sleipnir presents
cross第一章
『ハンマー! ハンマー!!』
「待
ち な さ 〜〜〜〜〜 い!」
昼下がりの商店街。
商人の呼びかけも通行人の雑踏も霞んで聞こえそうな大音声。
通行人も商人も、サボって昼寝していた巡回兵も驚き振り向くその先から、
ストリートチルドレンらしき子供が、何やら布に包まれた剣らしきものを持って走って来る。
(あれは…なかなかどうしてたいした剣じゃないか)
見る者が見れば、布の上からでもはっきりと分かるその剣気に強く惹かれた。
ストリートチルドレンが僕の脇をすり抜けようとしたところを、ちょうど猫の首を掴むように持ち上げた。
「うわっ!? はっ、離せっ!!」
なおも騒ぎ続けるのを無視して振り向くと、剣の持ち主らしき人が凄まじいスピードで走ってきた。
そして………
「あんたが親玉ねっ!?」
そう言うやいなやブンッと大上段に構える。
−殺気が走った−
とっさに後ろに飛び退く。
ズゴーーーーーーーーーーーーーーォン!
巻き上がる砂埃の隙間から見えたのは、ついさっきまで立っていた場所に開いた巨大なクレーターだった。
(メテオストライク? けど人間にそんな高度な魔法が使える訳が…)
“
ボッ”舞い上がる砂埃を突き破り、思考にふけっていたところに2撃目が繰り出された。完全に不意を突かれた。
よけられない!
とっさに斥力防御壁(アンチフォースシールド)を張るが、それでも耐えきれずに数m吹き飛ばされる。
このままじゃまずい! 油断無く身構える。
刹那一陣の風が吹いた。
砂埃が消え、僕は驚きのあまり声を無くした。
そこにいたのは銀髪の、16,7歳位の女性だった。
そして、それより驚いたのは彼女が操っていたのは魔法ではなく、破砕鉄槌(スレッジハンマー)だった。
それも女性が、いや、並みの男性でも持ち上げることすら困難と思われる程、巨大でかつ重厚なものだ。
不意に彼女が告げた。
「剣を返しなさい、そうすれば命だけは助けてあげる。」
「わ、私はこの少年を捕まえただけで…、あっ!?」
例のストリートチルドレンは、この騒ぎの中さっさと逃げてしまったようだ。しっかり剣を持って…
「そう、あくまでしらをきろうってのね? ならいいわ。力ずくでも返してもらうんだから!!」
やっぱり何か勘違いしている。
そう言うなりハンマーを振り上げる。
「話せばわかる!」
「問答無用!」
っだぁぁ! とにかく鎮めなきゃ話もできない。
振り回されるハンマーは、重量と遠心力が加わり、まともに一撃食らえば普通の人間なら間違い無く即死だろう。
飛び交うハンマーを掻い潜りながら背後に回りこみ、背中にスパークを叩き込む。
彼女の動きが止まる。
「ふう、とりあえずこれで良し、っと…。」
汗をぬぐいながら、これからどうしようかと考えていると、
“ゆらり” 悪寒が走った。
「やってくれるじゃない? こうなったらこっちも本気で行くわよ!」
「そんな馬鹿な〜!!?」
スパークは最下位雷撃系魔法だが、零距離射撃でお見舞いすれば魔法耐性のある者でも
しばらくは動けないはずである。
しかし、現に彼女は立ち上がっている。
そしてさっきの一撃で完全に怒っているようだ。
こうして2人の闘いは日が落ちるまで続いたのだった………。
「っええ〜〜〜〜〜!? あなたあのガキと関係なかったの〜〜〜〜!!??」
「そうですよ! それなのにあなたと来たら話も聞かずに…。」
「何でそう言うことを早く言わないのよ!?」
「言いましたよ! あなたが聞こうとしなかったんじゃないですか!」
「聞こえなかったら言ってないのといっしょじゃない! どうしてくれるのよ!
エクスカリバー持ってかれちゃったじゃない!!」
「ちょっと待ってください! エクスカリバー!? あの聖剣のことですか?」
おほん と小さく咳払いして、彼女は大きく身を乗り出す。
「そうよ! あれこそが我が祖父ギースの造りし神器! 聖剣エクスカリバーよ!!」
何かすっごく自慢気…。しかし、彼女がギースの孫娘?
まぁそれならあの馬鹿力も納得いくが…。
「ともかく! エクスカリバーを取り返すの手伝ってもらうわよ?」
「ちょっと待ってくださいよ! なんで僕が手伝わなきゃならないんですか?」
「嫌なの?」
ハンマーを握る手に力がこもる。
彼女の後ろには、さながら月面のように変わり果てた道路と、
闘いを止めに入り、彼女の鉄拳制裁(制裁?)を受けてのびている巡回兵がいた…。
「いいえ…お手伝いさせていただきます…。」
半ば泣きそうになりながら、と言うより、もはや泣きながら承諾したのだった…。
「分かればいいのよ♪」
そうい言って彼女は笑った、本当に無邪気に…。
「そうそう、名前聞いてなかったわね? あなたなんて言うの?」
「…ゼフ。ゼフ=ハブレツと言います。」
「そう、ゼフね? 私はベルブロンド=ハワードって言うの。ベルでいいわよ。」
こうして僕は、彼女とエクスカリバーを探す羽目になったのだった…。
第一章『ハンマー!ハンマー!!』完
第二章
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