しかし安らかな死とは一体河でしょう。
死と言ってもこれは殺人です。
楽にしてやりたいからといって弟を殺す権利など喜助にはありませんし、
弟にだって、病が苦しいからといって生を放棄する権利はありません。
なぜそのようなことに庄兵衛は疑問を持つのだろう、殺人は絶対悪なのに
――そう信じる私は、この主張を受け入れてはならなかったのです。
絶対に共感できない主張。
これは私に高瀬舟から興味を失わせしめるのに充分でした。
何十年という年月を経てなお高く評価されるこの作品を
軽く読んだだけで理解しようという方が無理な話ですが、
読めば読むほどクエスチョンは増すばかり。
私はただ字面を追っただけで
『隔世の感は埋め難い』という先入観を築き上げてしまったのです。
ですが数年後、私はそれをもう一度読みます。なぜかはわかりません。
しかし安楽死という言葉は既に私の中で大きな位置を占めていました。
鴎外自身が死に瀕した娘を前にこの問題に直面したように、
私も死及び安楽死について
考えざるを得ない出来事に遭遇したからです。