ASARUT ・ COMPAILA
アサルト ・ コンパイラ

/HOME/NOVEL/第二章  

第一章

「EXPECTATION・旅路の予感」

 そう、強いて言うなら火の海だった。
ま、いつものことだ… と言ってしまえば終わりだが…… その時はいつにも増してやばかった。常日頃からの危機をマッチの火に例えると、今日は大炎舞といえるだろう……
「うわっ。こっちにもきたぁ!」
「こっちが往けるかもしれない! 絶対脱出するわよ!」
「もう無理だぁ! あっちもこっちも火、火、火! ……短い人生だった。これで俺も過去に生きた人間になってしまうのか?」
「なぁにバカな事いってんのよ。一人で悲観していたって何にもならないでしょ。それより早く脱出ルートを…… ひぃ!」
「ん、どうした…… !」
 終わった…。
燃える木がこっちに向かって迷うことなく、倒れてきた。

ズガシャ!

「はえ?」
「………木が、真っ二つ。」
 俺達の上に倒れ掛かるはずだった木は、俺達の頭上で半分に割れて、もとい、ばっさり斬れて………
「大丈夫ですか? 早くこちらへ!」
 そこには、傭兵が一人。
「何やってるんです? ぼーっとしてないで早く!」
「は、はいっ。」

 何はともあれ、助かった。この、傭兵らしき男のひとに連れられて、燃える山から脱出出来たのだ。悔しいが、二枚目な人で、かっこいい。だが、すこし抜けている。抜き身の剣をぶら下げて堂々と町に入り、何者だ!といわれいきなり取り押さえられ、「いや、考え事をしていたもんで、そこまで頭が回らなかったんです。」と言い訳をする始末。

 ともあれ、俺達三人は近くの町に腰を下ろした。開口一番、その男の人が聞いてきた事は……
「あなたがたは、あんな所で何してたんですか?」
 あー。痛い。とても痛い。それを聞かれると……
 俺達は人材派遣会社の仕事で活火山の地質調査をしていた、表向きは。真実は、その火山に眠る大きな宝石の捜索。つまりはこうだ、火山が噴火してしまうと溶岩によって宝石が燃えてしまう。だから、掘り出せるうちに掘り出しておこう、というものだ。もちろん無許可でだが。しかしながら最悪のパターンをたどってしまった、と言う訳だ。まっ、破格値の報酬は前金としてもらってるし、一応助かったんだからよしとしよう。
「へー。そりゃあ大変でしたね。」
「大変なんてもんじゃないわよ。はっきり言って絶体絶命よ!」
「それにしてもだ、なんであんたはあっこにいたんだ?」
「あ、失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私、ナッシュ・コードウェルといいます。見ての通り流れの傭兵をやっています。あの時は火山の噴火に撒きこまれた人々の救援に借り出されまして。ま、こっちの話しになりますが、小さい頃に親と生き別れになりまして、それで、各地を転々としているんですよ。」
「ふーん。親探しのたびかぁ… 大変ね。なんか手がかりとか…」
「いいえ。私の記憶と名前、それだけが頼りです。まあ気長にやりますよ。」
  なるほど、親と生き別れ…… 大変なひともいるもんだ。俺なんか親なんてうるさいだけのもんだと思ってたが…… 親孝行でもすっかねえ…
 ん、まてよ。
「な、あんた俺達と一緒に仕事しないか?」
「はあ、さっき言っておられた人材派遣の?」
「そうだ、仕事柄いろんな所へ行くもんでな。」
「なーる。つまりはこうね。あっちこっちを転々としている私達といっしょにいたら何かにぶつかるかもしれないって訳だ!」
「な、なるほど。一理ありますね……。」
「どうだ、悪い話じゃないだろ。ま、自分で言うのもなんだが、はっきり言って俺達二人だけじゃ心もとないんだ。メンバーが二人だけっていうのはやっぱりつらくてな、あんた、ナッシュがはいってくれりゃ心強いと思うんだ。」
「そう……ですねぇ…」
「私達は明日にも戻らなくちゃいけないの。今夜だけしか考える時間をあげれないけど、一晩じっくり考えてみて頂戴。」
「じゃ、今日は疲れたし、もう寝るとするか。俺達はここの右隣りの宿を取ってる。気がむいたら朝入り口で待っていてくれ。」
「わかりました。」
「じゃあ、おやすみ。」
「はい、おやすみなさい。」

「んええええええーーーー? 一人部屋じゃない?!」
 ぐお… 耳元で叫ぶなよ。
「これ。どうゆうこと? 私達、ここと、ここを取ってたはずなんだけど!」
「いや、ですから、お客様のチェックインが遅かったから二人部屋に移って頂いたんです。ほら、今日は、例の火山の影響で宿にお泊りになられる方が非常におおいんですよ。ロビーをご覧下さい。人であふれかえっておりますでしょ。家を無くされた方々です。どうか彼らの心中考えてください。もちろん、お代金は半額お返しいたしますので…」
「うー……」
「わかった。」
「えー…。」
「こんな事態だ。しかたないだろ。マスター、部屋に案内してくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
  ナッシュの身の上を聞いた後だし、こんな可哀想なひとを見たらどうこう言えるはずがない。泊まれるだけましだ。
「ここでございます。」
「そうか。チップだ。」
「いいえ。けっこうでございます! 部屋を移って頂いた上に……。」
「そうか、じゃあロビーで休んでる人達を世話する足しにしてくれ。」
「はあ、しかし、5千ディアも……」
「気にするな。たまたま、財布が温かかっただけだ。」
「申し訳ありません。では、そのように取り計らいます。」
「ああ、そうしてくれ。」
  ふっ、ちょっとかっこいい自分を見せてしまったぜ。ま、財布に余裕があったのは事実だしな。これで、ここの宿に対する俺の株が少し上がったかな?
 ……ところで、
あいつ、さっきからなにをやっているんだ?
「何部屋のもん並べているんだ?」
「これは国境というやつよ。要するに、これを越えると、不法侵入になる。つまり、どんな制裁も覚悟しなさいっていう、ま、一種の脅しね。」
  ふう……、またつまらんもんを作って…
「そんな事しなくても何もしないって…」
「当然よ! 何もしなくても、こっちにはこないこと。」
「なあ、ひとつ聞いていいか?」
「なあに?」
「その、お前の方にトイレがあるんだが…… これはどうしたらいいんだ?」
「うーん。ガマンして。」
「無理に決まってるだろうが!」
「しかたないわねえ… 道を作ってあげるわ。この道からもはみ出ない事。もし、入って来たら、このナイフでミンチにしてあげるわ。」
「はいはい。」
 最終的にほとんどの持ち物、部屋の置物を並べる事になったが、それに疲れてか、寝てしまったようだ。布団をかけてあげたい気もするが…… 入ったらミンチだ。やめとこう。
さて、もう寝よう……

