が統合されます。それが高等学校で学ぶということです。

 

私は、着任以来、みなさんが学んでいる洲本高校定時制とはどんな学校であるかについて、ことある毎に話をしてきました。卒業式にあたってもう一度同じ話をします。太平洋戦争後の昭和2310月、今から69年前、現在の高等学校の制度が発足しました。しかし、私たちの洲本高等学校定時制は、それよりも前に存在していたのです。昭和23年の月、「働く青年のために夜間学校をつくろうという」というポスターが、洲本市内いたるところに貼り巡らされ、短期間の間に約5,000人の署名が集まり、その年の月には、洲本市の全面的な支援のもと、洲本市立幼稚園を間借りして「夜間高校準備教育」が始まりました。まだ正式に定時制が発足するヶ月も前の話です。文字どおり一番古い定時制高等学校です。

 

この洲本高等学校定時制は、学校のために「学び」があるのではなく、「学び」のために学校がつくられたという、「教育」と「学び」の本質を体現している学校です。私は、みなさんに、まず学校に来る、そして授業をしっかり受けて学ぶ、さらには学んだ「成果」をいかし自らの将来への道筋をつける、と機会ある毎に話し続けてきました。みなさんはそのことを実践してきて、今日、晴れて卒業の日を迎えることができました。卒業は、新しい世界への旅立ちです。みなさんには「大きな力」が身についています。どこの学校でもない、洲本高等学校の定時制で学んだという「自信」と「誇り」です。

 

最後になりましたが、保護者の皆様に一言申し上げます。お子様のご努力が実って本日のご卒業を迎えられたこと、まことにおめでとうございます。私どもはお預かりして年、または年間、不十分な点もあったかとは思いますが、学級担任を中心に全力で教育にあたってきました。ここにいたるまでに賜りましたご支援に対し、この場を借りて深く感謝申し上げます。卒業生の皆さん、いよいよ新しい出発の時です。私たちは、皆さんの今後の発展と活躍を心から期待し、信じています。皆さんの前途が幸せの多いものとなりますようお祈りし、式辞といたします。

 

平成2924
               兵庫県立洲本高等学校長 越田 佳孝



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