化学教育兵庫サークル 第68号


研究会の内容

1.期日・場所・参加者

 第68回研究会は,平成13年12月14日(金)に行われた理化学会研究発表会に代えさせていただきました。

2.巻頭言

 化学を再構成しよう

兵庫県立御影高等学校  北川 英基    

 教育をめぐって議論が錯綜し、さまざまな「改革」が試みられようとしているが、その成否を最後に決定するのは、現場のあり方であろう。
 昨春から、理科を受験に必要としない3年生の選択者60名を相手に、特設科目「環境科学」を担当した。同僚の安岡先生から引き継いだものだ。この経験から教えられ
る事が非常に多かった。
 第1は、一緒に学ぶ姿勢を生徒と共有することの大切さだ。生徒たちは、地球環境がどんどん深刻化するのではないかと不安を抱いている。だから、どうしたらいいかを掘り下げる授業には、真剣に乗ってくる。生活、都市、社会、エネルギーなどはどうあるべきか....。正解が一つに決まらないこの問題に、手探りで取り組んだ。
 結果は、大変好評だった。「こんな授業を、1年生のうちから受けたかった。」とアンケートにもあった。今日的な深い問題意識を共有して授業を組み立てると、「教え込む」こととは異質の学びの授業が成立する。ここに、理科嫌いをなくし、日本では低いといわれる国民の科学的リテラシーを高めていく道がありそうだ。高い科学技
術は、その土壌の上に育つのではないだろうか。
 第2に、校庭で行う授業の大きな効果を知った。太田徹次先生(芦屋高校)が強調されていたことだが、納得できた。生徒たちから、環境や自然を「対象」として見る目が驚くほど失われている。コンクリートに固められてわずかに残った都市の自然。それでも、生の自然に接する効果は大きい。春の七草観察、夏は木蔭をつくる樹木観察、場所毎に気温を測ると、緑の効果が浮き上がる。自然を身体で感じることを期待した実習だ。草花や樹木の名前や特徴を解説する、噛んで見る、食べてみるなどを通じて、感じる目が開いてくると、鼻で笑っていた男子生徒も、外での観察が好きにな
り、自然への関心を深めていった。
 第3に、実験・観察の意味を見直した。当初、実験はややこしいからきらいだという生徒が多かったが、最後には、講義やビデオ学習よりも実験が好きだと答えるようになった。あることを知るために簡明な実験・観察を計画して実行する。レポート提出があっても、実験・観察による発見は面白い。だれにとっても、世界を発見的に広
げる事は魅力なのだ。そこにはもう理科嫌いはない。
 第4に、化学教育の現状を何とかしなくてはならないとの思いを強めた。環境科学と比べると、担当する化学の現状は、詰め込み、消化不良、意欲喪失を蔓延させているように思えた。近年、化学の選択者も減っている。化学を、教室という閉じた空間から解き放って、自然や地域社会の中に位置づけ直す作業が必要なのではないか。そうでないと、持続可能な社会をつくるための科学や技術へのロマンや使命感は生まれようがない。教科書どうりの展開には、そうした出会いがほとんどない。折に触れてそうした問題を小出しにしてみても、迷惑がる生徒が目立つばかりだ。ならば、年間計画の中に一定時間を取って、いくつかの題材をきちんと織り込んでみてはどうだろうか。純粋理論で押しとおす化学の他に、もう一つのこうした化学があってもいいように思う。『理科の散歩道』で扱う題材や語り口が大いに役立つだろう。生徒の自覚を引き出すことに成功すれば、両方の化学の到達点は、同じレベルにできるのではないか。
イギリス、ドイツ、オーストラリアなどの教育では、知識の量はむしろ日本より少ないが、問題解決学習とそのプロセスが重視されているという。(海外の理科教育 「理科」第32巻第1号. 2001年9月発行 ) 問題を設定したら、生徒たちに討議で多面的な解決法・解明法を考えさせ、どうしたらよいかを徹底的に訓練する。情報の検索、レポートの作成もしっかりさせる。理科に限らず、他教科でも共通して行われる指導法だという。教育効果の落差は明らかだ。また、物化生(地)各専門教育でも、科学がもつ役割・影響・応用に関する項目が多いのも注目に値する。
 世界的教育改革の時代、受験だけに追われる現状からの脱出を模索すべきではないだろうか。

3.連絡など

1. 研究会予定
 平成14年1月12日(土)御影高校

2. 講演会の案内
 講演日 平成14年2月23日(第4土曜日)
 講 師 文部省の初等中等教育局主任視学官
          江田稔さん
 場 所 武庫川女子中・高等学校
     (武庫川女子の芝崎先生・竹上先生に会場準備等のお世話をしていただきます。)
 テーマ 新学習指導要領実施直前ということで
     「学力とは何か,学びとは何か」

4.報告その他

1.兵庫県理化部会研究発表大会より
 ・講演会「鉄とその周辺」 工学博士 池田隆果 氏
 ・発表 ペットボトルを利用した二酸化炭素の温室効果測定実験   御影高校 北川英基

2.理科と情報数理の教育セミナー
  −21世紀の理数科教育を考える− (化学分科会)より
   その1 コンピューター支援化学教育を実践して

3.神戸新聞連載「理科の散歩道 45〜46」

5.第69回研究会のご案内

期日: 平成14年1月12日(第2土曜日)14時00分より
場所: 県立御影高校 化学実験室

 最寄りの駅からは,阪神御影駅から徒歩10分,阪急御影駅又はJR住吉から徒歩15分ほどで,国道2号線の北側に隣接しています。 なお,化学実験室は,正門南側の生徒通用門を通り,一番西側の特別棟(5階建)の4階にあります。 お車で来られる先生は,生徒通用門を通った第1体育館北側に沿ってお車を駐車して下さい。

6.編集後記

 明けまして おめでとうございます
  本年もよろしくお願いいたします

 昨年は,サークル活動はもちろんのこと,青少年の科学の祭典や理科の散歩道の執筆活動などを通して多くの方と知り合う機会に恵まれました。そして,それぞれの方がそれぞれの分野ですばらしい活躍されていました。新学習指導要領実施を前に,巻頭言の北川先生のお言葉にもありましたが,化学教育の現状を何とかしなければという思いも,これらの先生方と一緒ならがんばれるという気持ちになります。各先生方の取り組む姿勢が励みになります。今年は,腰を据えてどうすれば「学びの化学」を行うことができるか,模索してみたいと思います。少しでも突破口が開ければいいのですが・・・
 2月の講演会では,新学習指導要領への不安・疑問など日頃考え・思っていることを忌憚なく話しあういい機会ではないでしょうか。できるだけ多くの方々と話が出きることを願っております。


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