sleipnir presents  cross

 第三章  『シャーウッド!』

 

エクスカリバーに持ち主として選ばれ、ベルに捕まった僕は、

とりあえずノーブルガーデンへの旅を続けながら

という条件で妥協したのだった。(途中で撒く予定)

「それじゃ勇者の旅の始まりよ!」

夢に向かって暴走を続けるベルであった……。

「まずは旅の基本! 酒場で情報収集よ!」

「まだ昼間ですよ?」

「バカッ! 誰が飲むって行ったのよ!?」

「そうですか? それならいいんですけどね。」

「むぅ、信じてないわね? まぁいいわ。さっさと行くわよ!」 

 

「…それでね、この剣が言うんですよ、災いの主を討てとか何とかって……。

 僕は勇者だぁ〜! …ふぃ〜」

「はははは、そりゃいいや、勇者サマの再来だ?」

「ちょっとー、ゼフ? お酒なんか飲んでる場合じゃないでしょ?」

ゼフったらあんなこと言っといて、自分で飲んでりゃ世話無いわよ!

牧師のくせにビアダル2本も空けちゃうなんて、とんだうわばみだわ!

まったく、これじゃ情報収集どころじゃ無いわよ!

「ゼフってば! 行くわよ!?」

「まぁまぁそう言わずに、ベルも飲んだ飲んだ。」

「きゃっ。」

ゼフが無理やりジョッキの中身を流し込む。

あっあぁぁぁ……。

ベルの顔が紅くなり、パタリと倒れる。

「あっはっはっはっ。ベルお酒飲めないんですか?」

こうしてゼフはその後更に4本のたるを空けたのだった……。

 

――チ、チチチ……。

「う、うぅぅ〜ん」

あったまいったぁ〜い。

まったくゼフったら、無理やり飲ませるなんて何考えてるのよ!

許さないんだから!!

揺れる頭を抱えながら、手探りで愛用のハンマーを探していると、何やら柔らかいものが。

……イヤンな予感。

恐る恐る振り返ると……。

「い、い、嫌ああぁぁぁ〜!

ズドォーン! バキィ!! グシャ!!! プチ♪

宿の床を、壁を撃ち抜き、宿の表通りにはボロ雑巾の如くとなったゼフが転がっていた。

こうしてゼフが回復するまで、更に三日間をこの宿で過ごすこととなったのだった…。

しかしこれで生きていたのだから、ゼフの生命力も大した物である。

「まったく! 信じらんない!! ホントに何もしてないでしょうね?」

道中まだ怒りの冷め遣らないベルは、ぶつぶつとグチをこぼし続けていた。

「だから誤解ですってば!

 ベルを部屋に運んだ後で、そのまま酔いつぶれたんですよ!」

まったくもって不覚だった。まさか酔いつぶれてしまうとは……。

でも、ああは言ったものの、僕も記憶が無かったりするのだが……。

まぁいっか。

「さぁ、そんなことより早く先へ進みましょう。ね?」

「むぅ……とにかく! 

今回だけは許してあげるけど、今度こんなことがあったら本気で殺すわよ?」

「肝に銘じておきます…」

ベルなら間違いなく殺すだろう……と言うより、

今回のが手加減していたという事実の方が恐ろしい気もするが……。

ベルに勇者になろうなんて夢が無かったら恐らく今ごろあの世行きだったと思い、ゾッとするのだった。

 

こうして一日歩き続けて、『シャーウッドの森』に着いた頃には、もう夜中だった。

シャーウッドの森は、元々ウィンダム王国の所有林だったのだが、

人魔大戦後はすっかり忘れ去られ、手入れも何もされていない。

ここを越えると港町があり、そこから神聖龍の背へ向かう定期船に乗る算段になっている。

 

「どうやら今日はここで野宿になりそうですね。」

「いいわね? この線から入ってこないでよ!」

振り向くとなにやら木の枝でガリガリと線を引いているのが見えた。

「はいはい、解ってますよ。」

やれやれ、どうやら完全に嫌われたみたいだね。

とにかく夜も遅い事だし、今夜はもう寝るとしよう。

 

