COLORSと共に


 2月28日から3月3日にかけて、COLORS(カラーズ)の自主研修会が本校で行われました。COLORSとは、兵庫県下の全公立小学校5年生が実施(じっし)する自然学校において、様々な活動の補助を行う、リーダーと呼ばれる自然学校指導補助員を目指すみなさんが、今回の研修会で称(しょう)するグループの名前です。今週の“自然のページ”は、研修会でプログラムの一つとして行われた、自然観察会の様子を紹介(しょうかい)したいと思います。
 
 最初に、自然観察館の前に集合し、簡単に挨拶(あいさつ)をすませてから、フィールドに向けて出発です。歩き始めて間もなく、明るく元気があり余るみなさんは大はしゃぎ。これではせっかく聞こえて来る、野鳥の声や風の音も耳に入りません。
 そこで地面に腰(こし)を下ろして、1分間目を閉じて、周囲の音に集中してもらい、一番気に入った音を発表してもらいました。いかがですか、これで少しはクールダウンしてもらえたでしょうか。

 次は観察の必須(ひっす)アイテム、双眼鏡(そうがんきょう)の扱(あつか)い方に少し触(ふ)れ、枝に取り付けた野鳥の模型を見る練習をしました。その後、中央の石段をいくつか上がったところにできた、けもの道にニホンジカの毛を発見しました。そこでみなさんにニホンジカの写真を見てもらい、写真にあるニホンジカの画像と、落ちていた毛の色が随分(ずいぶん)違(ちが)うことに気付いてもらえたようです。
 ニホンジカは、1年に2度、体毛が生え替(か)わります。つまり、落ちていた毛は先端(せんたん)が黒い冬毛で、写真のものは茶色の夏毛という訳です。冬毛が抜(ぬ)け落ちているところをみても、季節は確実に移りかわっているようです。そのうち、明るい茶色に白い斑点(はんてん)が入った夏毛のニホンジカを見られることでしょう。

 けもの道をたどり、浴室棟(よくしつとう)の裏側まで来ると、地面に米粒(こめつぶ)大のものがたくさん落ちており、みなさんはしゃがみ込(こ)んで観察しています。これは、ウソという野鳥が木の芽をついばんだ食べかすです。頭を上げると、そこには一本のウメの木が・・・どうやらこれを食べたようですね。
 ウソはサクラやウメの花芽を食べてしまうため、害鳥扱いされる一方で、各地の神社では、ウソのお守りが販売され「災いや悪い出来事を“ウソ”として、良いことに置き換(か)える」とされ信仰(しんこう)の対象にもなっています。

 さらに進むと、柔(やわ)らかい土に新しい蹄(ひづめ)の跡(あと)が残っていました。いったい何の足跡でしょう。国内で蹄を持つ野性動物は、ニホンジカ、ニホンイノシシ、そしてニホンカモシカですが、本校にはニホンカモシカはいないので、ニホンジカかニホンイノシシのどちらかです。
 それでは、ニホンイノシシの蹄を見てください。矢印で示した大きな副蹄(ふくてい)があります。従って足跡にはこの副蹄の跡が見て取れます。一方のニホンジカにも副蹄はありますが、ニホンイノシシのものより小さく、高い位置にあるため、深い雪やぬかるみ以外は足跡として残りません。このことから、今回見付けた足跡はニホンジカのものと言えます。

 次に、生活棟の雑木林まで進んで来ました。ここには大きな葉っぱが落ちています。手に取り「これだけ大きいとお面になります」と話すと、そこは打てば響(ひび)くみなさんのこと、早速、ユニークなお面ができ上がっていました。
 この大きな葉っぱはホオノキのもので、飛騨(ひだ)地方では昔から料理にホオノキの葉っぱがよく用いられ、味噌(みそ)に薬味や山菜などを混ぜ込み、葉っぱに包んで焼いた “朴葉味噌”(ほおばみそ)は飛騨地方の郷土料理として有名です。
 以前、この“自然のページ”でもホオノキの葉っぱを利用した、オリジナルの簡単レシピを紹介したことがありました。よろしければご覧ください。《レシピ1》《レシピ2

 ホオノキの隣(となり)にあったのが、クロモジです。枝先には丸い芽と細長い芽が息づいています。もう一月(ひとつき)もすれば芽は開き、丸い部分からは花が、細いところからは葉っぱが現れます。
 「それでは、このクロモジを使って、みなさんの大人度調査をします!」と宣言して、2、3センチに切り分けたクロモジの枝を配り、一斉(いっせい)に匂いを感じてもらいました。私の経験では、子どもたちほどクロモジの匂いを臭(くさ)いと感じる傾向(けいこう)があり、大人になるにつれて、いい匂いに変化していきます。今回の調査結果は、ほとんどの方がいい香(かお)りだと挙手した中で、2、3名が首を傾(かし)げていました。

 ここで一人の女性から、興味深い意見が出されました。彼女(かのじょ)曰(いわ)く、クロモジは「おばあちゃん家の匂(にお)いがする」と言うのです。私なりに推察するには、おばあちゃんは着物を大切にしているので、タンスには樟脳(しょうのう)を入れているはずです。クロモジは樟脳の原料となる、クスノキと同じクスノキ科の植物ですので、「おばあちゃん家=クロモジの匂い」という式が成り立つのではないでしょうか。その他、化粧品(けしょうひん)や石けんにも、クロモジが香料(こうりょう)として使われているものがあるので、おばあちゃんがそのような製品を愛用されているのかも知れません。
 いずれにせよ、枝の端(はし)くれひとつで、出会ったこともないおばあちゃんや、そのお宅までもに思いを巡(めぐ)らせ、想像の風船を大きく膨(ふく)らませることができて、観察会として有意義でした。

 さあ、観察会もそろそろ終りです。スタート地点である自然観察館の前にもどり、私から参加者のみなさんへ感謝の気持ちを込めてプレゼントを進呈(しんてい)することにしました。残念ながら全員の分はないので、今月に誕生日を迎(むか)える方に代表として受け取ってもらいます。そのプレゼントは、ありきたりの食パン、それもたった1枚です。

 それでは、早速、このパンを食べてもらうのですが、食べ方にルールがあります。四角い食パンのどこをどのように食べてもかまいません。ただし、かけ声と共にパクッと一口だけ食べて、その食べ口をみなさんに見せてもらいます。
 「いち、にの、さん、パクッ!」2人の食べ口はご覧のとおり、パンの端からパクついています。人の口の構造では、端から食べるのが都合がいいのですね。
 では、これを見てください。この葉っぱに穴を開けて食べた虫は、明らかに人とは異なる構造の口を持っているはずです。そこで、代表の方にこの虫の口を想像して、絵に描(か)いてもらうことにしました。できあがった絵は、いかにも穴を開けるのに都合が良さそうな口をしています。

 この葉っぱに穴を開けた口の絵に、正解や不正解はありません。それはどちらでもよいことです。私の思いは、パンと葉っぱの食べ口から、人と虫の違いに気付いてもらうと同時に、ともすれば嫌(きら)われる、イモムシや毛虫の類へ目を向けるきっかけになればと思い、最後にこのアクティビティを設けてみました。

 COLORSのみなさんと過ごした、あっという間の約1時間30分。この他にも、観たり聞いたり触(さわ)ったり、短時間で盛りだくさんの内容でした。みなさんのご協力でスムーズに観察会が進行できたことを感謝すると共に、今回の体験が、子どもたちと自然観察をする上で何かのヒントにでもなれば幸いです。

文責 増田 克也



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