コウノトリさん、いらっしゃい!


 2012年10月19日、本校から程近い、朝来市山東町三保区でコウノトリ受入式典が行われました。これは、現在、但馬(たじま)北部の豊岡盆地(とよおかぼんち)に集中するコウノトリの生息域を、南但馬地域へ拡大させる目的があります。その放鳥拠点(ほうちょうきょてん)として、以前からアイガモ農法など環境(かんきょう)にやさしい農業に取り組み、2009年3月には、人工巣塔(じんこうすとう)が建てられた三保区が選ばれました。
 このプロジェクトは、兵庫県立コウノトリの郷公園から移送されたペアを、かねてから建設されていた大型ケージの中で飼育し、そこで生まれヒナを周囲の環境に馴染(なじ)ませてから、早ければ来年7月ごろに野外へ放鳥する、ソフトリリースという方法が採られます。

 コウノトリを受け入れる当日の朝を迎(むか)えました。稲(いね)の刈(か)り取りが済んだ田んぼの真ん中に、白いテントと緑色のネットが張られた飼育ケージが見えます。ここがコウノトリ受入式典の会場で、今後、移送されるコウノトリのペアが暮らしていく場所でもあります。

 会場への案内板が設置される中、三々五々、地域の人々が集まり、式典で重要な役割を担う、照福こども園の子どもたちが到着(とうちゃく)してまもなく、大きな木箱に入れられたコウノトリが会場に運び込(こ)まれました。

 式典は来賓(らいひん)の祝辞、関係者のテープカットと予定通り進められ、次に園児たちによってコウノトリが入った木箱が飼育ケージに運ばれました。参加者が固唾(かたず)を飲んで見守る中、ついに木箱の扉(とびら)が開けられました。

 会場からは「ワ−ッ!」と歓声(かんせい)が上がり、「大きい!、白い!、きれい!」などの言葉が飛び交います。中には「よう来てくれた、おおきに、おおきに」コウノトリに両手を合わせるお年寄りの姿もありました。

 最初に飛び出したのは、メスのコウノトリです。外に出たメスは木箱の中が窮屈(きゅうくつ)だったのか、盛んに羽ばたいています。一方、オスは扉が開けられてもすぐに出ようとはせず、係員の方に促(うなが)されてのお目見えとなりました。
 どちらも、放たれた直後は、新しい環境に面食らったように見えましたが、ケージから木箱が運び出されるころには、落ち着きを取りもどし、2羽並んでゆっくりと歩み始めました。

 ここで、三保区にやって来たコウノトリを紹介(しょうかい)します。左で片足を上げているのが、個体番号J305、オスで11歳(さい)。そして右側が個体番号J273、メスの12歳です。どちらも東京の多摩動物公園(たまどうぶつこうえん)で生まれ、コウノトリの郷公園で飼育されていたものが移送されました。このペアは“Wペア”と呼ばれ、これまで7回も繁殖(はんしょく)に成功している子育て上手だということです。

 式典の最後は「コウノトリさん、いらっしゃい!」園児たちが、声をそろえてコウノトリにメッセージを送り、歓迎(かんげい)ムードの中、無事に閉式となりました。

 大役を果たした園児たちの記念撮影(きねんさつえい)が始まったころ、会場の上空を1羽のアオサギが北に向かって飛び去りました。いつの日かこの空をコウノトリが舞(ま)う日が来るのでしょうか。三保区での二世誕生を期待して、このWペアをそっと静かに見守りたいものです。

文責 増田 克也



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