ASARUT ・ COMPAILA
アサルト ・ コンパイラ

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第四章

「LOOK AT! 姉の素顔」

 アリスがあの…… えーと、何ていったか… そう、レグナ・クロックスというネイティアルを呼び出した翌日、俺は病院にいた。
「あ、いたいた。どう? 調子の程は?」
「……よくもしゃあしゃあと顔を出せたなぁ。」
「だって仕方ないじゃない。不可抗力なんだし。」
「はあ? どこがだよ。予測は出来たはずだが?」
「…………だって。あんな事になるなんて、思わなかったし。」
「まったく……。」
 昨日、力を得たアリスは予想通り暴走した。なんでもかんでも試しまくったのだ。一緒に居たら巻き込まれるので、そうそうに立ち去った。だが、夕刻にアリスがうちに来た。曰く、「いいものを見せてやる」らしい… 俺としては別に興味も無かったのだが、断ったとしても強制的に連れられることは間違い無いので仕方なく付き合うことにした… のが、運の尽きだった。
 また、山まで連れて行かれ、そこで見せられたものはなんと! アリスが宙に浮かんでいる光景だった。なんとアリスは空を飛べるように、いや、浮くことが出来るようになったのだ。わずかな時間でここまでとは、執念とは恐ろしいものだ。
 不覚にも、ぼーっとしていたらしく、「テリーにもこの快感を味あわせてあげる」などとほざき、俺を捕まえて宙へと連れ去った。が、三階くらいの所に来た時に、がくんとなって、地上にまっ逆さまに落ちて行ったのだ。恨めしくも、アリスは俺の上に落ちてきたので、あばらを1本だけという軽傷で済んだのだが、ダイレクトに落ちてさらに上からアリスの直撃をくらった俺は、全身打撲で3箇所骨折という、見るも無残な姿に成り果てたのだった。気がつけばここだったわけだ。(アリスに引きずっていかれたらしい。その間にさらに一ヶ所骨折が増えたが……)
「だいたいなんでいきなり落ちたんだ?」
「んー、それがよくわかんないのよ。がんがん行けてたのにね。」
「それはですね…」
「うわああああああ!」
「どうかしましたか?」
「なっしゅ! どこから出てきたんだ。」
「いえ、普通に入口から入って来たんですけど?」
「そうか? いきなりふわっと出てきた感じがしたもんでな…」
  心臓が止まるかと思ったぜ。後ろからそっと近ずかないでほしいもんだ。
「で、なんなんだよ?」
「ああ、はい。アリスさんの途中で飛べなくなったというのはですね、精神力がそこまでだったということなんです。つまり、それが、今のアリスさんのキャパシティイという事です。」
「なるほど。以外に博識だな、お前って。」
「まあ、あっちこっちいってると自然に身につくもんですよ。」
 さすがに、だてには流れの傭兵をやってないな。

「アリスー。テリーさんを入院させたってのはほん……… い、痛々しいわね。派手にやられたものね……。」
「打ち所が悪かったらヤバイ事になってたかもしれないんだぞ!」
「うん。わかるわかる。」
  たった今病室にスキップしながら飛びこんできたバカ者はケリー。フルネームは忘れた。なんでもアリスの幼なじみらしい。武器屋の娘でアリスの紹介で俺もよく行くようになったんだが、どんなルートで集めてるのかは知らんが、かなりすごい武器を常時5・6本は置いている、変わった店だ。
「ねえ、アリス。あんたってあばらを折ってるんでしょ? さっき看護婦さんから聞いたんだけど……、よくへーぜんと学校に来るわね。顔色一つ変えずに……。」
「まーね。鍛えてるからね。たいした事無いわよ。」
 アリスは、危険な事が大好きな奴だから、毎日のようにケガをしてるからだろう…
「テリーさん。私もう帰りますから、お大事に…って、もう治ってるんでしたね。とにかくなるべく早く退院してくださいね。仕事を見つけないと……。」
「ああ、わかってる。」
 治ってるっていうのは、回復の度合いが早い人は、強制的に細胞を活性化させる術で一気に治すことができるのだ。まあ、身体に負担もたっぷりと掛かるのだが。おかげで俺の身体は痺れたように動かないという、後遺症に悩まされる。が、長い間病院での生活よりはいくらかマシだろう。

