1 日 時 平成14年2月5日(火)14:00〜16:30
2 場 所 教育委員会室
3 出席者 委員13名 小出 治(東京大学工学部都市工学科教授)
上地 安昭(兵庫教育大学教授・心の教育総合センター所長)
清永 賢二(日本女子大学教授)
林 春男(京都大学防災研究所教授)
井上 幸子(京都女子大学非常勤講師)
野田 慈照(兵庫県PTA協議会会長) 大石 伸雄(西宮市越木岩自主防災会副会長兼事務局長) 泉
雄一郎(兵庫教育文化研究所常任所員) 近藤 伸行(春日町立春日部小学校教頭) 藤田 晃(神戸市立神戸生田中学校長) 本光 迪子(兵庫県立芦屋南高等学校養護教諭) 今西 良壽(兵庫県立高等養護学校長) 清田 邦子(日本体育・学校健康センター兵庫県支部事務部長)
4 協議内容要旨
(1) 未知の危機への対策
- 本ガイドラインは、学校への不審者の侵入を想定して記述することになるが、必ずそれ以外に、また新しい種類の危機が現れることは間違いない。そのときに、再度、対策を考えるというのは望ましくない。これまでの協議においては、そのような新しい種類への危機に対しても、それなりに対応ができるように、どのように対処していけばよいのかという視点に立ち、危機管理の基本的な考え方として、危機の発生要因や組織としての危機管理とそのステップなどについても、議論を深めてきた。そして本ガイドラインはそのような内容も示そうとしている。それを示したものである。そこで、そのような読み方をしていただきたいという一文を添えてはどうか。
- 要するに学校における危機について、現時点では未知のものであっても、そういう未知のものに対しても、対応ができるような基本的な内容を含んでいることを示唆するということですね。
- 危機を分析したり、対策を選ぶことは、特定の問題があるからではなく、むしろ、危機に対する一般論になる。そういう意味では、今回の検討委員会の主なテーマは不審者への対応であるが、そのような要素も含めてきた。だから、タイトルとしてあえて「学校危機管理ガイドライン」とすることに賛成している。
(2) 子どもの実態に即した危機管理
- 同じ学年であっても、特に低学年の児童は、4月に生まれた子どもと2月、3月に生まれた子どもとでは発達段階の違いが大きい。例えば、避難の時に、4月生まれの子どもが3月生まれの子どもの手を引っ張って逃げるようなことがあってもよい。低学年イコール弱いとなると、教員への負担は無尽蔵に広がり、40人全員の手をつながなければいけないことになる。
- 知的障害や情緒障害のある児童生徒は、急激な状況変化に伴い突発的な行動やパニックに陥ることも考えられ、危機時には適切な声かけをするなど心理的な緊張や不安を和らげるとともに、個々の危険判断能力に即した適切な危険回避のための対応が求められる。
(3) 支援体制の確立
- 学校への支援体制を整備していく中で、だれが整備していくのかを明確にする必要がある。また、地域の支援体制なのか、PTAなど学校の中の組織なのか、例えば地域とすれば、まず学校が地域に働きかけを行うのかなど、具体的な手だてを示す必要があるのではないか。
- 学校と地域住民の関係において、学校から単に地域住民に情報提供するだけではなく、地域住民からの学校支援体制をきちんとつくり上げていく必要があるということではないか。
- 要するに、PTA、学校保健委員会、学校評議員などの協力を得て、学校との協働体制を整備していく中で、地域に支えられた学校安全管理を確立していく必要があるということだ。協働だから主体はみんなということになる。協力を得るための対象がPTAや学校評議員などであるが、さらに、地域住民全体を含むような観点が大切だ。
- いずれにせよ、支援体制を整備していく中で、学校と地域を全く同等と捉えるのか、まだ学校を支える地域という二重構造でとらえるのかという意識の違いかも知れない。全く同じだと考えれば協働という概念になる。
- とにかく基本は情報提供を行い、協働体制を整備することである。それを明確にしておくことが大切だ。
- 地域によって学校とのかかわりの段階が違う。例えば、自治会が窓口になっているところもあれば、青少年愛護協会が窓口になっているところもあり、校区単位で、枠組みはそれぞれ違う。また、自治会と防犯協会は、同じ組織で名前が違うだけというところも多い。従って、学校を支える地域として、自治会や防犯協会を例示するのは意味がなく、地域の団体とすればどうか。
