炎と化したキノコ



 「これ、なんですか?」スタッフTさんがスマホで撮影(さつえい)した写真を見せてくれました。一見したところ、地面にツチアケビの果実が落ちているようにも見えましたが、おそらくこれはキノコの類でしょう。

 撮影された現場へ確認に向かうと、ニョキッと地面から突(つ)き出した、傘(かさ)を持たないキノコがありました。これまで校内では、傘のないキノコと言えば、地面から鳥の脚(あし)が生えたようなサンコタケや、食用になるナギナタタケなど、何度か見たことがありますが、こんな奇抜(きばつ)な色をしたキノコは初めてです。

 「ひょっとして、このキノコは話題になっているあの毒キノコ?」と思い調べてみれば案の定(じょう)、カエンタケでした 。「毒キノコなんてその辺りに普通(ふつう)にあるので驚(おどろ)くことなどない」と思われる方もあるでしょう。しかし、このカエンタケの場合は事情が違(ちが)います。何せ、触(ふ)れただけでも皮膚(ひふ)が炎症(えんしょう)を起こし、わずか3グラムで致死量(ちしりょう)に達するという猛毒(もうどく)キノコなのです。

 カエンタケの大きさは10センチ前後。コナラやクヌギといったナラ類が枯(か)れた近くに発生し、形は棒状のもや、手を広げたようなもの、そして名前の由来になった、立ち上る炎(ほのお)の形など様々です。色は、赤やオレンジ色ですが、発生してから幾日(いくにち)か経つと黄色く変色するものもあります。

 この猛毒キノコは関西を中心に増えているらく、兵庫県でも宍粟市(しそうし)や丹波市(たんばし)などで相次いで確認されています。以前は珍(めずら)しい存在だったカエンタケが、どうしてこんなに増えているのでしょう。それは、カシノナガキクイムシが媒介(ばいかい)するカビ菌(きん)よってナラ類が枯れてしまう“ナラ枯れ”が広がり、カエンタケが発生しやすい環境(かんきょう)が整ったためという見方がされています。

 *ナラ枯れについては、以前に書いた記事をご覧ください。
 http://www.hyogo-c.ed.jp/~shizen-bo/naturepage/100824naragare/100824naragare.htm

 本校でも2010年頃(ころ)からナラ枯れの被害(ひがい)を受け、多くの木を失いました。今回、カエンタケが発生した地点も、コナラの大木が枯れたため伐採(ばっさい)をした場所です。上の写真にあるカエンタケのバックには、そのコナラの切り株が写っています。

 そもそも、ナラ枯れが蔓延(まんえん)した原因は、山林に人の手が加わらなくなり、カビ菌を媒介するカシノナガキクイムシが好むナラ類の大木が増えたためだと言われています。つまり、その昔、人は山に入り、薪炭(しんたん)やほだ木などにナラ類を利用するため、大木に生長するまでに伐採していたので、結果的にカシノナガキクイムシの増殖(ぞうしょく)が抑(おさ)えられていたという訳です。

 今回、カエンタケのことを調べていくうちに、下の図式が見えてきました。カエンタケの大発生は、経済活動を優先し、山林の手入れを怠(おこた)ってきた現代人に対する、自然界からの警鐘(けいしょう)のように思えて仕方ありません。

 本校では、カエンタケの対策として、子どもたちに入校式などで写真を見せ、注意喚起(ちゅういかんき)をするとともに、見つけ次第、駆除(しだいくじょ)し、発生箇所(はっせいかしょ)にはロープを張り立ち入り禁止としています。

文責 増田 克也


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