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学芸員コラム れきはく講座

 こんにちは。兵庫県立歴史博物館です。このコラムは、当館の学芸員が兵庫県域の歴史や、あるいはさまざまな文化財に関するちょっとしたお話をご紹介していくものです。一月から二月に一度のペースで更新していきたいと考えていますので、どうぞよろしくお付き合いください。

 

第91回:強運の龍野神社旧蔵文書
      ―特別展「ひょうごと秀吉」出品資料から―  2017年10月15日

学芸員 前田 徹

 

 現在開催中の特別展「ひょうごと秀吉」展では、ここ数年新聞等で報道された新紹介資料を多数展示しています。今年7月に東京大学史料編纂所と当館との合同記者発表で新紹介された豊岡市個人ご所蔵の秀吉自筆書状、また、展覧会開会直前の10月に当館からの記者発表で新紹介となった熊本県天草市の個人ご所蔵の秀吉自筆判物などは、ご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

特別展チラシ

 

 さて、こうした近年の新紹介資料の中でも、量的に中心となるものが、たつの市立龍野歴史文化資料館所蔵の龍野神社旧蔵文書です。今回の展覧会では全部で46件を前期・後期に分けて展示します。

 龍野神社旧蔵文書は、直近では2016年1月に新聞紙上やテレビを賑わせました。この文書群は、本来は龍野藩主の脇坂家に伝来したものです。事情があってここ数十年ほどは別の個人所蔵となっていたものを、2014年春に、たつの市立龍野歴史文化資料館(以下「龍野歴文」)が購入しました。この購入は、龍野歴文館長市村高規氏の長年にわたる働きかけが実を結んだものでした。

 

たつの市指定文化財 龍野神社旧蔵文書のうち
羽柴秀吉朱印状 天正13年(1585)閏8月7日
たつの市立龍野歴史文化資料館蔵 写真撮影:東京大学史料編纂所

 

 さて、この文書群は、購入の時点で一旦新聞記事となり、それまで未周知だった新発見の秀吉文書が含まれているとみられましたので、同年6月に東京大学史料編纂所(以下「東大史料」)の村井祐樹氏(当時助教、現在准教授)が調査をすることになりました。

 しかしながら、この文書群は、購入の数年ほど前に所蔵者宅で火災にあっていました。このため、大部分のものは火事場の放水で一旦水損、その後十分な手当がなされないままとなっていたので、折りたたまれた状態のまま紙同士が固着してしまい、開披できないものばかりになってしまっていました。また、一部には焼け焦げた部分があるものもありました。ごく一部だけ、折りたたみを少しだけ開けるものがあり、覗いてみると秀吉の朱印が見える、といった状態でした。

 ただし、折りたたまれた状態の固まりのままでみても、紙の質や形状からみるとほかにも秀吉文書がまだまだ埋まっている可能性が期待できました。しかし、修理費用を十分に確保する目途が簡単にはたたない状態となっていました。このため、古文書の紙質の調査をする素材にさせていただくという条件で、東大史料の所内の修理工房で修理していただくことに話しがまとまったのです。

 もちろん、これは普通ではありえないことです。全国には困った状態の資料はほかにもたくさんあります。それをみな引き受けていては、たちまちに破綻してしまいます。しかし、この資料の場合は、その重要性から、そこまでしてもよいという判断をしていただくことができました。本当にすこぶるつきで運のよいことでした。火事場で焼けなかったのも運がよかったわけですが、そこからの修理の過程でも再びこの文書は強運を発揮したことになります。

 

 その後、2014年の9月から2015年一杯にかけて東大史料で修理が行われました。その途中、2015年6月に東大史料から刊行された『大日本史料』第11編之27(天正13年補遺)に、天正12年(1584)から13年(1585)に係るものの翻刻が掲載されました。

 さらに修理に一区切りがついた2016年1月には記者発表が行われ、ついで同年2月から4月まで、龍野歴文の展覧会「秀吉からのたより」で修理が完了したものの全容が展示されることになったのです。

 東大史料で修理できた文書は、秀吉の発給文書が33通、ほかに秀吉自筆奥書付きで、太閤検地直前の状況を示すものとしてきわめて重要な淡路国指出寄帳のほか、徳川秀忠や江戸幕府の重臣らのものなども含まれていて、全部で46件にのぼりました。

 

 なお、2014年6月の調査は、東京大学史料編纂所一般共同研究「兵庫県下所在豊臣秀吉文書の調査・研究」(研究代表者:前田徹)の経費で実施しました。新発見の現場に立ち会えることができて私も運がよかったと思っています。こうした強運に恵まれた龍野神社旧蔵文書、現在当館特別展「ひょうごと秀吉」で展示中です。龍野神社旧蔵文書は会期の前期と後期とでほぼ半分ずつ展示します。ご関心がおありの方は、是非この機会にご観覧ください。

 

 兵庫県立歴史博物館特別展「ひょうごと秀吉」、会期は11月26日(日)まで。展示替えは11月5日(日)までが前期、11月7日(火)からが後期です。毎週月曜日は休館日ですのでご注意ください。詳しくは、当館ホームページもご覧ください。

 

チラシ裏面