sleipnir presents
cross第二章
『エクスカリバー!』
…と言う訳で、エクスカリバー奪還に協力する羽目になった僕であった。
「ところで、あの聖剣はどこで手に入れたんですか?」
「あぁ、精霊の洞窟って知ってる? あのエクスカリバーの材料、アルトマテリアルを採った洞窟でね。
そこに封印されてたの。」
「封印って…、まさか聖剣の封印を解いたんですか!?」
「ううん、解けなかったから聖剣の刺さってた台座ごと実力行使でぶっこ抜きよ!
だから、まだ封印されたままなのよね〜。」
「そ、そうですか…。(さすがと言うかなんと言うか)
しかしなんでまたそこまでして聖剣にこだわるんですか?
やっぱり御祖父さんの…。」
「私の夢はずばり勇者! 伝説の裏方じゃなくて桧舞台に立ちたいのよ!」
「はぁ。」
夢見る乙女はかまわないけど、またずいぶんと勇ましい夢だこと……。
「そのためにもエクスカリバーを使いこなせる人を探して魔王を倒すのよ!
やっぱり勇者といったら剣よね!」
勇者になって魔王を倒す、か……。
「しかし肝心の魔王は人魔大戦で死んだはずですが?」
……………長い沈黙…………………………
「あっはっはっは、まぁなんとかなるわよ!」
「顔…引きつってますよ?」
「と、とにかく! エクスカリバーを探すのよ! 魔王ぐらいどうにかなるわよ!」
ふぅ、ベルに論理的な話をしても無駄か……。
その後、街の人に聞き込みをした訳だが、これがなかなか大変だったんだ。
みんな僕らの顔を見るや否や逃げ出すもんだから、ろくに情報も集まらない。
しまいにゃ怒ったベルが、半ば脅迫しながら情報収集する始末……。
ホントに勇者目指してるのか?
まぁそんなこんなでようやく有力な情報が手に入った。
情報によるとストリートチルドレンは、街のはずれにあるゴミ処理場付近の洞窟で、
手に入れた盗品を闇商人に売り渡しているらしい。
「さぁ、場所がわかればこっちのもんよ! ゼフ! 突入よ!!」
「…やっぱり僕も行かなきゃダメですか?」
「なに言ってんのよ、当然でしょ!」
そう言って僕の腕を掴むと、恐ろしい程のスピードで走り出す。
僕は疾走するベルの後ろで、吹流しのようにたなびいていた。
と、前方に銀行か市庁舎だろうか、かなり大きく頑丈そうな建物が見えた。
が、ベルは一向に減速する気配を見せない。
「え? ちょ、ば、止ま、や、ぅわ、」
見る見る壁が近づき、遂には視界いっぱいに壁が広がる。
そしてベルは、進行方向をジャスト90度変針。そして……
「うっきゃぁぁ〜〜〜!」
ゴイィィ〜〜〜〜〜ン
人外の絶叫に続き鈍い音が響く。
が、ベルは知ってか知らずかそのまま走りつづける。
時折鈍い音を響かせながら………。
かくして数分後、街のはずれにあるゴミ処理場についた。
「さぁ、ここね! 行くわよ、ゼフ! 準備はいいわね?」
そのころ僕は、川岸の花畑で妖精さん達と追いかけっこをしていた。
「あら? ちょっとゼフ!? しっかりしなさいよ!!」
そう言って僕の体を揺する…。
…ユサユサ…ガクガク…ブンブン…
(へ? 何だ? ブンブンって?)
「うわぁぁぁ!???」
目が醒めた時、僕は空を飛んでいた。…正確に言うとベルに振り回されていた。
「あ、やっと気がついた。」
ドサリと僕を落とす。
「何てことするんですか!
目が醒めたとたんに、また別世界に行くとこでしたよ!?」
「何言ってんのよ? 起こしてあげたのに文句いわれる筋合いは無いわよ!」
……ベルに逆らうとろくなことにならない、この数日でそのことは痛いほど思い知った。
そう、痛いほどに……こうなったらさっさとエクスカリバーを取り返しておさらばしよう。
「じゃあ早くエクスカリバーを取り返しに行きましょう!」
「あらっずいぶん乗り気ね? どうしたの?」
「いえ、別に何もありませんよ!」
「そう? まぁいいわ! 突入よ!!」
そこには数人のストリートチルドレンと闇商人、その護衛と思しき連中がいた。
護衛の連中が侵入者(ベル)を止めようとする。
しかし、怒れるベルを止められる者などこの世に存在しない。
ハンマー片手に思うさま暴れまわった後、ベルは盗品の山を調べ始めた。
ところで別に僕はいなくても良かったのでは……?
「あったぁ〜!」
どうやら見つかったらしい。
良かった、良かった。
「それでは、エクスカリバーも見つかったことですし、僕はこれで……。」
「あぁ、アリガトね、もう行っていいわよ。」
ぃやったぁ!
と、心の中でガッツポーズを取りながら立ち去ろうとすると、
不意に背後から、いや、正確に言う、と僕の頭の中から声が聞こえた。
『黒き者よ…力を求めし者よ…我が声に耳を傾けよ…我は聖剣エクスカリバー…
汝、我を取りて災いの主を討て…さすれば我が力貸し与えようぞ…。』
振り向くとエクスカリバーが青い光を発しながら浮かんでいた。
と、刹那光が弾けた。周りを目もくらむような光が包む。
光の洪水が収まった後、そこには封印の解けた『聖剣エクスカリバー』があった。
僕が聖剣の主? はっ、なんとも皮肉なもんだな……。
「何? 何だったの、今の!? エクスカリバーの封印も解けちゃってるみたいだし…!」
「? 今の話、聞こえてなかったんですか?」
「何? 話って? 何の事よ!?」
「いや、実はさっきですね…。」
さっきのエクスカリバーの話を、聞いた通りにベルに話した。
「ええぇぇ〜〜〜!? って事は………。」
ベルが何やらぶつぶつと一人会議を始めた。
ふと数時間前の会話を思い出した。
やばい! そーっと洞窟を後にしようとするが…。
その努力は無駄に終わった。がしっと腕を捕まれる。
「ふふっふ〜…まさかゼフがね〜。」
ああっもうダメだ〜! 目が輝いてる〜!!
「さぁ! これからはしっかり頑張ってもらうわよ、勇者さまっ?」
「いやああぁぁぁぁ………。」
夕日に染まるゴミの山を背景に僕の絶叫が響くのだった…
第二章「エクスカリバー!」完
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