その夜、僕は電気もつけずに玄関でアリスが帰宅するのを待っていた。
2時間ほどたった時、扉が開く音がして電気がつけられる。
アリスが帰ってきたのだ。
暗闇に慣れた瞳は突然の光にチカチカしだす。
まばたきしていると
「・・・光?何してるの?こんな所で」
アリスがキョトンとした顔で聞いてきた。
「・・・あんたを待ってたんだよ」
「私を?」
「そう」
美月さんの憎んでいる相手が僕の父さんだということをアリスが知っていたのかどうか聞こうと思ったのだ。
僕は大きく深呼吸して気持ちを落ちつかせると、もう一度口を開いた。
「・・・知ってたのか?」
「何を?」
「美月さんの殺したい相手が僕の父さんだって事」
だってアリスは僕が名乗った時どこか驚いたような顔をしていた。
それは知っていたからなんじゃないだろうか。
見上げるとアリスは驚いたような顔をしていた。
「美月に聞いたの?」
頷くと
<驚いたわ。あの子が他人に過去の事話すなんて。これは、ひょっとするとひょっとするかもしれないわね>とか一人でつぶやいている。
「どうなんだよ」
答えを促すと
「知ってたわよ。教える必要ないと思ったから黙っていただけ」
そしてひとつため息をつくと
「そうそう、美月にあんたが藤堂の息子だって言ってないでしょうね」
「言ってないけど」
「じゃあ、その事は絶対美月には黙っててね。でないと、あんた殺されかねないから」
一旦言葉を切ると、
「冗談じゃないわよ。あの子はイブキのためなら何でもするからね。いつも黒い服を着て喪に服しているのよ」
何も言えなかった。
父さんはこうして美月さんだけでなくたくさんの人の人生を狂わせているのかもしれないと考えて言えなくなった。
――帰るか。
「どこに行くの?」
アリスの横をすり抜けてホテルに帰ろうとすると彼女に腕をつかまれた。
「どこって。ホテルに帰るんだよ」
腕を振りはらおうとすると
「その必要はないわよ。ホテルはチェックアウトして来たから」
「はい、荷物」と荷物を渡される。
「へ?」
「あんたは今日からここに住むの」
・・・こうして僕はアリス邸に住み込む事になったのだった。