真夏の夜の幻影 (6/15)

作者:CROW

「はぁはぁ・・・。」俺こと瓜生の眼の前にいる杉沼は肩で荒い息をしていた。
額にはうっすら冷や汗のようなものも伺われる。
そして肝心の熊と言えば杉沼のカバンの中を器用にあさり、中の亀を食べている。
「・・・・要するに、腹が減っていたと?」俺は誰にともなくぼやく。
だが食い物の恨みほど恐ろしい物は無い、杉沼はゆらりと立ち上がり熊に言い放つ。
「くおらぁそこの熊!!人の食い物を食ってただで済むと思っとんか!!」
どなられて熊もやっと食事の手を止め杉沼に立ち会う。
しばしの沈黙が続いた。静かなる、高度な駆け引き?そんなすごい戦いな訳が無い。
二人はただ演出の為に立ってるようにも見えた。だが次の瞬間。
閃光が閃いた、そして二人の位置は完全に入れ替わっている。
(な!?何が起きた?)はっきり言って俺には何も見えなかった。が、
二人の息づかいと体に刻まれた小さな傷が一瞬の激しい攻防を物語っている。
(今さっきのこちらの13連撃をすべてさばき、背面取り後のトリプル凶器攻撃、
そして耳元での寒いギャグ攻撃と同時に行った虚(きょ)をついた18トンハンマー攻撃を
完全ガードとは・・・・この熊・・・強い!!!)
杉沼は今の一瞬を正確にそして冷静に分析していた。
恐らく熊もだろう・・・杉沼の行動にいきなり強い警戒をし始める。
そして杉沼もまた熊の意外な実力を眼の辺りにしてうかつに手を出せないでいた。
そして俺は微動だにせず、瞬(まばた)きすらせず、次の攻防の瞬間を見極めるために二人を凝視していた・・・。
そのまま睨(にら)み合うこと数十秒、短気な二人は同時に仕掛けた。
杉沼がダッシュと共に右手を突き出す。それがヒットするコンマ数秒前に熊は
体を傾け同時に杉沼の体を軸に杉沼の背後をとり、つづけざまに遠心力たっぷりの裏拳
を杉沼の脳天に打ち込む、それを杉沼は第六感のみで回避し倒れ掛かると見せて、
地面スレスレを走り一気に熊の左側面から8連撃をいれる。
それを熊は大きく跳躍してかわし、そのまま全重量を込めた体当たりを敢行する。
だが、杉沼もその瞬間を待っていた、どこからともなくハンマーをとりだし大きく
振りかぶる。「奥義!50トンハンマーストライク!!!」
野球の要領で腰の回転、腕の振り抜きなどの全ての力で振り上げられたハンマーに熊は直撃する。
黒曜石でできたハンマーに大きく亀裂が入りハンマーは砕け散る。
そして熊も倒れ地面に落ちる。
戦いは終わった・・・・そして杉沼は熊のもとへ歩み寄り、手を差し出す。
「俺のハンマーを砕いた奴はお前が初めてだ。」熊はその手を強く握り返す。
友情が人と動物の壁を越えた瞬間だった・・・・。

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