ASARUT ・ COMPAILA
アサルト ・ コンパイラ

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第七章

「BE STARE HISTORY 動き出した影」

「じゃ予定は二週間なのね。」
「そう。なるべくきっちり帰って来るようにするけど、もし、遅れても心配しないで。今回は心強い傭兵がついてるし。」 「それはそうなんだけど……、あとの二人がねえ…」
 と、こっちを見る。
「大丈夫よ。私とナッシュで一人ずつめんどう見るから。」
  おいおい、それじゃあ護衛の役目になってないじゃないか。
「そう、じゃお願いね。なんか勝手な行動しようとしたら気絶させてもいいから。」
  こら! なんであかの他人のあんたにそんな事言われなくちゃならんのだ? そこのうちの親! なんであんたもうなずいてるんだ? 怒る所じゃないのか?
「テリー。あんたは死んでも、他人を巻き込むんじゃないよ。」
  何てこと言いやがるんだうちの親は。縁起でもねえ…
「じゃあ、行って来るわ。みんな見送りありがとね。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
  たかだか、二週間の旅行なのに、結構たくさんの人が見送りに来てたな… 親やケリーとその友達。アリスの店の人まで……
 一つ、すごいと思ったことは、誰も寝坊しなかったことだ。このとうり俺も寝坊しなかったし。めずらしい事もあるもんだ。

「なあ、俺はその地方に行ったことが無いんでわからんのだが、サザーランドにはどうやって行くんだ?」
「そうね。いろんな足を使って行く事ができるけど、今回は一番早い方法で行くことにするわ。まず西に向かって真っ直ぐ森を横切るの、それで、海岸に出たら、港で船に乗って約一日。すると、目の前はサザーランドよ。」
「あんまり盛り上がりに欠ける旅路ねー。」
「あら、そうでもないわよ。豹とか大蛇、アリスの大嫌いな大蜘蛛も森の中には生息しているわよ。」
「嘘ぉ……、嫌だなぁ………。でも私そんなのがこんな近くにいたなんて全然知らなかったわ。」
「ああ、アリスはこっちの方には来たことが無いからな。それに獣とか怪物は町の中までは入ってこないからな。」
  アリスとチームを組んでから、こっちのほうに来た事はなかったな… ま、これには理由がある。こっちの方は群れをなして襲ってくる敵が多い、だから、自分の身は自分で守らなければならない。俺のレベルではアリスを守りながら戦うというのは無理だ。だから、これまでこっちに来るのは避けてきたんだ。まあ、今回はルビアさんとナッシュという最強のボディーガードがついてるから心配はないだろう。
「でも、こんな話をしているといきなりそれが出てくるって言うパターンがあるわよね。今回はどうかしら? アリスだったら腰抜かすんじゃないかしら。」
「ひっどーい。お姉ちゃんたらわかってないなぁ。昔の私とは違うのよ。新生アリスなのよ!」
「そう? どこまで根性すわってるかみものだわ。」
「望むところよ! 一撃でK・Oしてみせるわ。さあ、どっからでもかかってらっしゃい!」
  まったく。その自信はどこから出てくるんだ? 怖いもの無しとはこのことだな。ん? いや、もしかすると……
「なあ、アリス。もしかしたら、なにか技を編み出しただろ? 新しいやつ。」
「よくぞ聴いてくれたわ。新必殺技、その名も、デストラクション! 相手の周りの気圧を強烈に上昇させて、的の骨を粉々にしてしまう技よ。」
「そりゃあすごい。だが、間違ってもこっちには放つんじゃないぞ。おそらく即死だろうからな………」
「そ、そうですね…。なんかアリスさんは敵味方関係無く攻撃してきそうですし… ところで、その技、ちゃんと完成してるんですか? 以前のようにならなければいいんですけど。」
「おほほほ。聞いて驚くなかれ。もう完成してるのだー
「ををっ? これは珍しい。ということはもう一つの空を飛ぶ技も?」
「ざんねん。そっちはまだなの…… 攻撃ばっかり練習してたからねー… でも、5分間ぐらいは制御できるようになったわよ。」
「それはすごいですね、アリスさん。わずか一週間程度で…… もしかして、素質があるんじゃないですか?」
「えへへー。まあねー。」
  いかん……。アリスに力が芽生えるということは、世界の崩壊と同義! 何としても阻止しなければ……しかし、俺に阻止出来るか? おそらく返り討ちにあって終わりだろう…
「アリスったら、いつの間に、そんな技を使えるようになったの?」
「どう? すごいでしょ?」
「あちゃー。ますます暴走しそうだわ……」
「もうっ。そんなことないって。」
  たしかに、アリスは何か一つ得意なものができると、一気に自信過剰モードに突入するのだ。そのおかげで、どれほど振り回されたか……