「テリーさんの部屋はこちらでいいのかしら?」
 ナッシュが出ていってから、すぐだろうか…金色の髪の毛をなびかせつつ、超美人の女の人が入ってきた。知らない人だな…
「あっ、あなたがテリーくん? 妹がとんだ迷惑をかけたみたいで…」
「は? え? 妹? ……って事は…」
「お、お姉ちゃん! 帰ってたの?」
  アリスの姉? だとぉ…… 始めて見た………
 と言うのも、アリスと半年前に会ったときから今の今までアリスの姉に会った事はなかった。存在ぐらいは知っていたが……。なんでも、あっちこっち各地を回る仕事らしくて、なかなか帰ってこないらしい。
「びっくりしたなあ、それにしても今回は長かったわね。1年弱ぐらいかしら? ノーム皇国にいってたのよね。」
「まーね。遠かったわー。片道だけでも歩きを14日と船が6日ぐらい…もうちょっとかかったかしら? でも向こうでバカンスしてきたし、お土産もたくさん買ってきたし…」
「それで、いつ帰ってきたの?」
「昨日の朝には帰ってたんだけどね、お城で引継ぎとかがあって家に帰ったのは今朝遅くぐらいよ。しっかしびっくりしたわ、アリスがバイトなんてしてるなんて。結構相方に迷惑かけてるし…… まあ、予測の範囲内ね。」
「そ、そんなことは無いはずよ…… おほほ…。」

「あの、積もる話しもあるとは思うのですけど…」
「あ、あらまあごめんなさい。紹介がまだだったわね。私、ルビア・トレシャーナといいます。アリスの姉です。よろしく。」
「こりゃどーも。俺はテリー・ラングリッサーっていいます。アリスに空から落された当人です。こちらこそよろしく。」
「もう。不可抗力って言ってるじゃないの!」
 どこがだ?
「それにしても、痛々しいわね。アリスったらおっちょこちょいだから手を妬くでしょ?」
「ははは、そりゃあもう……。」

「そんで、お姉ちゃんこれからどうするの?」
「休暇! あれだけ長い出張なのよ。1ヶ月丸々休みをもらったわ。」
「1ヶ月も?」
「そりゃそうよ、あっちこっち行く仕事だから出張手当なんてものはないけど、普通の会社だったらぼろもうけよ。今までの分たっぷりと遊ぶわ!」
「でも、バカンスして来たって……」
「お黙り! おしゃべりはよくないわよ。」
「は、はい……」
  おーこわ。 どっから出てきたのか知らんが、小刀がアリスの喉もとに……。あんた、必殺仕事人か?
「じゃあお先に失礼するわ。荷物の整理もしなきゃならないし。あっ、そうだ。明後日に家の店の人が「お帰りなさい。ルビアちゃん!」パーティーを開いてくれるらしいのよ。だから、テリーくんも来て頂戴。明日にもなれば身体動くんでしょ。」
「いいんですかぁ?」
「ええ、人は多いほうが楽しいし、歓迎するわ。」
「じゃあ行きます。明後日に。」
「じゃあね。待ってるわ。」
 きたきたきたー。女性から招待されるとは…… やっと運も周って来たか?

