不可解な行動


 前々回の“自然のページ”「幹からピョコ!」で掲載(けいさい)した、アオゲラの続報です。前々回では、枯(か)れ木に空けられた穴に、オスのアオゲラが出入りしていることをお伝えしましたが、その後の観察でメスの姿を確認しました。どうやらこの穴は繁殖用(はんしょくよう)の巣穴として利用されているようです。

 上の写真にある、垂直な幹につかまり、周りの様子を伺(うかが)っているのがメスのアオゲラです。時間をかけて安全を確認してから、営巣木に飛び移りました。見てください、両脚(りょうあし)を大きく広げた2点、丈夫(じょうぶ)な尾羽(おばね)の1点、キツツキ特有の三点支持でしっかり身体を支えています。その後、素早く移動して巣穴に入っていきました

 ここでオスとメスの見分け方を、お話しします。ちょっと見ると、オス、メスどちらも同じに見えるアオゲラですが、簡単に見分けられる箇所(かしょ)があります。それは頭にある赤いラインです。オスはこのラインが、くちばしのつけ根から首もとまで、モヒカンヘアのように延(の)びているのに対して、メスでは、頭頂部から始まり後ろへと続きます。
 文字で説明するとなんだかややこしくなってきましたので「百聞は一見にしかず」とにかく、このオスとメスを比較(ひかく)した写真をご覧(らん)ください。これで識別ポイントを理解していただけたことでしょう。
 
 オス、メスの相違点(そういてん)の他にも、巣穴付近の色が白く変化していることに気付かれたと思います。わずか数日の内に、カビともコケとも知れない白いものが蔓延(はびこ)り、巣穴周辺の雰囲気(ふんいき)は一変しました。これも高温多湿(こうおんたしつ)になるこの時季ならではの出来事なのでしょう。

 ところで、巣穴に入ったメスはどうしているのでしょう。もちろん外からうかがい知ることはできません。耳を澄(す)ませても、ヒナの声らしき音はなく、ただ山の斜面(しゃめん)からチョロチョロしみ出す清水と、時間だけが流れていきます。

 あれから3時間が経過した頃(ころ)、何の前触(まえぶ)れもなくメスは巣穴を飛び出し、再び戻(もど)って来たのは40分後でした。アオゲラの行動から繁殖の状況(じょうきょう)を推測すると、3時間もの間、巣穴に滞在(たいざい)したとなれば、抱卵(ほうらん)しているものと考えるのが自然です。しかし、その後40分間も放置された卵は大丈夫(だいじょうぶ)なのでしょうか。

 数日後、向かった山は天候不順で、ガスと叩(たた)きつけるような雨の中、営巣木は煙(けむ)っています。こんな日も、メスのアオゲラはやって来ました。どこで何をしていたのか、喉(のど)の辺りの地肌(じはだ)が見えるほど全身ずぶ濡(ぬ)れです。何度も頭を回転させては慎重(しんちょう)に周囲を警戒(けいかい)して、やっぱり巣穴に入っていきます
 仮に、ヒナが孵化(ふか)しているのなら、餌(えさ)を持ち帰るはずですが、くちばしにはそれらしいものはなく、メスの行動は全くもって不可解です。

 不可解と言えばもう一つ。図鑑(ずかん)によると「アオゲラはオス、メス双方(そうほう)が協力して子育てをする」とあります。ところが、この頃めっきりオスの姿を見ることがありません。

 時間的な制約と天候不順などで、観察不足は否めませんが、このアオゲラのペアの繁殖状況は、ガスに煙る山のごとく未だベールに包まれています。

文責 増田 克也



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