ASARUT ・ COMPAILA
アサルト ・ コンパイラ

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第六章

「IS THIS SAFE? 旅行前夜」

「テリー、暗い顔してどうしたのよ?」
「例の用件を部長に言いに行ってたんだよ。ったく、どれだけガミガミと言われたか…… 狙われているかもしれんのに旅行に行くとは何事だ?ってな。まあ、ルビアさんは言い出したら聞かないからな。なんとか言いくるめて許可はとったが……、一時間以上の説教はたまらん。だいたいなんで俺が怒られないといかんのだ?」
「でも、許可が下りたんだしよかったじゃない。」
「それにしても、ルビアさんはどこに行くつもりなんだ?」
「さあ? ただ、サバイバル道具を用意してたけど…」
「サバイバル?」
「そ、お姉ちゃんは顔に似合わずそんなのが大好きなのよ。」
「たしかに似合いませんね。てっきり観光にでも行くのかと…」
「根はおとなしいんだけどね。」
  確かに。俺の見舞いに来てくれた時は「とても優しいお姉さま」という感じだったからな…… ま、実際の所そうなんだろうが、俺は知らない別の面も在るということだろう。
「で、肝心のルビアさんはどこへ行ったんですか?」
「下でお店の手伝いしてるけど。」
 やっぱおとなしいんだ。…いや、手伝いはおとなしくなくても出来るが…… なるほど、わかった。ズバリ、サバイバルをしてると言う事は、炊事洗濯もお手の物と言う訳か。
「あれ、じゃあアリスさんも手伝わないといけないんじゃないんですか?」
「もうすぐお呼びがかかるわよ。時にナッシュ。今日が何の日か知ってる?」
「いえ。なんか特別な日なんですか?」
「今日はね、この地方一帯―セレスタシティーを含む所での収穫祭なのよ。そんで、収穫祭恒例なのが、‐お昼にお腹いっぱい食べて、夜は何も食べない‐ってことなのよ。」
「は? どうゆうことですか?」
「えーと、つまり、たくさん食べて日々食料を与えられてる事を感謝して、食べれないつらさを感じて食料の有りがたさを痛感する…… とかなんとかだったわね。小さい頃によく聞かされたんだけどね、わすれちゃったわ。」
「なるほど。地方の風習というやつですね。」
「そうゆうことになるかなあ……。」
「アリスー! その他もろもろも手伝っておくれー!」
「ほら来た。さ、行くわよ!」
 その他もろもろって……、おばちゃん、なんかほかに言い方があるだろうが…
「ったく、やってらんねーよ。」
「しかたないですよテリーさん。なんせいそうろですからね。」
「おまえだけだろうが!」
「はいはい、言い合いは後にして頂戴。さっさとこのエプロン付けて行く!」
  なんでこんな目に……
 あれ? あんまり人がいないじゃないか。まだ十時半だしなぁ…
「なあアリス。ちょっと早過ぎないか。」
「ちっちっち。いいこと? お客さんが集まってからでは遅いのよ。人があんまりいないうちに出来るところまで作っておいて、お客さんが来たら仕上げをパッとしてすぐに出せるようにしとかなくちゃ。どんなに忙しくなっても、お客さんを待たせたらダメなのよ。」
「へえー。だてに店屋の娘やってないな。」
「アリスー 講義なんかやってないで早く手伝って頂戴
「ほら、お呼びだぜ。」
「あんたもよ!」
「いてててて」
 くっそー。耳を引っ張ることは無いんじゃないか? 耳が大きくなってエアラットみたいになってしまったらどうする気だ。
「アリス。そこのやつ全部炒めて頂戴。」
「はいな。」
  げっ… はいなって…でっかい段ボール箱1つ丸々あるぞ。しかも炒めるなべがこれまたでっかい事。それを軽々操っているアリスも怖い。
「ほら、二人ともぼけっとしてないで手伝ってくれるかい。テリーはこのレシピどおりにたれを作って。ナッシュはそこの洗い物お願い。」
「はいはい。」
「ただいま。」
  さーて。「たれ」か……
 えー、なんだって、レオミーチュ? そんなもの知るか! あまりにカルト過ぎるぞ。しかも、二瓶だと? いったいどれだけ作るんだ。
「なあ、おばちゃん。レオミーチュってどこにあるんですかね。」
「洗面台の下! 調味料は全部そこにあるから、たれ急いでね。」
「は、はいっ。」
 課なり真剣だな…… 急がないと…
 えーと…… レオミーチュは…と、げっ、めっちゃでけえ! 瓶というより樽というべきだな…
 それにしても調味料の多い事。パッと見ただけで一〇〇は下らないだろう。セレスタで1番人気というのはあながちふかしではなさそうだな。
「あっ、あのねー。テリー。たれは2倍お願いしてくれるかしら。」
  2倍? 冗談だろ…… とんでもない量になるぞ… これは急がなければ。
 しかし、今の俺がしてるところをなにも知らないやつが見たらどう思うだろうな… なんせ、ボートのオールみたいのでドラム缶にいっぱい入った液体をかき混ぜてるんだからな。
 まったく体力仕事だ。これが終わってももう一つ作らないといけないんだからな。