- 学校を支える地域を考える場合、組織としてのPTAや各団体と地域住民を1つとして考えるのかどうかも検討する必要がある。
- 三重構造にするのであれば、一番外枠は地域住民だと思う。そして、学校と地域住民の間にPTAや地域の団体がある。そうすることによりすべて網羅される。
(4) 支援と協働
- 支援と協働についてだが、それはコラボレーションの在り方だと思う。要するにサポートのシステム化である。コラボレーションというのは、教育委員会や学校は、子どもを対象としてお互いに協働する責任はある。しかし、警察や消防署、医療機関などは、あくまでもサポートシステムの一部だと思う。従って、学校や教育委員会からこれら機関へ協働しましょうという積極的な提言をするのは可能かどうか。むしろ、そのような地域の機関は、サポート支援機関であり、お願いする立場ではないかという感じがする。
- 厳密に分けるのは難しい。しかし、警察などは地域の安全ということでコラボレーションはあり得るかもしれない。防犯のことについては、やはり警察に聞いたほうがよいし、火災や救急のことについては消防に聞く。そういう意味でアドバイザーでもある。そういうときにお互いがこの地域の犯罪を減らしたいとか、子どもたちの安全を高めたいとか、そういう気持ちを共有できなければいけない。そこで、協働という概念が必要になる。例えば、警察官がパトロールすればいいんだなど、受け身になられると困る。関係者が気持ちを1つにして、より積極的に、自分の範囲の中ではあるが、考えていただく必要があるのではないかという観点から、あえて協働という概念を示したい。
- 学校の安全にかかわる人たちは、学校が学校だけで存在しているのではないということを、今回の事件を通して強く認識したと思う。それを実現していくためには、やはりみんなが同じ目標に向かって、力を出し合うパートナーになっていただくことが重要だ。協働という意味合いは、コラボレーションというよりは、むしろパートナーシップだと思っている。
- 要するに学校での危機管理に関して、まずサポートシステムが必要だということではあるが、ただそれだけではなく、例えば警察なら警察で、学校を守るための様々な地域活動をしていただくような運動をしたり、消防は消防で学校に対する救急体制などをそれぞれの主体の中で考えていただくという提案まで行うのかという微妙なニュアンスの違いのような気がする。
- 具体的な実践例として、学校と一緒に実施していることに防災の日の活動がある。主催は、地域の自主防災会と学校、消防署の三者共催になってる。実際に行っていることは、支援かも分からないが、やはりこれからの学校と地域の連携という点では、学校から頼まれたから地域が何かをするというのではなくて、同じ目線で実践していくべきだと思っている。そして平素の交流をとおして、このようなことができるのではないかなど地域からの発想も提案できる関係ができあがっている。このような点からも協働という感覚は必要だと思う。
(5) 目的が明確な外来者への対応
- 学校への苦情等目的が明確な外来者がいる。例えば、保護者が学校に来て自分の思い通りにならないことに対して、大きな声で職員に恫喝する場合もある。このような場合も基本的には同じ対応をするのか。
- 保護者であっても、指示に従わずについたり押したりした場合、危険人物であり退去を命じることは重要だ。
- これまでの協議の中で、不審者の一定の定義について協議してきた。その中で挙動不審者について具体的に考えてきたが、その範疇で判断し対応することになる。
- 学校に関係のない人物であれば、学校も事後の処理についてあまり気にせずにすむが、やはり保護者だと事後処理を考えて学校長も判断に困る場合がある。
- 基本的には、恫喝や加害行動等を行った場合は退去を命じる。それ以上騒がれたら警察を呼びますよという、やはり警察も関与するという形で自粛を促す必要があると思う。子どもたちへの安全確保の面からそのような対応が必要であろう。
(6) 不審者に関する情報の共有等
- 実際には、いわゆる不審者というか加害者は地域住民が多い。そこで、不審者に関する情報の共有や通報システムを整備していく上で、警察や近隣校だけでなくPTAなど地域住民への連絡も必要である。地域住民によって支えられるというのであるならば、こういうことがあったということは知らせるべきだと思う。当然、情報の出し方には配慮を要するが。これまでにも関係機関だけが知っているということがあったので、やはり地域住民も情報提供の対象とするべきだ。
(7) 危機対応マニュアルサンプル
