最終話 Get Along

「転校するねんよ、俺」確かにそう聞こえた。と思ったけど確認のためにもう一度、「あの〜、今、何と?」
「いや、だから転校するんよ、俺。」
(何だ何だ!?突然いったい何を言い出すんだ、この男は!いつもの冗談か!?俺をからかってるのか!?てかその笑顔は何なんだ!?)体は固まったままだが頭はフル回転、そんな俺にかまわずコイツは続ける。
「まぁまだもうちょっと先の話やねんけどな、来月いっぱいでオヤジがこっちの仕事終わるからさ、淡路に帰ることになってんよ。そやからこの大会ってうちの高校でプレイする最後の大会やったわけ。好きやってんけどなー、うちの部。」
 最近冴えない日が続いて今日やっと晴れた気分だって言うのに、何を言い出すのかと思えばまた冴えないニュース。一体どう対応すればいいんだか。一先ず聞いておくことは、
「・・・バレーは、どうするんだ?」
「ああ、もちろん続ける。ちっちゃい頃から遊んどった従弟が向こうの高校でバレーやってるねん。たまに連絡とってるんやけど、人手が足りらんから大歓迎やねんて。どうも6人しかおらんらしい。」
「二年が?」
「いや、全員で。」
(・・・はぁ!? 6人でバレー!?いや、6人でやるものだけど、・・・・ってことはギリギリ!?)
「・・あのさ、そのチーム怪我人とか出た時どうすんの?」
「さあ?実態は入ってみらなわからん。けど結構強いらしいで。いつ後輩に辞められるかって気苦労がたえらんみたいやけど(笑)。俺も聞いた時は驚いた。みんな自動的にレギュラーやしな。うちの部と反対や。」
「そうか・・・大変だな。」
「まぁ、どこともな。人数が多ても少なても大変なことはあるやろう。ようは気持ち次第ちゃう?どこにおったって自分は自分やし、そこでどうするかってのも自分次第やん。そんで考えてみたら結構自分っていろんなアイテム持ってたりすんねん。」
「・・どういうこと?」
「“人生は自分を磨くための試練”って話聞いたことあらへん?神様は俺らに色んな試練を与えてるねん。事故で大怪我したり病気で誰かを亡くしたり、俺らみたいに悩んだり苦しんだり、全部自分に課せられた試練やねんけど、実は神様は人選をしとって、見込まれたその人に合ったものを用意する。そやからその人がそのとき もう耐え切れらん!って底の底まで凹んでても、絶対そこから抜け出せる機会とか支えが揃ってたりするねんな。・・・ちょうど俺の近くにお前が居るみたいに。」「・・・なるぼど。確かに。」
この数日間のことを思うと、よく理解できる。何もかもどうでもよくなった事もあったけれど、色々消化できたし色んな事を知った。それは俺一人じゃどうにもならなかっただろうし、もし俺じゃなかったらこんな大きな気持ちを味わえなかっただろう。ただ今は、俺がここにいること、そして雅斗と出会えた必然的な偶然に感謝したい。
「さてと、だいぶ遅くなってきたし、そろそろ出よか。」

「さっむいなー。もうすぐ冬か。」
満天の星空の下、雅斗と歩く道。
「そういやさ、高橋かおりとはどうなっとんのや?おまえらまだ付き合ってないんか?」
「んー、まだ友達・・かな。今年のクリスマスまでには何とかしたいけど。」
「そうか、頑張りや。部活も恋も。」
「おう、雅斗もな。」
 空を仰いでみる。
「明日もええ天気やな。」
 満天の星空の下、雅斗と歩く道。雲ひとつない。                       

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