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古文書を読む―織田信長朱印状―

朱印状を読む

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 この文書にはどういうことが書かれているのでしょうか?画像と読み起こした釈文を載せますので、少し詳しく読んでみましょう。ただし、画像の文字をそのまま起こしただけでは、まだなかなか難しいと思います。読み下し文、現代語訳と順々に載せていきますので、挑戦してみてください。

 ただし、まだご覧になっていない方は、「当館蔵 織田信長朱印状」から先にお読みいただくことをお勧めします。

原文から釈文へ

 さて、この文書に書かれた文字、ぱっと見ただけでは、とても普通の方にはお読みになれないだろうと思います。ただ、釈文とつきあわせてみると、いくつかの文字はそのように見えてくるのではないでしょうか?たとえば冒頭の「赤井」とか、五行目冒頭の「一味」などは、そう言われればそうかと思われませんか?

 しかし、中にはどうしてこうなるのだろう?と思うぐらい形が違う文字も見られると思います。実は、くずし字を読みこなしていく入り口は、こうしたくずしがきつい文字をいくつか覚えてしまうことにあるのです。なぜくずしがきついかというと、それはよく使われる文字だから、当時の人としては面倒なので思い切ってくずしてしまうのです。ですので、こうした文字を覚えてしまえば、出てくる回数が多いですから、だんだんと読みやすくなっていきます。

 では、いくつかだけ、くずしのきつい文字を紹介してみましょう。

「悪右衛門尉」 「令」 「候」「然」 「以」「不可有」※ロールオーバーで画像が切り替わります。

 いかがだったでしょうか?こうしたくずし字は、最初はなかなかとりつきにくいものです。しかし、外国語と一緒で、我慢してくりかえしたくさんのものを読んでいると、だんだん読めるようになっていきます。少し難しかったかもしれませんが、古文書の世界の入り口だけ、ご紹介しました。

釈文から読み下し文へ

 これは、書かれている文字をそのまま起こしたものです。しかし、これだけですと、多分読みにくいと思います。なぜなら、まず漢字のみで書かれているので送りがなを振らないといけません。また、「令佗事候」=佗び事せしめ候、「令一味之輩」=一味せしむるの輩、「無異儀申付」=異儀なく申し付くる、「不可有相違候」=相違あるべからず候、というように、漢文調に返りながら読まないといけないところもあります。ですので、つぎに読み下し文を載せます。

読み下し文から現代語訳へ

 ここまでくると、少し読みやすくなったかと思います。ですが、やはり古文、使っている言葉が現代語と大分違います。たとえば、「佗言=許しを乞うこと、嘆願」、「赦免=許す」といった単語は辞書を引く必要がありそうです。また、「身上=領地」、「当知行=現在支配している土地」といったように、古文書特有の意味を持つ言葉もあります。こういう言葉は、古文書をたくさん読んでいく中で意味がわかってくるものです。こうしたそれぞれの文言の意味を押さえながら、つぎに、現代語に訳したものを載せてみましょう。

 それでは、ここには何が書かれているか、中身の解釈をしてみましょう。まず冒頭、「赤井五郎・荻野悪右衛門尉については、いろいろと嘆願してきていますので、許すこととします。」とあります。この記述から、信長が一旦は赤井忠家・荻野直正と和議を結んだことがわかります。つづいて、「去年から織田方に味方しているものたちの所領については、今後も変更がないようにする」とあります。和議は結ぶが、織田方についている諸氏の所領には変更を加えない、ということです。

 そして、「所領については現状通りを保証します。」と書かれています。これは誰の所領でしょうか?この点は宛先に注目して考えることになります。この文書での宛先は、「矢野弥三郎殿」です。したがって、この所領も矢野の所領ということになるでしょう。つまり、この文書は、信長が矢野弥三郎に対して、赤井・荻野との和議によっても矢野の所領については現状通りを保証するので、これからも光秀に従って忠節をつくせと伝えている、ということになるのです。

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