この甲冑は19世紀に制作された復古調の胴丸です。胴は右脇で引き合わせ、草摺(くさずり)は8間、胸部には杏葉(ぎょうよう)がつけられるなど、胴丸としての特徴を模して制作されています。大袖と胴の威毛(おどしげ)は上から白・青・紺と順に濃くなる色使いで、こうした下方へ行くにつれて色目を次第に濃く変えていく威し方を裾濃威(すそごおどし)と呼んでいます。この甲冑は、威毛が紺色へと濃くなっていく裾濃威で、本式の小札(こざね)を用いて制作された胴丸なので「紺裾濃威本小札胴丸」という名称になります。
また、兜は星兜で、鉢が全体で22枚の鉄板を繋ぎ合わせて作られているので「二十二間星兜」という名称になります。
兜の吹返(ふきかえし)や杏葉の据文(すえもん)金物に肥前国蓮池(佐賀県)藩主蓮池鍋島家、もしくは同国鹿島藩主鹿島鍋島家の家紋である花杏葉紋が据えられており、このいずれかの家の旧蔵品ではないかと推定されます。兜の鍬形台や(しころ)、面頬(めんぽう)の垂(たれ)、大袖、草摺の裾などには、枝菊文の飾り金物がふんだんに付けられており、大名道具としての豪華さがうかがえます。
なお、この胴丸に付属している垂付の面頬や佩楯(はいだて)は、江戸時代的な特徴を示しており、胴丸が盛んに用いられた南北朝・室町時代ごろの形式とは異なっています。