第3章  地夜隰秀昭


 白を基準とした壁、薄水色のカーテン、天蓋付のベッド、そして銀細工などの調度品・・・。 ここはヴァースル教の神殿、サンキャッスルである。この神殿の一室、超がつくほどの豪華な客室に秀昭はいた。しかし客室というより監獄といったほうが正しいであろう。窓には鉄格子がはめてあり、入り口の向こうには見張り番として二人の男が立っている。
 食事も女中がもってきたものを食べ、トイレも風呂も部屋に備え付けられているものを使わされ、気分転換に散歩がしたいというと、後から何人もの男達が付いてくる始末である。
 これはすべて秀昭が逃げ出さないようにしているためである。いままで6回脱走してすべて連れ戻されている。
 夜もふけさすがに疲れた秀昭はとりあえず仮眠をとることにした。数時間後に夜の闇にまぎれて逃げ出す計画である。
 と―――
 コンコン。
 突然扉がノックされた。こんな遅くに誰だろうと思い、出ようか出まいか考えたが度重なる脱走のせいで疲れていたし、返事をするのも億劫だったのでとりあえず無視する。
 (黙っていれば眠ったと思って帰るだろう)
 しかし、
 コンコンッ。
 さっきよりも少し強めに扉が叩かれた。それでも秀昭は無視しつづける。
 ドンドンッ。
 相手も引き下がらない。こうなれば秀昭と相手の我慢比べである。どちらが最後まで残るか・・・。
 バンッ!
 「呼んでいるんだから返事しろよ!」
 ―――秀昭の勝ちである。かすかな勝利感が胸に浮かんだ。
 「いや、疲れてたし、眠かったし、何よりも返事するのがめんどくさかったから」
 「そんな理由で人を無視するのか?!」
 「そんな理由だなんてひどい!睡眠不足はお肌の敵なのよ!」
 「女々しいこと言うなっ!それにぜんぜん関係のないことだろうが!」
 「そうカリカリするなよ。カルシウムが足りないのか?」
 「大きなお世話だ!」
 「まあ、冗談はおいといて・・」
 「てめっ・・・!」
 「おまえ誰だ?」
 てっきり相手は初め、結城と秀昭を引き離した老人や女中達だと思っていたのだ。
 余談ではあるが、秀昭はなぜか神殿の女中や巫女達に人気があった。ここに来てから今にいたるまでの数時間にすでに20を超える数の手紙を女の子達からもらっていた。手紙の内容はすべてラブレターである。中には花や食べ物などを添えているものもあった。
 秀昭はベッドに座った状態から自分の顔と同じ高さにある相手の顔をにらみつける。
 そう、相手は子供であった。秀昭と同じ金色の髪に整った顔立ち。ただしその瞳は純粋な青色ではなく、灰色がかったくすんだ藍色である。おそらく14,5歳前後であろうが身長が低いせいか、なんとなく子供っぽく見える。
 「俺はカカ、このヴァースル教で一番の権力をもっているものだ。確かおまえはヒデアキ、とかいったな?」
 「そうだけど・・・?」
 「よし。それじゃあヒデアキ、今からおまえは俺様の下僕だ。」
 いきなりの言葉に思わず秀昭は目が点になる。
 「・・・な、なにをいきなり・・・」
 「ここでは俺が一番偉い。なら、その偉いやつに下僕がつくのは当然のことだろうが。たとえそれが新しい『神の御使い』であってもな!」
 (ははーん)
 姿かたちからしておそらく彼が今まで『神の御使い』として呼ばれていたのであろう。
 しかしそこにより完璧な姿を持った秀昭が現れた。そのため彼はお払い箱寸前になりかけているのだろう。
 「で、俺を下僕にしてどうするわけ?」
 いきなりの質問にしどろもどろするカカ。
 「そ、それはだな・・・えっと、その・・・あの・・・」
 「どの」
 「・・・・・・」
 おそらく何も考えていなかったのであろう。黙ったままうつむいている。
 「ま、いいだろう」
 「えっ!?」
 驚いた様子で顔を上げるカカ。まさかこうすんなりとOKするとは思っていなかったのだろう。
 「そのかわり、下僕じゃなくて、そーだな『友達』としてだ。あと、おまえが知っている限りのここの情報を教えろ」
 「っな!なんで友達になるんだよ!」
 「いやならいーんだぜ。その代わりさっさとこの部屋から出て行け」
 「ぐっ・・・」
 返す言葉も見つからず顔を赤くしながら唇を噛むカカを秀昭は冷ややかな目で見つめる。
 この部屋に乗り込んできたのは単に寂しかっただけであると踏んでいたが、どうやら図星だったようである。
 「どうする?出て行くのか出て行かないのか」
 「わ、わかったよ。そこまで言うんだったらここにいてやるよ!」
 (強情な奴・・・)
 まるで秀昭のような奴である。(おっと、失言)
 「ん?」
 「どうした?」
 「いや、今すっげーむかつく言葉が聞こえたような・・・」
 「気のせいじゃないか?」
 「うーん・・・」
 「それよりも、俺がここにいるのはおまえがあんまりにもここにいてほしいって言ったからだぞ!」
 「はいはい。そういうことにしておきたいわけねー。・・・っと」
 秀昭は今まで腰掛けていたベッドから勢いをつけて立ち上がり、窓辺においてある洋服ダンスに向かう。そこには今日、女の子達にもらった花や手紙などが無造作に置いてある。
 「おまえさ、クッキー食う?今日女の子達にもらったやつがあるんだけど」
 「えっ、クッキー!食う食う!」
 クッキーと聞いたとたん、すばやく秀昭のほうに寄ってくる。耳や尻尾がついていたら振り切れんばかりに振っている、そんな様子である。
 「おまえって、いいやつだなー」
 (餌付け作戦、成功)
 秀昭にもらったお菓子を口いっぱいに頬張りながら、それが彼の策略だとも知らずに満面の笑みを浮かべるカカ。
 「ところでさ、ここってどういうところなんだ?」
 お菓子が半分ぐらい消えたところで、さりげな〜く聞いてみる。
 「ん?そーだなぁ・・・、簡単に言えばバカの集まり」
 「なんじゃそりゃ」
 「長老達はお布施だ、とか言っては民衆達から莫大な金をとるし、民衆達は民衆達で何の疑問も感じずに金を払っていくんだ。金を払えばヴァルステイトのもとに行けるって信じているからな」
 「ふーん」
 「ところでさ、もうお菓子ないの?」
 「え?」
 カカの言葉にクッキーなどが入っていた箱を見ると、中はすでに空っぽになっていた。
 「あー!俺のチョコがー!」
 「へーんだ、ボーっとしてるのが悪いんだよ」
 「てんめぇ・・・・!」  思わず怒鳴りそうになるがさすがにお菓子を取られたぐらいでキレるのは大人気ないと思い、押しとどまる。
 「うーん、まだ食い足りないなぁ」
 「お前、そんなに食うとすぐ太るぞ」
 かなりあった量のお菓子をほとんど一人で食べたカカの一言に、秀昭は思わずげんなりする。しかし、当のカカは
 「いーもん。俺、今成長期だから」
 「・・・・・・」
 「なーなーヒデアキー、おなかすいたよー」
 そう言いながらカカはベッドの上を転がりまわる。どこから見てもわがままな幼稚園児にしか見えなかった。
 「そんなこと言ってもなぁ・・・。ないものはないし。・・・材料でもあれば別だけど」
 「材料・・・だったら食堂に行こうぜ!あそこなら肉から果物までいろんなもの置いてあるから!」
 「え!?いや行くっつっても、こんな夜中にか・・・?」
 カカの言葉に思わずうなる秀昭。まさか材料があるとは思ってもいなかったので聞こえないようにつぶやいたのだが、どうやら聞こえてしまったらしい。
 「大丈夫大丈夫!そうと決まればレッツ・ゴー!」
 ぴょんとベッドから飛び起きたカカは秀昭の腕をつかんで、夜の帳が落ちた神殿へと飛び出していった・・・。

