風格をたたえ飛ぶ


 希に本校の上空を、とんでもなく大きな鳥が飛ぶことがあります。それは、よく見かけるトビよりまだ大きなもので、ハッと空を飛ぶ姿に気付いても、あれよあれよという間に山の稜線(りょうせん)に消えていきます。ところが今回は、30秒ほど上空を旋回(せんかい)して、その勇壮(ゆうそう)な姿を見せてくれました。

 この大きな鳥の名前はクマタカといい、ワシやタカの仲間です。日本では、九州より北の山地に分布し、一年を通して同じ縄張(なわば)りの中で、ベビやカエルの様な小動物から、ヤマドリ、カケスなどの鳥類、また時にはノウサギやテンといったほ乳類まで、森林に生息する様々な生物を捕(と)らえて餌(えさ)としています。

 飛んでいる姿を下から見上げたときの特徴(とくちょう)は、頭と顔は黒く、翼(つばさ)には規則正しく並んだ斑点(はんてん)があり、尾羽にある数本の黒帯模様もよく目立ちます。また、広げると160センチ以上にもなる大きな翼は、後ろの縁(ふち)が張り出したように太く幅広(はばひろ)で、トビと比べるとその風格は段違(だんちが)いです。

 翼に風をたたえ悠々(ゆうゆう)と飛ぶクマタカとは対照的に、地上で撮影する私は、姿を観賞している余裕(よゆう)など全くなく、ただ「飛んでいかないでくれ!」と念じながら、あたふたとシャッターを押します。
 しかしながら、こちらの思いは届かず、クマタカはいっそう高く舞(ま)い上がると、下界に睨(にら)みを利かせて山の頂を越(こ)えていきました。

 現在、クマタカは、環境(かんきょう)の悪化、汚染(おせん)物質の体内蓄積(たいないちくせき)、密猟(みつりょう)や巣への不用意な接近といった人間による迫害(はくがい)などが原因し絶滅(ぜつめつ)の危機に瀕(ひん)しています。
 そのため、同じ大型猛禽類(おおがたもうきんるい)のイヌワシと共に、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」によって国内希少動植物種に指定、環境省のレッドリストでは、絶滅危惧(ぜつめつきぐ)TB類《近い将来における絶滅の危険性が高い種》に、また兵庫県のレッドデータブックでは絶滅危惧種Aランクに指定されるなど、ありがたくない肩書(かたが)きがたくさん付けられています。


 以前に「クマタカやイヌワシがいなくなったら、人の生活に影響(えいきょう)するの?」と問われたことがありました。
 クマタカやイヌワシが絶滅しても、直ちに電気が使えなくなるとか、自動車が動かないといった不便はないでしょう、しかし、食物連鎖(しょくもつれんさ)の頂点に位置する彼らが生存する環境は、多様な生物によって豊かでバランスのとれた自然が保たれている証拠(しょうこ)であり、延(ひ)いてはその環境こそが、私たち人間にとっても掛(か)け替(が)えのない財産であることを忘れてはならないと思います。

文責 増田 克也


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