トップ > 学芸員コラム れきはく講座

学芸員コラム れきはく講座

 こんにちは。兵庫県立歴史博物館です。このコラムは、当館の学芸員が兵庫県域の歴史や、あるいはさまざまな文化財に関するちょっとしたお話をご紹介していくものです。一月から二月に一度のペースで更新していきたいと考えていますので、どうぞよろしくお付き合いください。

 

第123回:江戸時代に「共感」する―特別展の楽しみ方  2020年11月14日

主査・学芸員 大黒 恵理

 

 現在、当館で開催中の特別展「女たちのひょうご―千姫から緒方八重まで―」。千姫や緒方八重などの著名な人物から商家や庄屋の女性まで、“ひょうご”ゆかりの女たちを多数取り上げながら、江戸時代の女性の多様な人生について考える展覧会です。

 ちょうど前半が終わろうかという10月31日(土)には、女性史研究の分野で活躍する研究者をお招きし、当館館長と語り合う「館長トーク」を実施しました。

 ご登壇いただいたのは、沢山美果子氏(岡山大学大学院社会文化科学研究科客員研究員)、柴桂子氏(近世女性史研究家)、ベティーナ・グラムリヒ=オカ氏(上智大学国際教養学部教授)の3名。当館館長の藪田貫も含め、いずれも日本近世女性史の発展を支えて来られた方々です。

 

館長トーク「女性史研究ってなぁに?―江戸の女たちの魅力を語る―」(令和2年10月31日(土)開催)

 

 前半では、それぞれ女性史研究を志すようになった経緯や研究内容をお話しいただきながら、近世女性史研究のあゆみをたどりました。

一転して、後半ではご来場の皆さまから質問を募り、先生方にお答えいただくかたちでトークを展開しました。沢山氏には江戸時代の女性の出産、授乳、捨て子について。柴氏には当時の識字率や女性の仕事について。オカ氏には江戸時代の女性の渡航や海外での女性史の発展についてなど、会場からはたくさんの質問が。

 展覧会の図録を傍らで広げながら聴かれる方、大きく頷きながらメモを取られる方…。皆さま最後まで非常に熱心にお聴きいただきました。時間の都合上、すべての質問にお答えいただくことができませんでしたので、まだ物足りない!という方もいらしたかもしれません。兵庫における女性史研究がますます発展し、またこのような機会がもてるよう努めたいと思います。

 今回の展覧会は、江戸時代の女性をひとくくりに「女性一般」として見るのではなく、可能なかぎり「個」に迫ろうとするものです。史料の制約もあって、その暮らしぶりや一生を詳しく紹介できる女性は限られてきますが、江戸時代に生きたすべての女性の存在を意識しながら企画しました。そのことは、チラシの裏にもこっそり表現しています。

 

チラシの裏側 飾り枠に注目! 

 

 チラシ裏の周囲に配置されている飾り枠。よく見ると、すべて江戸時代の女性の名前なのです。館蔵品の古文書を片っ端から撮影し、その中から女性の名前を切り抜いて配置しました。今回のコンセプトを聞いた他館の学芸員がアイデアを出してくださり、試行錯誤して今のかたちになったものです。展覧会のタイトルこそ「千姫から緒方八重まで」となっていますが、著名な人物だけではなく、注目されることもない女性がたくさん生きていたこと、彼女たち一人ひとりの人生が積み重なって歴史となること、それを少しでも表現できていればと願っています。

 また、一人ひとりの女性の内面・感情に可能な限り迫ることで、観覧者の方に「共感」してもらえれば、というところも意識したポイントです。トークの中で先生方もおっしゃっていましたが、実際に今回の展覧会に対しては「当時の女性が書いた手紙に共感した」「今も昔も考えることってあまり違わない」という感想をよくいただきます。

 家族を心配する気持ちや思いやる気持ち。あるいは家族だからこそ我慢できない怒り。展示資料には、そのような女たちの気持ちがあふれています。今回の展覧会の切り口はたしかに「女性」ですが、男か女かということだけではなく、できる限り一人一人を「個」として捉えようと意識しながら企画しました。どのような方にも、共感していただける部分があるのではないかと思います。

 11月3日(火)からは後期展示が始まりました。錦絵や肖像画などの絵画資料、小袖や帯などの染織品はすべて展示替えを行い、前期とは異なる資料が並んでいます。一度ご来場いただいた方も、ぜひ再度足をお運びください。