 

眠りに就いてすぐに気配を感じた。

「1,2,3,…野党が5,6人といったところか。

 ベルは……ぐっすりとお休み中。」

まぁこの位なら、自分ひとりで十分だ。

― ヒュッ ― 

暗闇を突き抜け何かが飛んできた。

ズドォッ

僕の頬を掠め、背後の木に突き立っていたのは“矢”だった。

「試練に挑むものよ! 我が試練に見事打ち勝ってみよ!

 ただし! もし、それが叶わぬときは、そなたの命無いものと思え!」

凛とした声が響く。どうやら、ただの野党という訳でも無さそうだ。

油断無く、周りを見回しながら後ろに下がる。

と、背後に殺気を感じた。

「入っちゃダメだって言ったでしょ〜!?」

飛んできたのは矢ではなく、ハンマーだった。ベル!?

「それどころじゃありませんよ! 敵襲です!」

ハンマーをかわしながら叫ぶ。

なんでそばで戦ってても起きないのに、こんな時だけすぐ起きるんだ?

「敵?」

ベルが構えなおす。周りを油断無く見回す。

「そこだぁー!!」

ベルが右に飛ぶ。ハンマーが敵を襲う。いつものパターン。

やれやれこれで終わったなと思い、寝る準備をする。

…が、さっと避けられた。

ベルのハンマーは、決して遅い事は無い。

いや、むしろあのハンマーを操っていることを考えれば、驚異的と言える速さだ。

それだけに、僕も、そして何よりベル自身が一番驚いていた。

“ザザァ” 

下から網が飛び出して来る。

「何よこれ〜!? ちょっとゼフ、何とかしなさい!!」

ベルは一人、網の中でもがいている。

なんとも古典的な罠にかかったもんだ。

相手は木の枝を縫うように飛び交っている。

とりあえず動きを止めないとな…。

魔術式を組み上げようとすると、周りから無数の矢が飛んでくる。

緩急を付け、時間差射撃や一斉射撃など、よく訓練された動きで、

木々の間を縫うように動きながら、絶え間なく矢を射掛けてくる。

ただ、気になるのが、矢を射かける瞬間、気配が2,3消えるのだ。

クッ、とりあえずこの矢をどうにかしないと……。

矢をかわしながらエクスカリバーを拾い上げる。

「力を貸してもらいますよ!」

剣を一閃する。

刹那エクスカリバーより一条の光がほとばしり周囲の木々をなぎ倒す。

さすがに聖剣の名は伊達じゃないという事だ。

飛び移る道を失い、野党の動きが心持ち鈍くなる。

気のせいか野党の数が減ったような気もするが、恐らく倒木の下敷きにでもなったのだろう。

とにかく僕は、このチャンスを逃さなかった。

魔術式を組み上げる。

土属性上級二位魔術『グラビティフィールド』

周囲の重力場が変動する。

絶え間なく変動する重力場では、飛び回る事はおろか、立っている事すら難しい。

殺傷能力こそ無いものの、これを使えば重武装の一個大隊でも苦も無く倒す事が出きる。

ちょうど空中で地震が起こっているような感じを想像してもらえればいい。

「きゃあ。」

敵は木の枝を飛び移ろうとしていたところでバランスを崩し落ちてきた

「いったぁい。」

目が合った。

なんと、相手は少女だった。

歳は14歳ぐらい。

しかも背中には白い翼が生えていた。神属の者だろうか。

どちらにせよ、野党としては余りにも不釣合いだった。

彼女はきっと僕を睨みつけ、後ろに飛びのこうとしたが、重力場に足を取られ転ぶ。

「…あなたは一体?」

「くっ、まだまだぁ!」

苦し紛れに矢を放つが、グラビティフィールドの中で飛び道具など何の役にも立たない。

…と、思っていたら凄まじいスピードの矢が一直線にこちらに飛んできた。

とっさにかわす。

この零距離射撃を避けるなんて、僕って天才?

