IN THE BLUE SKY

  「――る・・・・・・光」
  誰かが呼んでる・・・・・・。誰だ?
  俺は声のする方に向かって走り出した。
  しばらく走っていると目の前に光の球が現れ、だんだんと人型へ変化していく・・・・・・。
  現れたのは――!!
  「・・・・・・司」
  考えるより先に言葉が口からでていた・・・・・・。
  司はただ黙って微笑んでいるだけだった。


  俺たちはしばらくみつめあっていたが、そのうち司の瞳から雫が流れ落ちていた。
  ――・・・・・・涙?
  いや違う、涙とは違いその雫は赤い色をしている。
  これは――血だ!!
  瞬間、言い様のない悲しみが身体の奥底から沸き上がってきた。
  涙が勝手に溢れていく。
  ・・・・・・何か冷たい感触がする。
  みると、いつのまにか俺の手も服も血に染まり、手には銃が握られていた。
  司を殺す時に使った銃が――!!
  急に自分がとても汚いもののような気がしてきた・・・・・・。
  ぬぐってもぬぐっても、こびりついてとれない司の血と、手の中の銃の冷たい感触が、あの時の記憶を呼び覚ます。
  あの時・・・司を殺した時の――・・・・・・。
  そうだ、俺が司を殺したんだ。
  俺はあいつの事がすごく好きだったのに、俺が好きになればなるほど、あいつは藤堂のほうに行ってしまうんだ。
  それがもどかしくて苦しくて・・・・・・。
  俺はいつも司の中の藤堂に負けてるのを感じていたんだ。
  俺と母さんを裏切った藤堂に・・・・・・。
  それを認めるのが怖くてただ、それだけの事で俺がこの手で司を――・・・・・・。
  結局、俺は自分が一番かわいかったのかもしれない。
  俺はずるくて、弱くて、卑怯だから。
  そして藤堂のコピーだから――・・・・・・。


  「・・・・・・る。光。光!」
  俺は誰かにゆり起こされて目が覚めた。   またあの夢をみていたらしい。   今日で何度目になるだろう。   あの夢をみるのは――・・・・・・。
  そこまで考えて俺は俺を起こした人物がいることを思いだした。   ・・・・・・誰だろう?   先輩?   それとも――・・・・・・
  確かめようと寝返りをうつと、そこには意外な人物が立っていた。
  「なっなっ・・・中本ぉ?どうしてお前が俺の部屋にいるんだよ?」
  「どうしてじゃないだろぉ?いったい今何時だと思ってんだよ。課長、カンカンだぞ!・・・・・・?お前泣いてたのか!?」
  言われて俺は自分が泣いていたらしいことに気がついた。
  あわてて涙をぬぐうと
  「べっ別に泣いてなんかねーよっ」
  「本当かぁ?」
  疑わしげに俺の顔をのぞきこもうとする中本を押しとどめて俺は話を戻す。
  「で?何で課長がカンカンだからってお前が俺んちにいるワケ?」
  「いや、ひまだったからお前の会社行ったらさぁ。お前いないし、課長はカンカンだし、杉本さんにお前んとこ行けってたのまれてさぁ」
  そこで一旦言葉を止めて頭をボリボリかいてから
  「んでお前んとこ来てみたらお前寝てるし。だから起こしたってワケ。解った?」
  「お前なぁ、ひまだからって俺の会社行くなよ。俺は死神でお前は商売敵の天使なんだから」
  なかばあきれながら俺が言うと
  「なんで?」
  あっ・・・頭痛くなってきた。
  コイツはホンットに何も解ってないっ。
  「・・・お前なぁ」
  「なんで行っちゃいけないんだよ?俺が天使でお前が死神でも俺とお前は友達じゃないか」
  「・・・・・・それはそうだけど」
  その答えにわかればよろしいというようにうなずくと中本は俺につめよって来た。
  「ところで光」
  「なっなんだよ?」
  うろたえる俺に、にんまりと笑うと
  「さっき泣いてた理由。教えてもらおうか」
  「泣いてなんかねぇって言ったろ?」
  「ウソだ。泣いてた!御天道様はだませてもこの俺はだまされねぇぞ?」
  はぁ?どういう理屈だよ、一体。
  でも、ごまかせそうにねぇなぁ。・・・・・・たく仕方ねぇな。
  「夢だよ」
  「・・・夢ぇ?」
  中本がすっとんきょうな声をあげる。
  「そう、夢」
  「何の夢だよ」
  「・・・・・・人を殺す夢」
  「誰を?」
  「もういいだろ?原因は教えたんだから。それに俺が誰を殺そーがお前に関係ないし」
  俺が言うと怒ったように怒鳴ってくる。
  「関係なくない!」
  そしてまじめな顔で
  「俺に隠し事すんなよ。そろそろ教えてくれたっていいだろ?生前、何があったのか」