「うーん。困った。」
「え、何がだ?」
「いやね、実を言うとお姉ちゃんには欠点があって……、なんというか………、その……、ちょっと酒癖がね…」
「悪いのか?」
「うーん… 悪いと言うか、一定量飲むとね、なんというか、ハイになるのよ。」
「いい事じゃないのか?」
「お姉ちゃんは特別なのよ。」
 うー、あんな綺麗な人が酒癖が悪いなんて… 世をはかなんでしまいそうだ。
「とにかく! お姉ちゃんにはあまりお酒を飲まさないように! わかった?」
「ああ、わかった。しかし本人に自覚はないのか?」
「残念ながら……。」
  なんと… 自覚していないのが一番性質が悪いからな。このパーティーは荒れそうだな……。」


 胸の中に思いっきり不安を抱いて二日後の夕方が来た。いかんせん気持ちが乗らない。誘われた身、断るのはダメだし… 荒れ方が凄かったら俺だけ逃げよう………
「いらっしゃい! お待ちしてたわ、テリーくん。」
「ははは、どうも。」
 すでに何人か集まっていた。こないだちょこっと顔を出したケリーも来ていた。
「こら! なんでおまえが来てるんだ。」
「あーら、私はアリスの親友なのよ、呼ばれるのは当然でしょうが。」
  くー、そのたかビーな言い方。気に入らんなあ…
 そして、次々と人が集まり、宴は盛り上がって行った。

 1時間半後
「ちょいと…」
「なんだよ?」
  なんか知らんがアリスに呼ばれて二階へと上がった。ちなみにパーティーをやってるのは1階の店の所だ。
「そろそろね。」
「なにが?」
「お姉ちゃんの顔が赤くなって来たでしょ。」
「ま、まさか…」
「そのまさか。あの状態ならもってあと5・6分ね。」
  ついにルビアの仮面あばかれる! ってか?
 しかし、他のみんなはルビアさんの事を知ってか知らずかお酒を止めるどころか、どんどん薦めている様だが……… 当のルビアさんは、もうろれつが回っていない。ただ酔っぱらっているだけではないのか? 対照的に、アリスの顔は青ざめていく…… いったい何が起こるというんだ。

「ルビあ・とれシャぁナに十ろく歳! 趣ミはぁ旅こー よ路市くねー!」
 来た! これがルビアさんの……素顔? しかも、いきなり自己紹介だ! こりゃあ只者じゃない!
「やーやー。二次会に突入だぁー!」
  は? どうゆうことだ? なんなんだいったい。みんなもさも当然のように……
「これが私の悩みなのよ…」
「こ、これは…… もしや、ルビアさんが酔うのをみんなで面白がってるんじゃ?」
「ビンゴ。別にお姉ちゃんだけが酔うのは構わないのよ。でも、周りの人が面白がって一緒に騒ぐから……、手におえないのよ。」
「な、なるほど……」
 たしかに、周りの人の方が盛り上がっているようだ。
「おっまたせしましたー! 1年ぶりのイベントー、カラオケ大会!」
  おいおい、これだけ騒ぎまくって、まだ物足りないのかよ…
「第一番は、えーと……テリーくん! どーぞ。」
「え? 俺? なんでいきなり?」
「あんたが一番覚えてたのよ……なんか他の人の名前…… わすれちゃったー。」
 何て事だ。どうやら酒を飲みすぎて意識まではっきりしてないなんて… 誰かこいつを止めろー!
「さあさあ、おいでなさい。」
「いや、俺歌上手くないし、おいっ!アリス! 助けろー。連れて行かれるー! あっこら、そっち行くなー。」
「さよなら。」
「こら! なに訳わかんないこと言ってるんだ?」
 ルビアさんもいう事聞いてくれないし… 今の頭では標準語も理解できないのか?
「あーいしたー ふたりのー 旅でーにー ほらほら、テリーくんも歌って歌って!」
「いや、俺その歌知らないんですけど…」
「そりゃあそうよ。即興だもん。」
 んなの分かるわけねーだろーが!
「いーのよ、恥ずかしがらなくてー、盛り上がってきたら何もかも忘れられるわよ。」
 おいおい、現実逃避かよー。
「わかんないですよ。なんで普通のにしないんです?」
「だってえ、知ってるのじゃ盛り上がらないわー。知らないやつの方が乗れるじゃない?」
 いや、そっちの方がわけわかんなくなると思うけど………
「さあさあ、あらなーみの しずーくが けずるー いわはだー」
  なんじゃそら? さっきの一小節と関連がぜんぜんないじゃないか…
 助けてくれー! ついて行けないー!

CONTINUE


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