 「クッキーにチョコにアップルパイにー☆あ、イチゴタルトもいいなぁ」
 「・・・・・」
 虫の音が聞こえる神殿の中庭。カカと秀昭は今そこを元気よく(?)進んでいた。明かりといえば、空を照らしている月のみである。はっきりいって心もとない。秀昭はすでに数ヶ所顔や足などを打っている。
 部屋を出るとき、やはり扉の外にいた男達に止められたが、カカが一喝しただけで彼らはすごすごと引き下がってしまった。ここで一番の権力者、というのはあながちうそではないらしい。
 しかし・・・
 (意外と広いな、ここは。こりゃ逃げ出すのも一苦労だな)
 部屋を出て10分ぐらい歩いてはいるがまだ食堂のある別館にはたどり着いてはいない。カカがいうにはこの中庭を突っ切ればすぐだというが、その中庭がとてつもなく広かった。大きな池がいくつもあり、ちょっとした公園ぐらいはある。
 「ほらあれが別館だ。食堂はあそこの二階の中央にあるんだぜ」
 カカの指差したほうをみると三階建てのこぢんまりとした建物があった。
 こじんまりした、といっても建物からは明かりが見えないため黒く不気味に聳え立っている。
 「よっ・・・と」
 小さな溝を飛び越え別館の中へ入った二人。床は大理石のようなものでできているため、歩くたびに音がする。その足音が暗い建物に響き渡り不気味だった。
 カカがいうには階段は建物に向かって左側にあるらしく、一番右側から入った二人は反対側まで歩くことになってしまった。
 歩きながらいろいろな部屋をのぞいていくと、建物の中央、カカの言った食堂の真下にあたる部屋の扉が開いていたためこっそりと部屋に入ってみた。カカは気づかずに先を進んでいく。
 「へぇ・・・」
 そこは礼拝堂のようなところだった。正面の壁にはステンドガラスが埋め込まれてあり、月の光にきらめいて美しく光っていた。
 ふと、ステンドガラスの下に目をやると、その下に掲げられた十字架が淡く輝いている。
 「なんだ・・・?」
 不思議に思いその光へと近づいていくが、足を一歩ずつ踏み出すたびに胸の鼓動が早くなっていくような気がした。
 そしてもう少しのところで・・・
 「何やってるんだよ!」
 いきなりカカの声が響いた。
 はっとして後ろを振り返ると、目にいっぱい涙を浮かべたカカが息を切らせつつ仁王立ちしていた。
 おそらく後ろに付いて来ていると思っていた秀昭がいなかったため、半べそをかきながら戻ってきたのだろう。
 「あ・・・、悪い悪い。すっかり忘れてた」
 「忘れるんじゃねーよ!」
 「なんだお前、やっぱり一人じゃ怖かったか?」
 「ち、違うよ!」
 そう叫んだカカの顔がみるみる赤くなっていく。
 「おーおー、図星だな。本当カカちゃんったら恐がりなんだから」
 「うっだぁー!その女々しいしゃべり方やめろ!」
 「はいはい・・・っと」
 カカをなだめながらふと、さっきの場所を見てみたが、すでにそこは光っていなかった。
 「夢・・・だったのかなぁ・・・」
 しかし夢にしては記憶がはっきりしているし、何よりもさっきの胸の鼓動は何処か別の場所で感じたことがあるような気がした。
 「ほら、さっさと行くぞ!今度はちゃんとついてこいよ!」
 カカにいきなり腕を引っ張られたために、考えが霧散してしまったが胸のわだかまりはいまだ残ったままだった。
 そしてもう一度後ろを振り返り、秀昭はカカの後を追って部屋を後にした・・・。

