神農絵巻
 そのむかし妖怪たちは、娘やお婆さんをさらい、田畑を荒らして、人々を悩ませていました。そこで人々は神農どのに、「妖怪を退治してわたしたちを助けてください」とお願いしました。神農どのはこの頼みをききいれて、お供の猿丸太夫(さるまるたゆう)・犬坊丸(いぬぼうまる)・鳥海弥三郎(ちょうかいやさぶろう)に命じて、里芋やサツマイモ、栗、柿をたくさん茹でさせました。そしてそれらを持って四人で旅立ちました。
 神農どのは、太夫・犬坊丸・弥三郎と力を合わせて舟を繰り、海上を走りました。順風に帆を上げて十二万三千四五六里七八町九間を渡ったところ、はるか彼方に「妖怪が島」が見えました。この島へ上陸すると、神農どのは「暴風に遭ってこの島に着きました。よい風が吹く日を待って出発します」と伝えました。それを聞いて妖怪たちは安心し、四人を妖怪の大王のもとに連れていきました。
 岩屋の城廓に住む妖怪の大王は、神農どのをもてなしました。四人は大王の前にひざまづき、「わたしたちは暴風に遭ってここに来ました。ともにお酒を飲み交わしましょう。さあさあ」と言いました。神農どのは、犬坊丸に杯(さかずき)をとらせ、太夫に一差し舞わせましたので、酒宴はおおいに盛りあがりました。酒宴が終わるとみな寝室に入り、大王も閨(ねや)に入りました。
 妖怪たちが寝静まったあと、四人は持参した芋や栗、柿を、腹一杯食べました。大王の閨は、大きな石でできた扉門でふさがっていました。しかし神農どのが石火矢(いしびや ※大砲のこと)のごとく屁をひると、扉門はたちまち崩れました。太夫・犬坊丸・弥三郎もつづいて屁をひると、妖怪たちは屁毒にあたって倒れました。たまりかねた大王は宝物を差し出しました。こうして妖怪を退治した神農どのたちは、宝物を持って西海へと帰りました。
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