  「俺、好きな人を殺したんだ」
  中本の真剣な瞳にほだされたのか俺はポツリポツリと話しだしていた。
  「・・・好きな人?」
  「そう、好きな人。看護婦でさ、俺の親父の病院で働いてたんだ」
  「お父さんの・・・?」
  「ああ・・・・・・」
  親父なんて呼びたくないけど。
  「藤堂病院ってトコの院長やってんだ」
  「藤堂?でもお前の名字は・・・」
  「・・・・・・同じ名字使いたくなかったから。母親の旧姓使ってんだ」
  「そっか・・・・・・」
  「うん。でさ、彼女・・・司ってんだけど、司は俺を助けてくれたんだ。それがきっかけで俺はあいつを好きになってさ」
  今でも覚えてる。倒れた俺を助けてくれた司。病院に行きたくないっていう俺を理由もきかずに看病してくれた。
  「しばらくして、俺思いきって告白してみたんだ。そしたらさ――あいつOKしてくれたんだ。俺、うれしかった。でも、違ったんだ。・・・・・・あいつは俺の事なんか見ちゃいなかったんだ」
  「・・・・・・」
  「・・・見たんだ、親父と腕くんで幸せそうに歩いている司を。そんな顔、俺の前ではしないのに。その時、わかったんだ。ああ、司は親父が好きなんだって」

  「それで?」
  「それで俺は、・・・次の日かな、司んちに行ったんだ。親父との事問いつめるために」
  そう俺はあいつの家に行って藤堂のことを問いつめた。
  あいつは否定しなかった・・・・・・それどころか俺に言ったんだ。
  ハッキリと・・・・・・あいつが好きだって。
  「そうよ、私はあなたのお父さんが好きなの、愛してるのよ。でも、あの人には妻子がいるわ。要さんとあなたがね。・・・それであきらめようとあなたとつきあってもみたけど」
  そう言うと、司はつらそうに瞳をふせた。
  「ゴメンなさい。・・・私やっぱり自分の気持ちに嘘つけない!!」
  そしてカッとなった俺は司を殺した。
  隠し持っていた銃で――・・・。
  「あいつ、否定しなかったんだ。だから殺した。銃で撃ったんだ。だって許せなかったんだ。・・・・・・愛してたから。・・・・・・許せなかっ・・・」
  急に腕がのびてきて俺は中本に抱きしめられた。
  中本は俺の肩に顔をうずめて、くぐもった、ふるえた声で言った。
  「もういいよ。もういい。・・・・・・ゴメン」
  抱きしめる腕がふるえていた。
  泣いているのだ。
  俺はそっと抱きしめ返した。
  愛してるから殺したっていうのはウソだ。
  いや、確かにそれもあったかもしれない。   でもやっぱり司の中のあいつを認めるのが怖かったんだと思う。
  だから殺すことであいつから逃げた。
  皮肉なことだよな。
  司を撃つのに使った銃はもともとは藤堂を殺すためのモノだった。
  司を殺した後、俺は藤堂を殺しに行った。   ―――結果、失敗した俺は、死んだ。
  そして死神になった今も俺はあいつを殺すことを胸に誓っている。
  でも、これはこれだけは中本には言えない。
  抱きしめてくれる腕が心地いいから。
  安心するから。
  うしないたくないから――・・・・・・。


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