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学芸員コラム れきはく講座

 こんにちは。兵庫県立歴史博物館です。このコラムは、当館の学芸員が兵庫県域の歴史や、あるいはさまざまな文化財に関するちょっとしたお話をご紹介していくものです。一月から二月に一度のペースで更新していきたいと考えていますので、どうぞよろしくお付き合いください。

 

第110回:葛飾北斎「文字絵六歌仙」 2019年5月15日

主査・学芸員 山田加奈子

 

 現在、当館では「五大浮世絵師展 歌麿・写楽・北斎・広重・国芳」と銘打ち、5人の浮世絵師を取り上げた展覧会を開催中である(6月16日まで)。

5人の絵師の名品を紹介しているので、お客様からは一度に様々な絵師の作品を見ることができてうれしい、画風などを比べながら鑑賞できてよかったといった感想をいただいている。

 

 本展では146点ほど展示しているが、中でも質問が多いと感じる作品は、葛飾北斎の「文字絵六歌仙」である。これは六歌仙を1人ずつ描いた6枚の揃物で、その全てを並べて展示している。 

 画面の上部にはおのおの詠んだ和歌が記され、下半分にそれぞれ座る姿が描かれる。そして、よく見るとそれらの衣裳の輪郭線が、各自の名前の文字で構成されている。例えば、在原業平なら「在ハらのなり平」の7文字で装束が描かれている。

 今回は、「文字絵六歌仙 文屋康秀」がわかりやすいので、これを例にとって解説してみたい。

 

葛飾北斎「文字絵六歌仙 文屋康秀」
1810年頃

 

 

 

 この作品では、「ふんやのやすひで」の8文字で狩衣と袴が描かれる。

向かって左の肩に「ふ」、狩衣の後ろの裾が「ん」、向かって左の袖から足にかけてが「や」となる。

「の」は上下が逆の状態で襟から肩の輪郭線を構成し、向かって右の肩から袖および胴の部分は上下が逆の「や」となる。

「す」は90度傾いて狩衣の前裾部分に描かれ、「ひ」は腹部のところに確認できるがこれは当帯だろうか。

そして、最後の「て」は袴のむかって右の部分となる。

 このように文字絵という趣向が凝らされた本作品は、その部分を興味深くご覧になるお客様が多い。また、和歌を読んで楽しまれるお客様も結構おられ、出品作品の中では目立たない作品ながら、足をとめてじっくりと鑑賞するお客様が多い人気作品である。

他にも、北斎の「冨嶽三十六景 神奈川浪沖裏」や歌川国芳の「相馬の古内裏」など人気の浮世絵を展示しているので、ぜひ姫路まで足を運んで、ご覧いただければ幸いである。