「ねえテリーくん。わたし、一年以上こっちに居なかったから、全然アリスのこととかわかんないのよ。よかったらどんな感じだったのか教えてくれないかしら?
「はあ、いいですけど。アリスと会った半年ほど前からしかわかりませんよ。」
「ええ、知ってる範囲でいいわ。あっ、もちろん話したくないことは話さなくていいのよ。」
「んー。どこから話せば……。」
「そうだ! アリスとテリーくんのファーストコンタクトの時を教えてほしーなー。わたしそれが気になって気になって……」
 あー、あの時か……… あの時は全然気が合わなくって大変だったなー。言うことやる事、全部敵対していたからな……

  あれは……、半年ほど前のことだったか。俺はやっと会社に慣れてきて、危なそうな仕事に手を出し始めたっけか……
 俺は、巻物を森の奥の遺跡に運ぶという、ちょっと裏がありそうな依頼を受けて旅立った。理由はもちろん報酬がいいからだ。しかし、その森というのが、「迷いの森」で、当然のごとく、道に迷った訳だ。地図も役に立たなくて、途方に暮れている時、アリスに会ったんだ。
「ふうん。でもなんでアリスがそんな所に居るわけ?」
「えへん! 自慢じゃないけど、私も迷っていたのよ。」
「自慢することじゃないでしょーが。で、あんたはなんで迷いの森なんかに入った訳?」
「あの時ね、森の中にすっごくいい薬草が生えてるって聞いたものだから、ちょっとぐらいだいじょうぶかなぁって思って…… じゃあ、思いのほかややこしくって……」
「…ったく、テリーくんもアリスもとことん不注意な子ね。で、その後どうなったの? 行き倒れってことはないわよねえ。本人がここにいるんだし……」
  その仕事を請け負う時に、遺跡の中には森の中の全体図が隠されているって情報を聞いてたから、そっちに向かう方が得策だろうってことで二人は行動を共にしたんだ。しかし、そのころのアリスは気が強い女の子ってだけで、まったく戦力にならなかった。そりゃもう足手まとい以外のなんでもなかった。今を思うと、そのころは俺もそんなに腕が立つ方じゃなかったから、かろうじて生き残ったという感じだった。
 二、三日経ったある日、俺は日ごろの疲れからか、ゴブリンにやられて右肩を負傷した。なんとか倒しはしたものの、どうやらその短剣には毒が塗ってあったようで、俺の意識はぶっ飛んだ。気がついたのは翌日の朝だった。横で寝息をたてているアリスを起こして、事の経過について説明を求めると、どうやらアリスが介抱してくれたらしい。なんとアリスは傷の治療をして、さらに解毒剤も作って飲ませてくれたらしい。アリス曰く、「二年には次席であがったんだから」。このとき初めてアリスが医者の卵だということを知ったのだ。
 戦士と医者の卵という、なんともリアルな組み合わせで、(偶然だが)遺跡にたどり着くことが出来た。そこには如何わしい服装に身を包んだ男と女がいた。で、巻物を渡すと、「よくここまでたどりつけたな。なかなか骨のあるやつだ。」と言われ、綺麗な宝玉を「みやげだ。」と渡され、その後は記憶がなく…… 気がつくと森の外に居た。なんかよく分からんうちに終わった任務だった。
 ま、一応仕事の終了を報告しに行かなければならないので、さよならを述べてると、なんと! 同じ町に住んでることがわかったのだ。
「へえー。なんとも運命的な出会いねー。」
「かっこいいものではないけどね。」
 そのアリスだが、今回のちょっとした冒険にはまってしまったらしく、知らない間にメンバー登録を済ませ、次の仕事からひまを見つけてはひょこひょこ付いて来て、今に至ると言うわけだ。
「なあんだ。それじゃ、アリスの押しかけ女房みたいなもんじゃない?」
「にょ、女房? そりゃあ言いすぎろうが…… ま、似たもんだな。」
「ちょっと! お姉ちゃんも、テリーも、なんか私が一方的に悪いような言いぐさじゃない。だいたい、嫌だったらメンバー解約すればいいのに、されたら困るけど……」
「そうね。なんでしないのテリーくん?」
「………なんでだろ?」
  うーん。なんで解約しないんだろう? これは一方的なものだから…… あああ! よくわかんなくなってきたぞ。まあ、来るべき時が来たら判断を下そう……

