みほとくんとあさひちゃん


 2013年7月18日、本校から4qほど東にある、朝来市山東町三保地区のコウノトリ放鳥拠点施設(ほうちょうきょてんしせつ)で生まれた、オスとメスの若鳥が放鳥されることになり、飼育ケージの天井(てんじょう)ネットが開放される、放鳥記念式典が行われました。この度、放鳥されるのは、上の写真、左側の個体番号JO480(♀)と、右側の個体番号JO481(♂)の2羽です。
 
 田んぼの中に建てられたテントに、人々が集まり始め報道関係者もスタンバイを完了(かんりょう)しました。式典は、主催者(しゅさいしゃ)あいさつ、来賓(らいひん)の祝辞と続き、地元、照福こども園の園児たちが、市内の小学生らから公募(こうぼ)し決まった、放鳥される2羽の愛称(あいしょう)を発表しました。オスが地名にちなんだ「みほと」、そしてメスは「あさひ」です。園児たちは声をそろえて、「みほとくん、あさひちゃん、おめでとう!」と可愛らしい応援(おうえん)メッセージを贈(おく)り、会場からは拍手喝采(はくしゅ)が沸(わ)き起こりました。

 いよいよ、式典のクライマックス。来賓と園児たちの手によって、飼育ケージの天井ネットが開放されました。さあ、コウノトリは飛び出すか。参加者は今や遅(おそ)しとその時を見守りましたが、全くその気配はありません。コウノトリは、それどころか、当日装着された慣れない背中の発信器が気になるようで、盛んにくちばしをやっていました

 ここまでたどり着くには、紆余曲折(うよきょくせつ)がありました。この2羽の親鳥は、これまで7度も繁殖(はんしょく)している、子育て上手のベテランペアでしたので、二世の誕生が期待されたのですが、新しい住み処の環境(かんきょう)に馴染(なじ)めなかったのでしょうか、残念なことに春が訪れても産卵しませんでした。
 そこで、巣の中に巣材や、木製の擬卵(ぎらん)を入れて誘導したところ、自分が産卵していないのにもかかわらず、その擬卵をしっかりと抱卵し始めたので、これであればヒナを孵(かえ)すことができるだろうと判断され、別のペアが産んだ卵を5月に抱(だ)かせたところ、無事にヒナが誕生し、放鳥の日を迎(むか)えることができました。

 終始、和やかな雰囲気(ふんいき)のうちに式典は終了し、参加者のみなさんは三々五々、帰路に着きましたが、中にはケージから飛び出す瞬間(しゅんかん)を見ようと、夕刻まで待機する方もありました。

 その後、関係者の話によると、式典の翌日19日に、メスのあさひちゃんがケージから飛び出したものの再びケージに戻(もど)り、オスのみほとくんは依然(いぜん)としてケージ内に留まっているようです。

 ケージの天井ネットが開放されてからというもの、放鳥拠点の近くを通りかかる度に、意識して目をやるようになりました。すると、式典から数日後の朝のこと、ケージ最上段の鉄パイプに1羽のコウノトリがとまっているではありませんか。足輪を確認すると、これはあさひちゃんです。外へ飛び出すのではないかと、見守っていると、念入りに羽繕(はづくろ)いを行い、最後に翼(つばさ)を広げ羽ばたきます。これを何度か繰(く)り返すものの、一向に飛ぶ気配はなく、カメラを置いた途端(とたん)に、ケージの中へ降りてしまいました。

 この日の午後、再び放鳥拠点を通りかかると、ケージの周囲に作られた湿地(しっち)にコウノトリの姿がありました。当地で初めて見る放鳥コウノトリに感慨(かんがい)ひとしおです。
 田んぼの畦(あぜ)に上がったところで、足輪を見ると、やっぱりあさひちゃんです。あさひちゃんはスタスタと畦を下り、湿地にくちばしを突(つ)っ込(こ)み、まるで一人前のコウノトリのようにエサを探す仕草を何度も見せましたが、捕(と)らえるのは枯(か)れ草のようなものばかりでした。

 放鳥された2羽のコウノトリは、しばらくの間、ケージの内外を行き来し、一進一退を繰り返しながら、少しずつ周辺の環境に順応し、徐々(じょじょ)に行動範囲(こうどうはんい)を広げていくことでしょう。
 願わくば本校へもやって来て、その美しい姿を見せてくれないものでしょうか。贅沢(ぜいたく)な望みを抱きつつ、みほとくんとあさひちゃんを遠巻きに見守りたいと思います。

文責 増田 克也


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