バン 08.09.02




バンのひな誕生



 7月下旬(げじゅん)から卵を温めていたバンのペアにひなが誕生しました。今週の“自然のページ”は誕生したひなと親鳥の様子をお伝えすることにします。

 8月13日午前6時、前日までオスとメスが交代しながらひたすら卵を温めていた親鳥が、これまでにない行動を始めました。20日以上も巣ごもりしていた巣のすぐ近くに、オスが新しい巣を作り始めたのです。ガマの葉を折り曲げた土台に巣材を運び込み、一時も休むことなく40分あまりでほぼ完成させてしまいました。
 その間メスはというと、古巣の近くで働くオスの様子をただ見つめるだけです。すると、突然(とつぜん)メスの背中がムクムクと動きだし羽の間から小さなものが、ぴょこっと出てきました。それは、赤いくちばしに青のアイシャドーをひいたようなひなの姿でした。通常、バンは5〜6個の卵を産みますが、どういう訳か今回孵化(ふか)したひなは1羽だけでした。オスがせっせと作った新しい巣は誕生したひなの育児用のものだったのです。

 バンのひなは生まれながらに羽毛があり、目も開いている早成性(そうせいせい)のひなです。生まれていくらも経たないうちから、親鳥の後について泳ぎ、餌(えさ)も水の上で食べることができます。
 泳ぐ姿は、まるでモグラのようでお世辞(せじ)にも「かわいい」とは言えませんが、この黒い羽毛は、中にたくさんの空気を蓄(たくわ)えたライフジャケットの役目をしています。

 親鳥はひなへ与える餌探しに大忙(おおいそが)しです。早速、オスが餌を運んできました。口元をクローズアップすると、バッタの仲間です。直接オスが餌を与えるのではなく、一旦(いったん)巣の中のメスに受け渡してからメスがひなに与えます。他には、クモトンボなど色々なものを捕(と)らえてきますが、その約8割はバッタです。親鳥はこれまでの卵を温める生活から、ひなの誕生で一変しました。

 これまで穏(おだ)やかに暮らしていた親子が試練の日を迎(むか)えました。それは毎年恒例(まいとしこうれい)、夏祭りの花火大会です。バンの親子が棲(す)む川岸は多くの人でにぎわい、約2500発もの花火が、体の奥底に響(ひび)く爆音(ばくおん)とともに巣の真上にあがりました。バンたちに悪い影響(えいきょう)がないかと心配しましたが、翌朝には何事もなかったように、親子仲睦(おやこなかむつ)まじい姿を見せてくれて一安心しました。

 誕生から10日が経ち、ひなの頭にも羽が整い始め、後ろ姿もすいぶん逞(たくま)しくなってきました。さあ、これからどんな成長ぶりを見せてくれるのでしょうか。バンの親子が暮らす与布土川(ようどがわ)を訪れるのが楽しみなこの頃(ごろ)です。
 
文責 増田 克也


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