 「うまい!」
 カカの声が食堂に響いた。
 あれから数時間後、食堂のテーブルにはクッキーやケーキなどを初めとしたいろいろなお菓子が並べられていた。
 「だろ?こう見えても俺は、料理は得意なほうなんだぜ」
 机をはさんだ反対側には、似合わぬエプロン姿をした秀昭が立っている。ここにあるすべてを秀昭一人で作ったのだった。
 「すげーすげー!お前って一流のコックになれるよ。そしたら俺がお前を雇ってやるからな!」
 「ハハハ・・・考えとくよ・・・」
 苦笑いしながら秀昭はエプロンをはずし、机の上のものをすべて袋に詰めていく。
 「あれ?何で袋なんかに詰めていくの?」
 「あのなぁ、お前だろ?長いことここにいられないって言ったの。残りは部屋で食べるの」
 「あ、そっか」
 最初ここに来たときにカカは秀昭にこういった。
 『実は別館は女しか入っちゃいけないんだ。だからあまり長居ができない』
 「おいおいそれってやばいじゃないか!」
 「いや、こっそりとは入れるところってここしかなかったから」
 ヴァースル教では男尊女卑の教えがあるらしい。それはヴァルステイトが男だからということからきている。よって、礼拝や食事などの生活の場は、男と女とでは分けられている。男は別館に入ることはできないし、女も女中などを除いてそれ以外はもちろん入ることができない。
 これがざっとカカが説明してくれた内容だった。
 「ほら、さっさと行くぞ」
 食堂の明かりを消してカカの後に続き出て行く。
 が、カカは扉を出たすぐのところで階段とは反対のほうを向いて固まっていた。
 「どうしたんだ?」
 カカの向いているほうを見てみると、廊下の突き当りが淡く光っている。下の部屋で見たものと同じ光であった。
 「な・・・なんだろ・・・あれ」
 「さあ・・・・な」
 カカの声は恐さのためかかすかに震えていたが、秀昭には恐怖よりも興味の気持ちのほうが勝っていた。そしてあれが一体何なのか確かめなければならないという気持ちもいっしょに。
 「行くぞ」
 「行くって・・恐ーよぉ!」
 「だったら俺一人で行く。お前はここにいろ」
 秀昭が光に向かって歩き出すと、結局カカもいっしょについて来た。秀昭の腕にしっかりとしがみついて、だが。一人で残るよりも2人でいたほうがましと思ったのだろう。
 廊下の突き当りへは意外と早く着いた。自分ではゆっくりと歩いていたつもりだったが、知らず知らずのうちに歩く速度が速くなっていったのだろう。
 「何でこんなところに扉が・・・?」
 カカの言う通り、そこには大きな古びた扉があった。光の正体はこれであろう。扉自身が光っている。
 無意識のうちに秀昭はドアノブに手を伸ばす。―――が
 「あづぅっ!」
 指先が触れたとたん体中に電気のようなものが走った。
 「大丈夫か!?」
 手を抱えて座り込む秀昭を、何が起こったのかわからず心配そうにカカが覗き込んでくる。その顔は涙と鼻水と恐怖とで、せっかくの美男子が台無しである。
 「も、もう帰ろうぜ!なんだか変だしここ!」
 「いーや・・・」
 カカの言葉に、秀昭は不適に笑いながら身を起こす。その瞳の奥には炎が燃えていたりする。
 「せっかくここまで来たんだ。絶対この扉開けてやる!」
 「あああっ!なんか勝手に闘争心燃やしてるし!」
 カカの忠告も聞かず、今度は両手でドアノブをしっかりと握る。とたんにまた体中に電気のようなものが走るが、懸命にこらえる。
 そして―――

