学校長より
洲本高等学校 校長
越田 佳孝
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今年、平成26年、2014年は、皆さんが学ぶ兵庫県立洲本高等学校が生まれて117年目になります。117年前、明治30年、1897年当時の名は「兵庫県洲本尋常中学校」。淡路島の地、まだ洲本市ですらなかった津名郡の洲本の地に生まれた県下で4番目に歴史の古い高等学校です。そして、定時制の課程が生まれたのが、昭和23年10月、太平洋戦争後、新しい教育制度が発足するのと同時で、今から66年前の話です。県下で一番古い定時制です。
みなさんが学ぶ県立洲本高等学校は、兵庫県下にあまたある他の高等学校とは違う一つの大きな特徴を持っています。それは、「設立された」とか、「創立された」、「作られた」というように「受け身形」で語ることのできない存在であるということです。それは、洲本を中心とした淡路の人々の「教育」や「学ぶこと」に対する凄まじいまでの欲求、学びに対する真摯な渇望、魂の叫びが、学校を作ろうという運動を呼び起こし、その運動の成果が実を結んで、生まれた学校だからです。しかも、洲本高等学校117年の歴史で、そういう運動は三度もありました。
一つは、明治30年、県下で4番目の旧制中学校として、現在の洲本高等学校の前身に当たる旧制洲本中学校設立の時期です。二つ目が、明治36年、同じく現在の洲本高等学校のもう一つの前身に当たる旧制県立淡路高等女学校が、県下で2番目の県立高等女学校として生まれた時です。
三つ目の運動が、今、みなさんが学ぶ洲本高等学校の定時制の課程設置の運動です。太平洋戦争後の昭和23(1948)年1月、「働く青年のために夜間学校をつくろうという」というポスターが、洲本市内いたるところの電柱や家々に貼り巡らされました。「洲本市夜間高校期成同盟」に集まった15歳から20歳にも満たない少年たちの「学ぶこと」に対する真摯でひたむきな魂の叫びの運動です。それは「学びたい」、しかし、もろもろの事情で働かなければならない。そういう少年たちの「学び」に対する渇望の声、「学ぶこと」のすばらしさを知る者の真摯な叫びでした。
この運動では市内全域にわたって行った各戸訪問で、短期間の間に約5,000人の署名が集まり、それを洲本市長に提出しました。6月には洲本市の全面支援のもと、洲本市立幼稚園を間借りして、「夜間高校準備教育」が始まりました。記録では6月25日から9月25日まで授業を行っていたとあります。まだ正式に定時制が発足する一ヶ月も前の話です。
「働き学ぶ少年たちの運動が、定時制高校を創設する原動力となった学校は全国でも他に類がない。本校定時制の誇りである」(『世紀を超えて 洲本中・淡路高女・洲本高100年の軌跡』)という話です。
こうして、君たちが学ぶ県立洲本高等学校定時制の課程は、すべて学ぶことの大切さ、すばらしさとはどういうものかということを、身をもって知っている者自身の、心の奥底から押さえようとして押さえうることができない欲求・衝動で始まったのです。
与えられた環境の中で、なんとかして学びたい、新しい知識を身につけたいとして、既知の知識を利用して、未知のものに果敢に挑戦していく姿勢こそ「学び」の本質です。試験に受かりたいから学ぶ、資格を取りたいから学ぶ、誰かに賞賛されたいから学ぶ。それらも学ぶ動機の一つでしょう。私は否定しません。
しかし、それらの「○○のために」という「目的」から自由な「学び」こそ、「学ぶこと」の本来の在り方であると私は思っています。何かの目的のために、前へ、前へ前のめりに駆り立てられていくものは、本来の「学び」ではありません。その一方で、そういう時期を過ごさないと「学び」の本質を体得できないのかも知れません。そういう意味で、まだ正式に学校が設立する前から、洲本市が提供してくれた私立幼稚園に間借りしながらはじまった学校に通い続けた皆さんの先輩たちは、高等学校に入学する前から、多くの人たちが高等学校に入学して一つ一つの授業をとおして修得する「学ぶこと」の本質を、修得していたといえます。なんと素晴らしいことではないですか。それが、皆さんが今通っている洲本高等学校の定時制なのです。
県立洲本高等学校定時制の課程の66年の歴史と伝統は、昭和23(1948)年1月、「洲本市夜間高校期成同盟」に集まった十五歳から二十歳にも満たない少年たちの、「学ぶこと」に対する真摯でひたむきな魂の叫びと努力の上に成り立っていることを忘れてはなりません。
過去を知らずして現在を語ることはできません。そして、未来を語ることは現在を生きることです。今日ここに集う私たち、もちろん先生も生徒も含めて私たちはひとしく洲本高等学校の同窓であります。「同窓」とは、同じ学校で学び、同じ師から教えを受けたことを意味します。その「学び」や「教え」は、今、現在の「学び」や「教え」だけではなく、かつてこの学校で行われていた「学び」や「教え」であり、これからもこの学校で行われるであろう「学び」や「教え」であります。それを体現しているのが校訓の「至誠・勤勉・自治・親和」です。この校訓こそ「洲高」の根底に流れている精神なのです。
今日は、本校の「歴史」と「伝統」、そして「誇り」の一端について話をしました。本校の「歴史」と「伝統」、そして「誇り」について今一度確認する。創立記念日とはそういう日です。そして、今日から、私や教職員そして生徒が一丸となって、創立以来営々と築かれてきた本校教育の殿堂に「黄金の釘」を打ち加えていきましょう。応援歌に歌う「築け洲高の定時制」とはそういう意味です。今日は高らかに心を込めて一緒に歌いましょう。
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