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学芸員コラム れきはく講座

 こんにちは。兵庫県立歴史博物館です。このコラムは、当館の学芸員が兵庫県域の歴史や、あるいはさまざまな文化財に関するちょっとしたお話をご紹介していくものです。一月から二月に一度のペースで更新していきたいと考えていますので、どうぞよろしくお付き合いください。

 

第116回:特別展「お城ができる前の姫路」 2019年11月15日

学芸員 前田 徹

 

 この展覧会は、姫路に伝わる豊かな文化財をとおして、現在のお城ができる前、すなわち中世の姫路の姿を紹介する展覧会です。「姫路」というと現在の市域中心部だけの展示かと思われるかもしれませんが、ここではより広く、現在の姫路市域全体を対象としています。

 

特別展チラシ表面

 

 展示の構成は、市域中心部の総社からはじめて、市街地北側の山並みの上にある広峯神社や圓教寺、随願寺、八葉寺といった古代以来の寺社をご紹介していきます。ついで、浜手の地域である松原や英賀、網干に伝わる絵画を中心とした豊かな文化財を展示し、さらに市域北側の山手の地域に伝わる彫刻を中心とした文化財を紹介しています。そのほか、古文書を中心に、守護赤松氏などの中世の政治権力と姫路との関係も紹介しています。

 

特別展チラシ裏面

 

 展示をとおして注目していただきたいのは、まずひとつには市域に伝わる中世の文化財の豊かさです。全体をとおして、144件の資料を展示していますが、彫刻、絵画、古文書、考古資料の各分野にわたって、とても多くの中世の文化財が市域には伝わっていることをご覧いただければと思います。

 また、こうした文化財をとおしてみると、中央との交流の中でできあがってきたものも多いことにも注目していただければと思います。圓教寺など、古くからのお寺は、それ自体が都から来た僧侶によって創建されているものが多くみられますし、伝来している仏像や絵画、あるいは瓦などの建築部材なども、中央の仏師や絵師、職人が作成したものが数多くみられます。こうした中央とのつながりの中で、たとえば夢前町古知之庄に伝わっている菩薩坐像など、大陸で制作された作品が京都からこの地域にもたらされている事例も紹介しています。

 

 個々のご注目いただきたい資料としては、まず、圓教寺旧蔵の彫刻である薬師如来坐像があります。平安時代中ごろ、圓教寺が創建されたころの仏像の一つです。圓教寺には大講堂に創建当初の仏像が残っていますが、これと同時期の貴重な彫刻です。この薬師如来坐像は、現在は滋賀県長浜市の舎那院に所蔵されています。秀吉のころまでは圓教寺の根本薬師堂というお堂の本尊でしたが、天正6年(1578)に圓教寺に陣取りした秀吉が本拠の長浜に持ち去ったため、現在長浜に伝わっているものです。このたび441年ぶりに姫路まで帰ってきた仏像となります。

 また、浜手の地域に伝わる北野天神縁起絵巻も見所です。飾磨の西にある津田天満神社所蔵で、重要文化財に指定されている鎌倉後期の作品と、英賀神社所蔵の南北朝時代、戦国時代の作品を展示しています。鎌倉時代の作品は時代が古く、絵画としてとても優れた作品です。英賀神社所蔵本は、南北朝時代のもののうち上・下巻が津田本を写したものであることが知られており、近隣地域で写しによって天神縁起絵巻が広まっていったことがわかるとともに、このころ天神信仰が播磨の浜手でかなり活発に展開していたことを示しています。また戦国時代のものは図様として天神縁起の古い姿をとどめる作品として研究のなかでは注目されています。

 さらに、大覚寺所蔵の仏教絵画の中に、当麻曼荼羅という極楽浄土の模様を描いた大きな作品があります。これは奈良の当麻寺に所蔵されているものの模本として全国に多数伝来しているものの一つです。大覚寺には当麻曼荼羅が南北朝時代のものと天正17年(1589)制作のものと二つ所蔵されています。このうち天正年間に制作されたものは、奈良から絵師を半年ほど大覚寺に招いて制作されたことが知られているとともに、時の後陽成天皇の筆が一部に加えられている可能性も考えられる作品です。また、完成して3年ほどたったころに、豊臣秀吉が大覚寺で観覧しています。こうした中央とのつながりが色濃くみえる制作事情は、時の住職政天が持っていた都との人脈の中で実現したものと考えられます。

 そのほか、先述の中国南宋で制作された仏像や、あるいは羽柴秀吉が播磨を制圧した直後に作成した検地帳もあります。織田政権下の検地帳は全国的にみても極めて数が少なく、貴重な文献史料です。

 

 展示全体をとおして、まずは姫路の中世の豊かさを感じていただければと思います。またそうした文化財の多くが、地域の中だけではなく、中央とのつながりの中でできあがってきたことにも注目していただければ幸いです。これは姫路という地域、播磨という地域の中央との近さを示す素材といえます。こうした点も含めて、全体をとおして、お城だけではない姫路の魅力を見つけていただく機会としていただければ幸いです。

 

博物館外観

 

 会期は11月24日(日)まで、開館は10時から17時まで、入館は16時30分までです。会期残りわずかですが、お時間がありましたら是非ご観覧ください。