 扉を開くと一瞬まばゆい光が走ったが、すぐに暗くなる。しかしそこはもとの場所ではなかった。
 「ここは・・・?」
 周りはいつの間にか海辺に変わっていた。後ろを振り向くがそこに居るはずのカカの姿はなかった。
 ―――と、
 
・・・あはは・・あははは・・・・・
 遠くから子供の笑い声が聞こえる。振り向くとそこには一人の男の子が楽しそうに一人で砂浜で遊んでいた。その姿は金髪に青い瞳の・・・
 「俺・・・?」
 確かにその子供は秀昭と瓜二つである。
 突然立ち上がりその子はこちらへと走ってくる。
 「おい!」
 まったく状況がわからず、とりあえず子供を止めようと隣を走り去ろうとする子供に手を伸ばすが、
 「・・・え?」
 その手は子供の体をすり抜け何もない空を切った。
 「!?」
 びっくりして振り返るがそこにはもう子供の姿はなく、周りもいつの間にか海辺から何もない赤い空間へと変わっていた。
 『何なんだ・・・いったい・・・』
 そうつぶやく秀昭の前に今度は一人の青年が音もなく現れた。今度は数年前の自分である。
 と、そこにもう一人、今度は女性が現れた。色の白い、美しい女性である。
 「母さん・・・」
 秀昭は無意識のうちにその言葉をつぶやく。記憶を失っているはずなのにその言葉はすんなりと出てきた。
 しかし、秀昭がつぶやいたとたん、その女性は姿を消した。悲しそうな表情だけを残して。
 (待って、母さん!)
 そう叫ぼうとしたとき、周りがまた白い光に包まれた。そして―――
 『お願い・・・ペイシェンの山に来て・・・』
 はるかかなたから悲しそうな女性の声が聞こえた。それは今は思い出せない母の声のような気がした・・・。