 そうこうしてるうちに、森の奥深くに入ってきていた。別に森を通るなどという危険が伴うことをしなくても回り道をすれば安全なルートで行けるのだが、「それじゃあ、半日も無駄になるわ。よって却下!」というルビアさんの一存でこっちのショートカットコースになったのだ。これで獣でもでたら…
ぐるうるるるる………
 出たぁ?
「な、何? 今の声…」
「ナーガ…ですかね。しかも、何匹か……」
 ええええええええ!
「どどどどうするのよ? 食べられちゃうわ!」
「アリス落ち着け。よく考えてみたら、こっちには凄腕のボディーガードが二人もいるんだ。恐れることは無い。」
「そ、そうね。ドンと来いだわ!」
  ははははは。ナーガがなんだって? 返り討ちにしてくれる。
「静かに!」
  ん? 急にルビアさんがマジな顔になったぞ。横を見るとナッシュも大ぶりの剣を鞘から抜き放っている。これって、臨戦体制か?
「どうゆうことかしら? なんでこんなとこに? スタッパーかしら… 人間じゃ無いわね。」
  へ? スタッパー? それってよく言う、依頼を請けて多額の報酬と引き換えに人を始末するやつのことだろ。なんでそんなのがここに? まさか、俺達を……
「ナッシュ。アリスをカバーしてくれるかしら。テリーは私とあまり離れないように。」
  うわっ、いつのまにか、まわりは三匹のナーガに囲まれてるし… ということは、こいつらプラス、スタッパーがいるってことかよ。冗談じゃない! そいつの気配は全く分からないし(二人には分かるようだが…)。
「来るわよ!」
  くそぉ、こうなりゃやけだ! やってやるぜ! 俺の本当の実力を見せてやる。
しゃあああああ!
 ナーガが一斉に飛びかかって来る。即座に俺達は身を低くして、ナーガの間を器用にすり抜けて行った。あっ、アリスのバカ! つまずいてこけてやがる。どんくさいな…
「テリーさん! アリスさんをお願いします。その間に三匹やっつけますから。」
「え? ああ、わかったが…」
  ったく、こいつは(アリス)どこまで足手まといなんだ……
「本当に大丈夫か? ナッシュ!」
「まかしててください! それより、そっちに一匹行きましたよ!」
「な、なにぃ?」
 ずしゃあああ!
 うわっ… 茂みから飛び出して… でけえ…… 5・6メーターはあるんじゃないか…
怖いけど… やるっきゃねえか!
 俺はケリーから買った軽くて扱いやすい剣を取り出し……
「でえええい!」
 ズバッ!
  お見事! 自分で言ってもしょうがないが…… 俺は相手が攻撃に移る瞬間の体の引きを見逃さなかった。くるくるとナーガの首は宙に舞う。
 これで一体! 次は? ………
「おみごと。なかなかやりますね。今の振りは鋭くて良かったですよ。」
「そ、そうか? 照れるな…… って、ナッシュ? 後の二匹は?」
「倒しました。」
 おいおい、そんなたんたんと… 俺が一匹倒す間に二匹も… いや、俺が倒す時を見ていたんだから、もっと早く倒していたのか? 信じられん………
「あっ、それよりルビアさんは?」
「それなんですが……、どうもルビアさんもスタッパーも、二人とも気配を消してるみたいで… おそらくにらみ合いでもしてるんでしょうが……、私にも気配が探れないんです。ルビアさんって、想像以上の実力を秘めてるかもしれませんねぇ。」
「だろうな。ったく、あの人は何者なんだ? とにかく、どうするんだ、目で探すか?」
「いえ、下手に動かない方がいいでしょう。ルビアさんが睨みを利かせてるんでしょう。私達が動けば邪魔になりますから。」
 どんなレベルの高い戦いをしてるんだよ。凄腕同士の戦いほど膠着状態が長く続くって言うからな……
簡潔に用件を言おう。」
  うおっ? いきなり声が頭に響いたぞ。
「脳に直接語り掛けてるんですよ。こりゃあ、とんでもない相手かもしれませんよ…」
  な、なんかやばくないか?
「お前達が例の洞窟に向かっているのは知っている。すでに我が軍の手に妖精達は落ちた。よって、お前達が洞窟に来ることはまかりならん。特にルビア・トレシャーナとナッシュ・コードウェル。貴様たちはこの洞窟に深くかかわっているので、我々にとって目障りだ。だが、今しばし洞窟から手を引け。ならば命は助けてやる。この要求に従わない場合は…わかっているな……」

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