こんにちは。兵庫県立歴史博物館です。このコラムは、当館の学芸員が兵庫県域の歴史や、あるいはさまざまな文化財に関するちょっとしたお話をご紹介していくものです。一月から二月に一度のペースで更新していきたいと考えていますので、どうぞよろしくお付き合いください。
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第106回:絵解き『熊野観心十界曼荼羅』(2)あの世への行き方
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学芸員 藁科 宥美 | ![]() |
前回のコラムでは、当館所蔵の『熊野観心十界曼荼羅』(資料名:熊野観心十界図)における餓鬼の世界についてお話ししました。
では、六道の世界に行くまでに人は死後、どのような順路でそれぞれの世界に行くのでしょうか?
今回のコラムでは、人の一生から死後どのようにあの世へ行くのかということについて考えてみたいと思います。
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熊野観心十界図(当館蔵) ※以下の写真は上記資料の部分 |
まず画面上半分に大きく描かれているのが「老いの坂」です。
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老いの坂 |
これは人の一生を坂に例えて描かれたもので、画面向かって右から左にかけて時間が経過しています。右下にある館の中では出産のシーンが描かれており、右の鳥居から赤ん坊が坂を上り始めます。坂を上るにつれ、成長、元服を経て、真ん中で人生の頂点を迎えます。その後は年老いていき、定年を迎え、最後は左の鳥居で臨終するという流れで表現されています。
また、この坂の外側に描かれている木々に注目してみると、右から梅→柳→桜→松→杉→紅葉→楓→冬枯れといった順になっています。これは人の一生を四季に照らし合わせて描かれており、おそらく四季を大切にしている日本ならではの表現なのではないでしょうか。
ここから死後の世界になります。
次に向かうのはこの怖い顔をしたお婆さん「奪衣婆(だつえば)」のところです。奪衣婆は、亡者の衣を剥ぎ取り、後方にある衣領樹(えりょうじゅ)と呼ばれる木の枝にその衣を掛け、枝のしなり具合を見て罪の軽重をはかっています。
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奪衣婆・衣領樹 |
次に出てくるのは、あの有名な「三途の川」!
名前の通り、3つの渡り方があることから“三途”の川と呼ばれています。これは、先程の衣領樹によって示された罪の重さによってその渡り方が変わるとされており、次の3種類に分けられます。
徳を積んだものが地蔵菩薩などによって導かれて渡る「有橋渡(うきょうと)」
罪の軽いものが穏やかな浅瀬を渡る「山水瀬(さんすいらい)」
罪の重いものが流れの速い、龍や蛇などの化物がいる川を渡る「江深淵(こうしんえん)」
この『熊野観心十界図』では、上部に「有橋渡」、下部に「江深淵」が描かれているのが分かります。
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三途の川 |
ここまでお話しした「奪衣婆」と「三途の川」については、『佛説地蔵菩薩発心因縁十王経』という経典が典拠となっているとされています。
三途の川を渡り、いよいよ死後の世界の顔とも言える“閻魔王(えんまおう)”の元へ・・・!
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閻魔王 |
閻魔さん、閻魔大王と親しまれている“閻魔王”ですが、一体なにをしている人なのでしょうか?
閻魔王は、裁きを下すものとして位置づけられている“十王(じゅうおう)”のうちの一人で、特徴的な3つのアイテムを持っています。
1つ目は、閻魔王の向かって右側にある鏡、「浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)」。これは亡者の生前の行いが映し出されるもので、どんな悪事もこの鏡ですぐに分かってしまう、つまり閻魔王の前では隠し事は通用しないということです。
2つ目は、左側にある秤、「業の秤(ごうのはかり)」。これは生前の罪の軽重をはかるものとされています。
3つ目は、赤と白の顔が特徴的な「檀荼幢(だんだどう)」。これは『熊野観心十界図』にはありませんが、一例として『和字絵入 往生要集(わじえいり おうじょうようしゅう)』という和本の中に描かれています。
赤い顔は「太山府君(たいざんふくん)」、白い顔は「黒闇天女(こくあんてんにょ)」といいます。太山府君は生前の悪行を、黒闇天女は生前の善行を記録し、閻魔王に漏らさず報告するとされています。
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和字絵入 往生要集 (当館蔵) |
そして閻魔王が裁きを下した結果、次に行く世界が決まります!
さて、あの世への行き方は分かりましたか?
これを見ると、いかに生前の行いが後に関係してくるかが分かると思います。これはまだ導入部分ですが、当時の人々はこのような仏教世界を知ることで、改めて自分を見つめ直す機会としていたことでしょう。
1月27日(日)14:00〜15:30に当館地階ホールにて、れきはくアカデミー「六道絵から見るあの世観」を講演致します。
お時間がありましたら、ぜひご来館下さい!