 気が付くと秀昭とカカは一階の礼拝堂にいた。
 「何でこんなところに・・・ん?」
 左手に違和感を感じ手を開いてみるとそこには見たことのない小さな水晶球のようなものが握られていた。
 「なんだこれ?」
 「ペイシェンの山・・・」
 「え!?」
 カカのつぶやきに秀昭は驚いた表情を見せた。
 「お前もその言葉を聞いたのか?」
 「お前も・・・ってヒデアキもか!?」
 「ああ。ところでペンシェンの山ってどこなんだ?」
 「ここから喜多に6日ほどいったところにある山だ。別名『始まりの山』と言って、すべてのものはそこから生まれたと、ヴァースル教は教えている。まあ、今はなんもなくて俺たちも念に1回だけ巡礼にいくぐらいだがな」
 「ふーん」
 カカの話を聞きながら秀昭はよっこらせと立ち上がる。窓から見える月の高さからして、あまり時間は経っていない様子だった。
 「どうせ、ここから抜け出してそこへ行くつもりなんだろ?」
 「あ、わかった?」
 カカにあっさりと自分の行動を見破られ少し動揺してしまう。
 「わからいでか。お前の今日一日の行動を見てりゃだれにだってわかるよ」
 「アハハハハ・・・」
 「ま、おれにまかせとけって。一日待ってくれたら何とかしてやるよ」
 「え?」
 おもいがけないカカの言葉に一瞬耳を疑う。
 「何とかするって・・・大丈夫なのか?」
 「大丈夫だって。俺は一番偉い『神の御使い』だって言っただろう?」
 「あー、お前ってば大声で叫んだり鼻水流したりしてたからすっかり忘れてた」
 「あははは・・・やっぱよそうかな」
 「あああっ、すまん冗談だ!俺が悪かった!」
 青筋を立てながら本気で起こっているカカの言葉を聞いて秀昭はひたすら謝った。ここで機嫌を壊されては元も子もない。
 「まあ、とりあえずまっとけよ。それよりも早く部屋に行ってお菓子食べよーぜ!」

 「ヒデアキ!今晩出発するぞ!」
 いきなり部屋に入ってきたカカにびっくりする。そして思わず手にしていたバームクーヘンを落としてしまった。
 「ああっ!もったいない!」
 「お前がノックもせずに入ってくるのが悪いんだろうが!」
 せっかくのバームクーヘンを台無しにされたヒデアキの目にはうっすらと涙が滲んでいたりする。
 「とにかく、ペンシェンの山には今晩行くことになったから」
 「ずいぶん急だな」
 とりあえずバームクーヘンのことはあきらめて、テーブルに置いてあったイチゴショートに取り掛かるヒデアキ。部屋には昨日にも増してふえた女達からのプレゼントが所狭しと置いてある。
 「いや、急いだほうがいいと思ってな。ちょうど巡礼の日も近かったし」
 「そうか。でもわりぃ、俺いけないや」
 「な、なんでだよ!」
 まさか秀昭が行かないと言うとは思わなかったか、カカは驚いた様子で秀昭に詰め寄る。
 「いや、昨日あれから考えたんだが、俺は山へ行くよりも先に結城を助け出さなきゃならない。だから、行くことはできない」
 「なんだ、そのことか」
 秀昭の言葉にカカはほっと息をつく。
 「それなら大丈夫だ。今日外を巡回しているやつらから連絡があってな、なんでも黒髪の17歳ぐらいの男が北のほうに向かっていくのを目撃したってことだ」
 「それって!」
 「おそらくミュースル教の『神の御使い』のことだろうな」
 カカの言葉を聞いて秀昭は思わず飛び上がりそうになるほどうれしくなった。
 (そうか、結城も無事だったか!)
 「確か俺達が向かう先も北だったよな!だったら話は早い!」
 だんっと机に足を乗せ窓の外を指差す。
 「俺たちも北に向かって出発だ!」
 ・・・・ちなみに秀昭が指している方向は南であった・・・。

                             続く・・・。

次回予告
 結城の無事を確かめ、自分もペンシェンの山を目指して旅立つ秀昭とその他一名。(おいおい・・・)果たしてその先には一体何が待ち受けているのか!? っていうか、シリアス書いているつもりがいつの間にかギャグになっているけど、いいのか俺!?しかもこの予告、パクリっぽいし!本当にこんなので完結できるのか!?とりあえず次回、第三章 天陵結城編・千代隰秀昭編 ・・・・動き出した運命の歯車はもう誰にも止められない・・・・

 追伸   次回(12月分)、藤宮はお休みさせていただきます。=(イコール)再来月は一挙二話登場!?

・・・大丈夫かなぁ・・・(不安)

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