第三章 メールアドレス
あれから私は何度も鏡を見つめただろう。 家で、自分の部屋で、学校の手洗い場で、街のショーウィンドウ。 日曜日の今日もそうだった。 自分の部屋で机の上に鏡を置いて、何度見てみても小さい目と大きな口。 お世辞でも高いとは言えない鼻。そして極めつけは日に焼けた真っ黒な肌。 窓から差し込む光に照らされながら自分で自分を確認するたびに泣きたくなる。 「どうしてこうも違うんだろう…。神様は不公平だ…」 あの子の大きな目、小さな口、高い鼻、そして透き通るような白い肌。 そう、彗くんと親しげだったあの子だ。 あのシーンを思い出すたびに胸が締め付けられる。 部室の前でユニフォーム姿の彗くんと女の子。 サラサラの長い髪を揺らしながら微笑む女の子。 それにつられて笑顔の彗くん。それを見て私が走り去ったことなんて気付いてないだろうな。 あの時から返せない生徒手帳。私の机の引出しに眠っている。 取り出そうとするたびに「おまえには何の望みもない」って言われているみたいでイヤになる。 あの女の子とはどういう関係なんだろう?ただの友達?それとも…? 「バンッ!!」 自分でも驚くほどの力で机を叩いて、私は立ち上がった。「もう、や〜めた。何でわたしがこんなに悩まなあかんねん。このことは忘れよう」 自分に言い聞かせるように大きな声でそう言って私は自分の部屋を出た。 その日から私はとにかく何でも楽しんだ。 友達とも思いっきり遊んだし、勉強もある程度(?)頑張った。 彼と、そして一緒にいた女の子を忘れるために…。がむしゃらに…。 そんな時、彼は野球に力を注いでいた。 夏になり念願の甲子園に目指しての試合が始まった。 苦しいながらも一つ一つ勝利を重ね上がっていった。 けど惜しくも準優勝。甲子園の夢はむなしく消えていった…。 そして彼の野球生活は静かに幕を下ろした。 学校も最大のイベント体育祭、文化祭も始まり、賑やかになってきた。 もちろん私はステージで踊ったり、走ったり、屋台の呼び込みをしたり。 とにかく力尽きるまで頑張った。 雪はこんな風に楽しそうに振舞っている空の事が気になってしょうがなかった。 何事にも頑張って彼の事を忘れようとしているが、実はまだ好きではないか? もしかしてそれ以上に気になっているのではないか?雪は自分のことのように…。 (私が空を助けないとなぁ…。けどおせっかいだろうか…?でも何が出来るだろうか?) などと空を傷付けないように考え悩んでいた。そんな雪を空は知らない。 そんなある日雪はお兄ちゃんがお風呂に入っている隙に部屋に侵入した。何か手がかりがないかな…? お兄ちゃんの友達だからな。けどやっぱ無理かな?どうしよっかな〜? 諦めかけたその時お兄ちゃんの机の上にあるケイタイに気付いた。 きっとあるはず彼のメールアドレスが…。 もちろん雪はその番号をケイタイから盗んだ。 これで少しは空も楽になるだろうな…。いや、なってほしい。 そんなことを思いながらお兄ちゃんの部屋を出た。 このことをお兄ちゃんは知らない。 ![]() |