真夏の夜の幻影 (4/15)

作者:CROW

結城が仮厨房に入ってから、すでに1時間が経過した・・・。
いつもならもうとっくに珍妙な料理を山盛りに食卓へ持ってくるはずなのだが。
全く音沙汰が無い・・・。
さすがに東堂のこともあり気になって俺は仮厨房をのぞいて見た。
そこには、ただ湯あげされた亀の入ったザルが無造作に置かれていた。
そして結城の姿は無い・・・。
(俺としたことが同じミスを犯すとは、全くらしくない・・・。)
急いで湯あげされた亀を触ってみる、まだ熱は完全には引いていない。
ということは亀が湯あげされてから間も無いということだ。
=結城が消えてからそんな時間は経っていない、ということは。
急げばまだ結城を見つけられるかもしれないということだ。
俺はすぐさま辺りを見回す。
段々と暗くなってくる、それに時間を置けばどんどん結城を見つけづらくなる。
と、そのとき、俺の視界の片隅にやたらと草が踏み荒らされた跡、すなわちなにかが
森の中へ道のないところを歩いていった証拠を発見した。
テントの方の声を拾ってみると、どうやら瓜生達は遂に亀踊りを始めたようだ。
一度暴走を始めるとあの二人をしらふに戻すのは時間が掛かり過ぎる。
せっかく見つけた機会を逃すつもりは無い・・・・。
俺は何も準備せずそのまま荒れた森の道を走りだした。
森はもうかなりの時間のせいか暗い、幸い多少の月光が木々の間から夜道を
照らしてくれているためライトの光で十分に走ることができた。
だが、森に入って少ししたところで俺は急に何の根拠もなく違和感を感じた。
そう、まるで何かにつけまわされているような・・・・。
俺はもう何も思わずただ道を走ることと後ろを決して振り向かないことを決心した。
そして数分走ったところで俺は急に停止した。
体力がきれたこともあるがいきなり気配を感じたからだ。
がむしゃらに辺りを見回すとなんとおぼろげに人影が林の中に見えた。
最初ぎょっとしたが影は俺が凝視しているといきなり高速で道の先へと走りだした
(な!?まさか他にも人がいるのか!?)そう思うよりも先に足は勝手にその影を追って走りだした。
だが走っても走ってもその影には追いつけない、
こちらがペースを落としても速めてもその影との距離は変わらない。
そのとき一瞬影がこちらを向いて微笑んだ。
顔は見えなかったが女っぽい。そのとき俺はやっと気づいた。これは罠だということに・・・
そして俺の視界は真っ暗になり落下感と共に意識を失った・・・。

前のページCROWの小説へ次のページ