第一章 出会い
「なんでやねん」心の中で叫びながら泳ぎ続ける。 これが世に言うトランプ?アホ、それを言うならスランプやろっ!って一人でツッコミ入れてごまかしてみても、身体が重い事には変わりはない。日に焦げた肌が、余計にじりじりする。私は真夏の元気な女の子♪ちょっとやそっとのことではへこたれない。でも・・・やっぱり・・・なんか私・・・変?(変って言うのは顔や性格の事ではない)多分あの日から・・・。
そうあの日。部活が終わって帰っていると、白い野球帽を深めにかぶり首にスポーツタオルを掛けた野球部の男の子が走っていた。ユニフォームが泥で汚れていた。「野球部も頑張っているんだなあ」なんて考えながら帰っていると、道端で遊んでいた小さな男の子が転んでしまった。私が「大丈夫?」って言うより先に野球部の彼がわんわん泣く男の子に「大丈夫か?」って駆け寄って「泣いたらあかん!」って自分の首に掛けていたスポーツタオルで泣く男の子の涙を拭いてあげていた。それで泣き止んだ男の子に「ほら、お姉ちゃんも心配しているぞ」って言って二人でこっちを向いて、笑って、「ありがとう」って。「スゴイ笑顔の優しい人だなあ」って思うと同時に身体にビビッっと電流が走った!ほら何年か前に松田○子が「あった瞬間にビビビッとしました」と言っていたけど、あの時は「そんなはずは無いやろう」って思っていたけどやっぱりそんなことがあるんだなあ。
それ以来、わたしの頭には彼のことで、いっぱいで・・・他に考える余裕すらない。水泳なんてもってのほか。どうしよう・・・あの日のことが、何度も何度もよみがえる。こんなこといままで一度もなかったのに。名前は、なんて言うんだろう。どこの学校だろう。あのユニホームは同じ学校?あんな人いたっけ?お兄ちゃんに聞いてみようかな・・・今何してるんだろう?私のこと知っているだろうか?やっぱり好きな人がいるんだろうな。あの人のことばかり考えてしまう。私、やっぱり・・・好きなのかな・・・
今日は午後から雨だった。やっと彼に会えた。でも、あの日のことを覚えているだろうか?わからなくて話しかけられなかった。彼は傘を忘れたらしく、汚れたユニホームで雨の中を走っていった。その時、彼のかばんから、何かが落ちた。彼は気ずかず、走り続けた。何かと思えば、生徒手帳だった。「3年B組、星野彗(ほしのすい)・・・」私はそれを家に持ち帰った。その日は、雨がやまずに降っていた。 |