第6話 What is important?

 

 次の日の昼休み、監督から呼び出された俺は重い宣告を言い渡された。雅斗がぬけた試合メンバーの穴埋めに俺が入ることになったのだ。もちろん補欠中の補欠、試合に使ってくれるとは思わないが、それでもメンバーに入れたことに違いはなかった。
 あれだけ待ち望んでいた、初めて手にした試合への切符・・・こんな形でやってくるなんて・・・。本当だったら叫んで喜んだだろう。だが、複雑な気持ち以外何もなかった。

 雅斗の教室を覗いてみる。(居ない・・病院だろうか・・・。)と、そう思ったが、合わせる顔が無いことに気づく。
 俺は試合に出ていい人間じゃない。もう何日もバレーから離れていたんだ、今の俺にいいプレイなんかできそうに無い。もっと熱意のある奴がいるはずだ。いや、それ以前に雅 斗の後に入るなんておこまがしいにもほどがある。もとはといえば俺が・・・・。
(何で雅斗なんだ・・・?何で俺じゃないんだよ、・・・。)
 都合のいい自分に腹が立つ。

 その時だ、
「何つったっとんねん。なんや、相変わらず湿気た顔しとんなぁ。」
あまりにも普通の雅斗の登場に当惑する。
「っ、おまえ今日休みじゃなかったのか・・・?」
「おう、今来たとこ。」
 いつもと変わらない素振りで話す雅斗。だが、白く厳重に固められた右手がそこにはあった。
(やっぱり本当だったんだ・・・・。)
「雅斗、俺・・・」何かを言おうとしたそのとき、雅斗が遮った。
「広瀬、どない?様子。俺まだ会ってないんよな。昨日病院行っとる間に電話くれてたみたいで、何や謝罪の伝言らしきもん聞いてんけど・・・。変よなぁ、殴ったん俺やのに。」
 笑顔すら見せてくる。俺もどういう反応をすればいいのかわからない。
「おまけに沢村マネージャーまで謝ってきたし。何か広瀬も苦労しとったみたいやなぁ。まぁ何かおかしいとは思っててんよ、あいつよっぽどでないと荒れたりせんのに。にしてもええ彼女もっとるよなぁ、必死であいつのことフォローしようとすんねん。つーか俺の方が謝らなあかんのやけど。どうも顔合わせづらいんよなー。」
 いつもより口数が多い?一体どこまでが演技なんだ?わからない・・・。
「雅斗、・・あのさ、俺・・・」
「試合、出れるんやてな。さっき聞いた。良かったやん。」
一瞬言葉を無くす。 
「ベンチ入ったらカナリ燃えるでー。がんばってきぃや。俺も見に行くから。」
下を向いたまま黙ってしまう。そして、
「雅斗、・・・・ごめん・・な。」
雅斗の顔が曇った。
「・・・なんでお前が謝るねん。そんなんされたら困るわ。」
「あ、・・いや・・・」
「ほんまワケ分からんわ。」
ため息が聞こえる。俺もどうしていいのかわからない。だけど、
「雅斗は悔しくないのか?」
空気が強張る。
「・・・悔しくないと・・・思うか?」
(あ、・・・・)
雅斗が初めて顔を背けた。
 俺はまたバカな質問をしてしまったんだ。

 しばしの沈黙、そして、
「正直な話、俺、潤平がベンチ入ってくれて良かったと思うよ。潤平以外に入って欲しくなかったし。使ってもらえらんでもさ、あそこに居る時間、俺の分まで頑張ってくれよな。」

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