はっきり言って胃が痛い、起きた時からそうだった。
今日は1月8日でしかも転校生まで出てくるんだ。ああ、何で俺のクラスばっかり(T_T)
いつものごとく胃を痛めながら朝の支度をしていた。
ぼさぼさ頭で独身のオーラを出している青年・我慢一鉄は制服を着て授業を受けていたらどちらが生徒か分からないほどの童顔ではあるが、自分のクラスを持つ先生である。ただし初の担任ではあるが……。
一鉄は人より心配性で小心者だが、たかだか転校生、たかだか高校生、一鉄からしてみれば10も離れたガキなのである。そんなガキにこんなにも胃を痛めているのは異常である、まぁ、それにはそれなりの訳がある。
実は一鉄は転校生の顔を見てないのだ。
自分のクラスに転校してくるとなると一度は転校生の顔を見る機会があるものなのだが、一鉄にはそれがなかった。
顔合わせの日一鉄は入院していたのだ。
一鉄のクラスはひと癖もふた癖もあるような生徒、つまり問題児の集団のである。その所為で一鉄はいつも胃を痛めていたので、とうとう2学期の末に倒れてしまったのだ、もちろん神経性胃炎で。
転校生の話は入院中副担の加山雄二から聞かされたのであった。加山という男、この男もある意味ひと癖もふた癖もある男なのだが、まぁそんなことは置いておこう。
「いよぉ〜♪元気にしてるか?ん?ん?ん〜?」
いきなり加山の声が聞えたので病室のドアを開けたら、誰もいない。
「加山さん?あれ?……空耳?」
「はーはっはっは、相変わらずだな我慢、そんなこった胃がいくつあっても足りないぞぉ〜?」
え?ここって3階だよな?俺の勘違い?でも、あの、どーしても加山さんの声が窓から聞こえる
おそるおそる窓のカーテンをめくってみるとそこには3階の窓に逆さ刷りになってこっちを見てる加山の姿があった。
「か、か、か、加山さん!?ど、ど、ど、どーして!?」
「?何を驚く我慢?俺は体育科の教師だぞ、これくらい出来なくてどーする!注意)普通の先生は出来ません」
あ、そ−なんだ、俺体育科の教師でなくて良かった<おい
心底そう思う一鉄であった。そんなことを考えている間に加山はトォ何て言いつつ窓から病室に入ってきた。
「まぁ、そんなことはともかく、お前のクラス、いやいや俺達のクラスにだな……新しい仲間が増えることとなったv」
「は?」
「はーはっはっは、そんないぶかしげな顔するなよ。あー!分かったぞ我慢どんな生徒が来るか不安なんだろ?大丈夫、俺が見てきたからv」
「へ?」
「俺が、見てきたv」
はいーーーーーーー!?
それから一鉄は1週間寝込むはめになった。
思い出すたび胃が痛くなる。
あんなことがあったからな、でも加山さんが気に入った生徒だからな、うーん想像できないよな
なんやかんや言いつつも学校に行き、転校生が待つ応接間まで来ていた。
まぁ、もしかしたらいい生徒かもしれないし、うちのクラスの生徒がみんなみんな変って訳じゃないし、うん、きっといい生徒だよ
そんな楽天的な考えで一鉄は応接間のドアを開けた。
そこには
品行方正で優等生タイプの男子生徒が椅子に腰をかけていた。
やった!これでうちも成績トップ争いに仲間入りだ♪
だが、一鉄の幸せもここまでだった。
「あなたが私の担任ですか?」
にっこり笑う彼の笑み一鉄は飲み込まれそうになった。だが気を取り直して
「あ、ああ、担任の我慢だ。この前はすまなかったね私の方が……ちょっと……」
語尾を濁していたら
「ああ、気にしてませんよ。
私がわざわざこんな片道25分の所にある工場地帯の中にぽつんとある学校に来てやったというのに、あなたが入院していてドタキャンされたことなんて
ぜ〜〜んぜん、気にしてませんよ」
「え?」
「それに代理出てきた体育系の先生にさんざんおちょくられて、気分を害したことなんて
ぜ〜〜〜んぜん気にしてませんから(怒)」
き、気にしてるーーー!!
とげとげしい微笑みは一鉄の胃をちくちくと攻撃していた。
しかし一鉄の苦痛の1日は始まったばかりだった。