作品解説
道成寺縁起絵巻(どうじょうじえんぎえまき)
道成寺縁起絵巻(どうじょうじえんぎえまき)
耕雲・玄甫筆 寛政8年(1796)11月上旬 1巻 紙本墨画淡彩 巻子装
縦26.9㎝×全長718.4㎝ 全19紙継

 旅の僧安珍に恋をした清姫は、その跡を追いかけて紀伊国(今の和歌山県)の道成寺まで至ります。釣鐘の内に隠れた安珍を求めて、蛇身となった清姫が巻きついて炎を吐くという、凄まじい物語の光景が展開します。描かれた各場面が、口語性の強い画中詞をまじえながら連続して巻末へと導く構成をとります。

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 道成寺にまつわる物語を描いた絵巻物です。本来の巻頭部分が欠損しており、主人公である美男の僧安珍と安珍に恋する清姫の出自は不明です。清姫が安珍を追いかける「切目川」の場面からはじまっており、絵画場面は次の12段で構成されています。

  • (1)切目川を渡る清姫
  • (2)切目五体王子にて安珍を見つける清姫
  • (3)上野にて岩に腰掛け炎を吐く清姫
  • (4)天田川に近づく清姫と船頭
  • (5)蛇身となって川を渡る清姫
  • (6)道成寺境内にて助けをもとめる安珍と釣鐘を用意する僧侶たち
  • (7)境内にて安珍を探す清姫
  • (8)釣鐘に巻きつき炎を吐く清姫
  • (9)釣鐘のなかで黒焦げになった安珍の遺体
  • (10)老僧の枕もとに蛇として現れた安珍と清姫
  • (11)道成寺での法華経供養
  • (12)僧の夢に天人となって現れた安珍と清姫

 これらの絵画は、場面々々を連続させて巻末へと導いていく構成をとり、また独立した詞書はなく、口語性の強い画中詞によって物語を補足するといった特徴を持っています。

 こうした道成寺の物語は「道成寺説話」と総称されており、古くは仏教説話集の『本朝法華験記』下129「紀伊国牟婁郡の悪女」や、『今昔物語集』巻第14第3「紀伊国道成寺僧、写法花救蛇語」に原拠を求められ、中世から近世にかけても社寺の説教で語り継がれました。また幕末の『古画備考』や『考古画譜』には、応永七年(1400)制作の「道成寺縁起絵」二巻の存在が述べられ、したがって室町時代前期にはすでに絵巻物「道成寺縁起」の原型が制作されていたと推定されます。

 同話の絵画資料としては、足利義昭の花押をもつ重要文化財「道成寺縁起」(二巻 室町時代 道成寺蔵)が最古のものです。この絵巻物に依拠して、元禄五年(1692)銘「道成寺縁起」(サントリー美術館蔵)をはじめとする多数の諸本が制作されました。

 本作品は、奥書によれば寛政8年(1796)11月上旬に筆写されたものです。重文「道成寺絵巻」と比較すると、上下二巻の内容は一巻分にまとめられ、在地系の伝承をも取りこみ、画中詞にも改変が加えられていることがわかります。こうした絵巻物を用いておこなう道成寺説話の絵解きが、江戸時代後期には、道成寺や熊野道中の寺社や茶店などで行われていたことが指摘されています。本作品もそのような目的のために制作されたのでしょう。

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