「ふわああああああ…………あ。八時半……。」
  もうちょっと寝たい気もするが… 寝れん! 仕方ない、散歩でも行くか。
 1階の方では早めに朝食を取る人々と避難してきた人々とでごったがえしている。
「これはこれは、昨日はどうも。どうやら、政府がテントを屋外にどんどん設置しておるようです。これで当面の必要はまかなわれる事でしょう。」
「そうか。それはよかった。そうそう、朝起きてきずいた事なんだが、わざわざ良い部屋を用立ててくれたようだな。すまないな。」
「とんでも御座いません。お客様にゆっくり休んでいただく。これが宿屋の仕事ですから。」
「おかげで良く眠れたよ。相方はまだぐっすり寝ている。」
「はい。ありがとうございます。」
  うむ、マスターの顔や言動から察する所、かなり株があがったようだ。言っておくが、俺は下心あってのことじゃないぞ。八対二ぐらいで、善意のほうが勝っているからな。
「あっ。どうも。」
「おお。ナッシュ。一緒に来るのか?」
「ええ、いつまで一緒にいれるか分かりませんが、しばらくはご一緒させてください。どうぞよろしく。」
「いや、こちらこそ、よろしくな。」
 一緒に来てくれるとは嬉しいことだ。ナッシュは傭兵だからな、力の強い人がいると心強いことこの上ない。
「あの。お名前を伺ってないのですが…」
「ああ、悪い。忘れてたよ。俺の名前はテリー・ラングリッサーだ。連れの方はアリス・トレシャーナという。言った通り、二人でチームを組んで人材派遣会社に勤めてる。俺は十八歳だが、あいつの方は十六だ。もちろん学校に通っている。医者の養成校だ。ま、一応良い成績は取っているらしい……そうじゃないと困るがね。」
「なぜです?」
「アリスが俺とチームを組むにあたって親と交わした約束がー学校にちゃんと通って、いい成績を取る事―らしいんだ。それで、明後日から学校があるので明日中に家に帰らんといかんのだ。ま、アリスは、学校の休みの日に俺についてくる、押しかけメンバーってもんだ。」
「へえ。じゃあ、アリスさんって優等生なんですね。」
「能力についてはそうかもしれん。だが、性格に問題がある。まあ、極端にって事はないんだが、怒りっぽい… そうだな、わがままとも言える。どうもアリスには思春期が遅れて来ているらしいな。」
「はあ…、と言う事はこれからが反抗期……ですか?」
「そうじゃない事を祈るよ。」
 えーと、九時… そろそろアリスが起きる頃だが…… あっ、来た。
「アリスさん。おはようございます。」
「あら、ナッシュ。一緒に来てくれるのね。」
「はい。どうぞよろしく。」
「うん。ところで、ナッシュって傭兵なんでしょ? じゃあ結構強いんじゃない。」
「そんなことはないですよ。せいぜいナーガやゴブリンを相手にする程度ですし…」
  え? それって、強いって事じゃないのか?
「すごーい。それって、たった一人で倒すの?」
「いえ、だいたいそういった仕事は何人かで組んで行いますので、一対一という事にはなりませんね。でも、ゴブリンなら五・六体ぐらいはまとめて相手にしなければならないときもありますけど。」
「すごいわね。じゃあさ、今まですっごい奴と戦ったことはある?」
「そうですねえ…、全体的に見て手強かったのはやはりドラゴンですかね。」
「へ? どらごん? それって、口からゴオオって火を吹くやつ?」
「ええ。そうですが…」
「信じられん…… まさか、一人でってことはないよな……」
「まさか。私のほかに、5・6人いたと思います。それに、倒したのは私じゃありませんから。」
「でも、勝ったんだろ……。お前、下手したら近衛騎士団の隊長クラスの強さを持ってるんじゃないか?」
「いえいえ、私より強い人はまだまだいますよ。」
  すげえ。
 親探しの旅とかしてなかったら、王宮の騎士団長ぐらいにはなっていたかもしれんなぁ。」
 さてそろそろ出発しないとな。
「ナッシュ。荷物はまとめたか?」
「はい。」
「よし。ちょっと待っててくれ荷物をとってくる。おい、アリス。」
「ごめーん。身体が言うこと聞かないのよー。私のも取ってきて頂戴。」
「ふう…。医者に行けよ。低血圧すぎだぞ。」
「そうね……。考えとくわ。」
「まったく……。」

CONTINUE


/HOME/NOVEL/第二章