第五話 メール

 

雅斗が怪我をした。
 レギュラー同士の乱闘があったらしい。唐突な話で俺も聞いた時は耳を疑った。
何があったのかと理由を聞いても、かおりはなかなか言おうとしなかったが、しかし、ようやく問いただした俺は、そのワケを理解した。
俺がいなくなったあと広瀬が俺に対して不平を言ったそうだ。だが、こんなに堕落した俺だ、非難の言葉もあって当然だと思う。雅斗も最初は、そんなことないと穏やかに示唆していたみたいだが・・・・。
 かおりは二人を止められなかったことが、まるで自分の責任であるかのように悔やんでいた。
 どんな台詞が飛び交いどんな状況だったのか、何も明確なことはわからないが、乱闘自体はすぐにおさまり、広瀬も二人を止めに入った奴も大した怪我をせずにすんだらしい。
 しかし、雅斗は・・・・雅斗は右手を骨折。もちろん、試合には出られない。

かおりとの電話を切った後、何がどうなったのか冷静に理解するまで少しの時間を要した。
 聞こえてくるもの、時計、雨音、ただ一定のリズムを延々と繰り返しているだけ。いつもと同じ変哲のない手。鏡をのぞいても、映るのはいつもとかわらない俺。ただ絶対的に違うものがあった。頭がクリアになるにつれて、だんだん落ち着かなくなっていく。自分で作り出した圧力に息が詰まる。
 そんな時、ふとパソコンに目が留まった。
"あ!メール見たか!?まだ!?昨日めっちゃ苦労して書いてんから見たってよ!"雅斗の言葉がよぎる。
 もう一週間以上開けていない受信箱。
 引き寄せられるように電源をつけた。

潤平

手紙とかホンマ苦手やからちゃんとした日本語になってないと思うけど、読んだってな。

今頃おまえは落ち込んでるんやろうな。
メンバー入れらんかったんは、悔しいと思う。今までめっちゃがんばっとったし、ホンマ悔しいと思う。俺も、今回は一緒にプレイできると思ってんけど、残念です。

今度の試合は、俺にとっては色んな意味で大事な試合やから全力で頑張りたいと思う。

俺な、試合するとき、いっつもおまえや試合に出れらん仲間のこと思うねん。
試合に出て勝つために、ずっと同じように練習してきてんのに、俺ら一部のメンバーしか試合に出れらん。時々憎らしいと思われてるやろうなって不安になんねんけど、でも皆はいつも喝入れてくれたり一緒になって闘ってくれる。ホンマはプレイしたいはずやのにな。
それ思ったら、どんな苦しい試合でも頑張れるねん。負け試合って分かっても諦めずにおれるんは、潤平たちがおるからやと思う。
仲間はホンマにありがたい。いっつも支えられてる。

この前の試合出れらんかったとき辞めたいとか言ってたけど、辞める気なんかないよな。
俺はおまえと、プレイしたい。

立ちすくむしかなかった。

雅斗・・・・・。俺・・・・・。
言い表せない熱いものがこみ上げてくる。涙が溢れていた。 

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