 にじかんごー
「あー、死にそうだ…」
  体が鉛のようだ……
 結局、ほとんど俺はたれを作っていた訳なんだが…… なんか、腕がかってにくるくる回り始める感じがする。船に長い間乗って降りたらフラフラとするあれに似ているな…
「おつかれさーん。お茶を入れたわよー。」
「店はもう終わったのか?」
「ええ、もう一時だから。もう来る人はいないと思うわ。しっかし、今年は一番客が多かったんじゃないかしら。売上成算したらとんでもない額になるわよ。」
 確かに。去年のこの日の売上が、普段の日の三十倍だったらしいからな、それより多いとなると…… 俺にもこずかいをくれよ!って感じだ。
「あのー、ルビアさん。今度行く旅行、どちらの方へいかれるんですか? 出発は明日でしょ。そろそろ教えてくださいよ。」
  そう。まさにそのとおり。
 この女は、「それは秘密よ」などとぬかし、今日の今日まで俺達に教えてくれなかったのだ。
「よーし。いいでしょ。場所は、サザーランドにある‐終わり無き洞窟‐趣旨は‐さらに奥を目指して‐といったところね。」
 …………
 なんでまた… そんなとこに? 海に泳ぎに行くとかじゃないのか? 
「わかんないって顔してるわねー。」
「わからんというか…、あの、ほかの趣味はないんですか? いや、別にサバイバルがどうこう言う訳では無いんですけど…。」
「あら、たくさんあるわよ。私って多趣味よねぇ、アリス。」
「そうね。ハイキングとか、山登り、お料理、あとはアーチェリーやペットを飼うこと…あと特殊なものでは、過去の文献を調べて学会に持って行って賛辞を得ることとか。まあ、私の知らない趣味もまだまだあるんじゃない。」
「なるほど、特殊なものを除けば比較的普通かも……。」
  どうやらナッシュは気ずいていない。
 ちょっと読みの鋭い人が、よく考えてみれば分かる事だと思うが… その趣味もろもろを総合して考えると、サバイバルに関係が深いものばかりである事が容易に感じ取れるだろう。ま、どっちみちどうにもならないって事だが……
  簡単にその終わり無き洞窟を説明すると、化けものがうじゃうじゃと居て、複雑な迷宮になっている所だ。
「ちゃんと帰ってこれるんでしょうね。あんなとこダレも行った事ないんじゃないですか?」
「だーいじょうぶよ。私今までに三回ほど行ってるし。」
「でも、さらに奥にいくんでしょ。」
「まあね。ああ、別のルートで行ってもいいわよ。」
確実に帰れる道でお願いします! なあ、みんな。」
「は、はあ…」
「ナッシュ! あいまいな答えをすると大変な事になるぞ!」
「はあ、ですが、私も過去一度だけ行った事があるんですよ。実は。」
「あ、私もよ。第3区画の地下5階までだけどね。」
「…おまえら……、よくも、抜け駆けを……」
 行ってないのは俺だけかよ。て言うか、俺なんか噂でしかそこを知らなかったんだぞ!
「じゃあ決まり。3人経験者がいるんだもの、だんぜん大丈夫よ。」
  はあ… 俺って、友に恵まれてないな………
「それじゃあ、ここに用意する物書いてるから、各自で用意してね。後は個人で必要なもの。そうそう、戦闘道具を忘れないようにね。自分の身は自分で守る、これは鉄則よ。集合時間は明朝8時に私の家の前ね。じゃ、解散。」
 と、言い残し、これまたさくさくとどっかに行ってしまった。なんと、無責任な…

