第二話 村井 雅斗
「・・・潤平、かおりだけど・・・。今いい?」 声の主、高橋かおりは小さいときからの友達で、うちの部のマネージャーをやっている。 献身的でよく動き、気の強いところもあるが部員のことをいつも気にかけている。 同い年ということもあって話しやすく、 前に落ち込んだ時にもこうして電話をくれた。 「・・・あのね、今日のことなんだけど・・」 いつもは心を許して話せるはずのかおりだが、しかし・・・・ 「ごめん・・・・今一人になりたいんだ・・・。」 時間が惜しいわけでもない。ただ、今はかおりの言葉も音にしか聞こえないと思った。 仕方の無いことだ、もう決まったことだという思いと、今までの自分が頭の中で交錯する。 (一体何がいけなかったんだろう・・・。これ以上何をすればいいんだろう・・・。) 「・・・・」 電話の向こうで言葉を探しているのがわかる。 少しの間があって、 「・・・じゃ、明日一緒に帰ろう。話したいことがあるの・・・。急にごめんね。・・・じゃ、おやすみ。」 そこまで言って切れた。 天井を見つめたまま時間が流れていく。 だるそうに針を動かす時計の音だけが静かに鳴っていた。 |
翌日。 机にもたれたまま授業にも身が入らない。たまにシャーペンを回してみるが、何が起こるわけでもなく、気が付けばため息ばかりこぼしている。 (俺の何が足りなかったんだろう・・・・) 予報では確か雨が降ると言われていたが、依然晴れたままで曇るようすなどない。 体育のクラスだろうか、窓の外から聞こえる話し声が、やけに楽しそうに聞こえる。 「きりーつ、礼。ありがとうございましたー。」 急に教室が騒がしくなる。 しばらくすると、あまり顔を合わせたくない相手が近づいて来た。部活仲間の雅斗だ。 「じゅんぺー。物理持っとるー?貸してくれー。」 少し関東口調が混じった関西弁の雅斗は、小6の時にこの近所に引っ越してきたらしい。 明るくポジティブな性格で面倒見が良く、アドバイスをしてくれたり、居残って練習をするといつも付き合ってくれたりした。バネがありよく跳ぶ上、バレーをやらせばセンスが光り、雅斗のスパイクを見た女子が黄色い声援を送るのも、十分理解できるほどだった。 「・・・おまえか。持ってるよ。今終わったとこ。」重い頭を持ち上げながら言うと、 「・・・・なんや、ぼーっとして。・・・メンバー、入れらんかったことか?」 思いのほかストレートに聞いてくる雅人に自然と視線が下がる。 「ん〜。しゃーないって、うち部員多いし。ベンチやって12個しかないんやから、な。」 「・・・って、そのうちの一個はおまえだろ?いいよな、毎回試合に出れて。俺なんか・・・」 「そう僻むなって。マネさん、心配してたで。高橋さんなんか昨日ずっと気にしとったし。・・・大丈夫やって。前向きにいかんか。最近伸びてきとるし次はメンバー入れるって。 あ、ヤバイ!次、移動教室や!!ほな行くな。」 教科書をつかんで行きかけたそのとき、 「あ!メール見たか!?まだ!?昨日めっちゃ苦労して書いてんから見たってよ!」 急に言われて少し戸惑ったが、 「おう、帰ったら見とく。」 そう言うと屈託のない笑顔見せ、走り去っていった。 (相変わらずあわただしい奴・・・。) ふと笑顔になる。 雅人のノリの良い明るい関西弁に、気持ちが和んでいた。 第3話に続く |