イヌワシ 08.10.07




兵庫のイヌワシ



 国の天然記念物イヌワシは山に暮らす大型の猛禽類(もうきんるい)です。餌(えさ)としてヘビ、ヤマドリ、ノウサギ、テン、キツネ、タヌキなどの動物を、山地のやや開けた伐採地(ばっさいち)や草地で狩(か)り、1年を通して同じ縄張(なわば)りの中で生活をしています。
 イヌワシは北海道から九州まで広い範囲(はんい)に分布していますが、自然豊かな山岳(さんがく)に広い縄張りを必要とするため、彼らが暮らせる地域は限られています。生息数は全国で400〜650羽とされ、その多くが北陸、東北、信越(しんえつ)地方に集中しています。

 兵庫県にもイヌワシが棲(す)んでいます。しかし、その数はわずか8羽といわれ、県のレッドデータブックでは絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)Aランクに指定されています。
 日本イヌワシ研究会兵庫地区の調査では、1960年代には36羽が確認されていましたが、その後どんどん減り続け2007年の調査では、ついに8羽となり、しかもそのうち番(つが)いは1組だけとなってしまいました。兵庫のイヌワシは絶滅への道をたどり続けています。

 先日、その8羽のイヌワシの1羽に運良く出会うことができました。遠く離れた山の上に、米粒(こめつぶ)ほどの大きさのトビに似た鳥が舞(ま)い上がるのを見つけて双眼鏡(そうがんきょう)でのぞくと、その小さなシルエットはトビではありません。しかも頭をまっすぐ向けてこちらに近づいているようです。翼(つばさ)を浅いV字型に保ち、1度も羽ばたくことなく空を滑(すべ)るようにぐんぐん迫(せま)ってきます。「これはイヌワシだ!」と確信してから頭の上を通り過ぎるまで、わずか1分ほどの出来事でした。
 翼を広げると2メートルにもなるイヌワシの迫力(はくりょく)にはただ圧倒(あっとう)されます。みなさんにもその大きさを感じてもらえるように、空を飛ぶイヌワシの写真にカラスのイラストを並べてみました

 生態系の頂点に位置するイヌワシは、自然のバロメーターでもあります。イヌワシの生息する兵庫県には、豊かな自然が残されている証拠(しょうこ)です。しかし、数を8羽まで減らしてきたこの現状をみると、「兵庫県の自然は減りつつある」とも言えるでしょう。
 その昔、神と崇(あが)められ、日本各地に残る天狗伝説(てんぐでんせつ)のモデルとなったこのかけがえのない大きな鳥が、いつまでも兵庫の空を悠々(ゆうゆう)と舞って欲しいと願うのは贅沢(ぜいたく)な望みなのでしょうか。

文責 増田 克也


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