さてと、旅行の…もとい、サバイバルの用意をしなければ。
「おい、アリス。新しい剣を買いにケリーとこまで行くけど、ついて来るか。」
「いくいく、私も道具をそろえなくちゃ。しかし、あの剣はもったいなかったわねえ。熔岩の中に落しちゃうなんて、掘りだしもんだったのにねえ…」

  ここは、ケリーの店。看板には道具屋とあるが、中は、バリバリの武器屋だ。陳列されている武器はどれも一流品、いい腕をしてる王宮の兵士が買いにやって来るほどだ。
「はーい、ケリー。もうかってるかしら。」
「あら、アリス。聞いたわよ、探検に行くんだってねー、あの洞窟に。しっかし、あんたの姉さんもこりないねー。これで三回目だっけ?」
「四回目よ。でも、迷惑はしてないわよ。」
「俺が受けてるだろーが……。ああ、それで新しい剣を用立ててほしいんだが…」
「あれ? …えーと、スクランブルネザードだったかしら、あれはどうしたの?」
「例の火山の時の一件で無くしちまったんだ。」
「えー。もったいなーい。あれほどの剣、そうそう見つからないわよ。」
  まったく、みんなもったいないって……、俺だって好きで無くした訳じゃないんだからな。
「なるほど。代わりの剣か。言っておくけど、あれより良い品は期待しないことね。」
「ああ、わかってる。」
「ほんじゃ、倉庫に行って来るわ。ちょっと店おねがいね。」
 と、さっさと奥に引き下がってしまった。こんなアバウトな商売でいいのか? と思ったりもするが、一応セレスタ1の売上を誇っているからには商才があるのだろう。親父さんは武器の仕入れで各地を転々としているからめったに店にいないし、おばさんも夕方からパートに出かけているので、ほとんどケリーが店を経営しているようなもんだ。しかし、時々、ケリーも出かけてしまうので、「ちょっと私用で出ています。御用の方は、PM6・00よりお越しください。」とか、「一身上の都合により休みます。おそらく明日は開いているでしょう。」などといった、身勝手な看板が降りていたりする。ま、年頃の女が店番なんだから仕方ないが……
「おまたせー。こんなのが出てきたわよ。」
  と、いいつつ、5・6本の剣を抱えてきた。
「で、良いのはあったか?」
「そうね。こんなのはどうかしら? これは切れ味抜群、強度も最高、ただかなり重いし、くせがあるから扱いにくいわね。こっちは、とっても軽くて使いやすさは最高、でもほかの点は並よりちょっと上ぐらい。もうひとつは、いわゆる吹雪の剣、もちろん前の剣ほどの威力は無いけどね。こんなもんかしら…」
「ふむ。で、そっちの二つは?」
「曰くつきでよければ説明するわ。」
「い、曰くか……、聞くだけ聞こうか…」
「そう。こっちのまがまがしいのは、すべての点ですごい力をもってる、けど抜いたら最後、バーサークするわ。それでこっちの方は、耐久性、切れ味共に上級、でもこの剣はネイティアルとの相性が左右する。つまり、相性が良いやつとつかえば爆発的な力を与えてくれる、相性が悪ければ襲いかかって来るってこと。どうかしら?」
「うーん。後の方の剣の相性がどうのこうのっての種類は…」
「何いってんのよ、わかんないから曰くつきなんじゃない。」
  やっぱり。
「でもね、鞘から抜かないかぎり発動はしないわ。それに、ネイティアルが現れてなければもんだいないわよ。」
「なるほど。それじゃあ、その剣と、軽い剣、その二つもらおうか。」
「え? ほんとにいいの?」
「ああ、ネイティアルが出てきてやばそうだったら鞘にしまえばいいんだろ。大丈夫だって。」
「そ、そう… まさか買う人がいるとは思わなかったから、値段をつけてなかったわ。……そうね、これはおまけでつけてあげる。だから、こっちの方だけ…んー、三千ディアにまけとくわ。」
 いやあ、いい買い物ができた。対策がしっかりしてれば問題は無い。はずだ…と思う。
「テリー。行きましょう。」
「ん、買い物は終わったの……って、またたくさん買って… しらんぞ。」
「大丈夫だって。じゃねケリー。お土産買ってくるから。」
「はいはい。せいぜい命だけは大切にね。」
 もっともなことだ。
「いよいよ明日ね。わくわくしない?」
「いや。別に…」
「もう、のりが悪いわねー」

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