しかし、この重力場を無視した弓、彼女は一体……。

と、彼女が二発目を装填しようとしていたのを慌てて止める。

ふと気づくと周囲にはもうほかの野党はいない。

どうやら彼女だけ見捨てられたらしい。

なんとも薄情な連中だ。

彼女がふっと笑った。

「あたしの負けです。改めてはじめまして、2代目精霊弓の射手よ。

 私の名はミスティカ=ガーデナー。精霊弓の護人です。」

彼女はすっと立ち上がる。殺気はもう感じられない。グラビティフィールドを解く。

「それでは付いて来て下さい。これより譲渡の儀式を行います。」

「譲渡の儀式? 何の話ですか?」

「あなた達は、精霊弓を求めてやって来たのでしょう?

 そして護人の試練に打ち勝ったわけですから、精霊弓はあなた達の物です。」

「精霊弓? シャーウッドがここに?」

「え? じゃあ知らないで戦ってたんですか?」

「知らないも何も。あなたが勝手に勝負を挑んできただけですから……。

 てっきり野党か何かだと思ってましたよ。」

「………へ?」

…何で僕の近くには、こんな連中しか集まらないのかと思うと、めまいがしてきた。

「そんなぁ、それじゃ、あたしはどうすればいいんですか?

 あぁ、もう、とにかく精霊弓だけでも受け取ってください。

 でないとあたし、アルテミス様に怒られちゃいますぅ〜。」

話し方変わっとるがな。

「そうは言われても、僕もベルも弓なんて使いませんし…ねぇ?」

「それはいいから、早く降ろしてよ!」

「…あっ。」

ベルはまだ網の中でもがいていた……。

 

「ふぅ、ゼフってば私のこと忘れてたでしょう? まったく……で?

 精霊弓をくれるって? いいじゃない、貰っときなさいよ?

 いい値で売れるんじゃない?」

「あぁ、それもそうですね。」

「ちょっと待ってください! 精霊弓を売るつもりですか?」

すかさず、ミスティカが抗議の声をあげる。

「別に貰ったものをどうしようと勝手でしょ?」

「そうはいきませんよ! 

 何のために今まで、こんなところで守護してきたと思ってるんですか?」

そりゃそうだ。

こんな何も無い森の中で、ずっと護ってきた物が店先に並んでたりしたら、やってられないだろう。

「わかったわよ。売らなきゃいいんでしょ?」

「わかってくれましたか?」

少女の目が期待に輝く。

「いらない。」

「へ?」

「売り物にもならない上に、使い道の無い物なんていらないもの。」

「そんなぁ! あたしを見捨てないでぇ〜。」

泣きながら訴える。ちょっとかわいそうかも。

「だってあなた、私を網にかけてくれちゃったりしたんだもんねぇ?」

「すみません! ごめんなさい! あやまります! この通りです!

 なんでもしますから、どうか許してください!!」

うーむ、アルテミス様とやらはよっぽど恐いらしい。

「まぁいいじゃないですか。弓の一本ぐらい。」

「ゼフがそう言うんだったらいいけど、ゼフが持ちなさいよ?」

「はいはい、わかりましたよ。」

「それじゃ、貰ってくれるんですね?」

「まぁ、一応ね……。」

「ありがとうございます! じゃあ、これなんですけど……。」

そう言ってミスティカが、どこからとも無く弓を取り出す。

それは、全長2mはありそうな大弓だった。

……時間が止まる……

「さぁ、もう夜が明けてきた事ですし、行きましょうか!」

スタスタと歩いていく僕とベル。

「あぁっちょっと! 待ってくださいよ〜! 

 受け取ってくれるんじゃなかったんですかぁ〜〜〜!?」

シャーウッドの森の夜はこうして明けるのだった……。

 

第三章『シャーウッド!』完

 

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