1 校内危機対応組織
- 危機が発生したとき、初動のときほど人が足りない。そして、1人の者がいくつかの役割を担うことになる。そこで、危機対応のマニュアルサンプルとして、校内組織を示す場合、まず初期対応に関する危機対応組織を示すのがよい。例えば、後のメンタルサポートに関することまで含めると、養護教諭が一度に多くのことをしなければならない印象を与える。時間的な推移を考えて組織構成のサンプルを示す必要がある。
2 危機対応手順
- 危機対応の手順を示す場合は、具体的に記せば記すほど、そういう状況ではない場合のほうが確率的に高くなる。また、何か余りにもスーパーマンを求めているような感じになるので、限定的に記さないほうがよい。例えば、避難については、その状況判断に努め、待機か避難か、一部か全体かの判断を下すぐらいまでがよいのではないか。
- この通りにしなさいという意味ではなく、どちらかと言うと、命を守るとしたらこういうことに留意したほうが、多分、確率は高くなるというような表現がよい。
- 危機対応の手順には不審者が学校内で加害行動に及んだ場合の基本的な対応だけでなく、いわゆる導線(順路)から外れている人や挙動不審者を発見した時点からの基本的な対応も含めるべきだ。
- そうだと思う。導線を外れている者や挙動不審者を発見した時点で危機だと認識することは大切だ。そのように認識することにより、危害を未然に防ぐことができる可能性が高まる。やはり、危機対応手順にはその段階からの対応を示すべきである。
- 危険を感じたらという意識はすべてに共通しておりよいと思う。
(8) 情報提供
1 情報提供の意義
- マスコミを通して記者会見を行うということは、単にマスコミの人に話しているのではなく、その人たちはあくまでも媒介であり、その先に実は子どもたちがいて、保護者がいて、さらに他校の先生や教育委員会の人たちがいる。もちろんあらゆる地域の住民の方もいる。そういう意識で記者発表に臨むことが大切である。記者発表は、これらの人々に直接、表明する機会でもある。
2 過剰取材への自粛要請
- 過剰取材の自粛をマスコミに対して行っても、マスコミも情報を入手しなければならない立場にあり難しい現状がある。そうであれば、基本的には、記者会見できちんと公表するという対応が必要になる。そして、単に自粛を求めるだけでなく、マスコミと学校との間にどういう関係を樹立したいのかも含め表明していくべきである。定例記者会見を開いて、そこでお知らせするというような仕組みの提案をし、そのうえで個別の子どもに対する過剰な取材はやめてほしいことをお願いすることになる。
- 新聞社の取材については、記者会見を何回も行うことで対応ができると思うが、テレビのワイドニュースや週刊誌の中には、度を過ぎる取材もある。そのような場合は、厳しい口調でやめるように言わない限りやめないだろう。
3 他のメディア等の活用
- 情報提供の方法としては、例えば教育委員会そのものが情報をデジタル化してホームページに載せてもいいし、マスメディアでなくても、例えばCATVやミニFMなど狭い範囲をターゲットにしてるようなメディアも活用できる。また、いざとなれば印刷物で保護者や地域の人たちに情報提供することもできる。
4 情報を管理する組織の重要性
- 情報を提供する上で、あらゆる情報を整理し、デジタル化しておくような役割を担う情報班のような組織は非常に重要な存在になる。そしてこの班が学校の管理職に情報を提供する役割も担うことになる。それにより管理職も的確な情報に基づき的確な判断ができる。日本の災害対応の話を聞いていると、広報することと意志決定していることが結構ずれてるというか、別の仕事と思ってるところが多く、そうではなくて1つのものであるということを認識すべきである。
5 記者会見での司会者の設置
- 記者会見を行う場合は、司会をする人をおくことにより、質問を整理したり、間をつくったりしてスムーズに進行しやすくなる。質問に答える学校長も混乱をさけることができる。また、答弁に立つべき主役は、当該校の管理職ではあるが、学校長は被告ではない。また、学校を孤立させないためにも、例えば教育委員会がいつも司会を出すといったサポートがあってもよい。結局は学校が的確な受け答えをして、メディアがそれを確実に公表するということは、保護者に対してのメッセージにもなる。
(9) 教育委員会によるサポート
- 教育委員会の職員は学校に入り、学校と教育委員会との連携を図りながら、学校長や教頭先生に対してのアドバイザーというような役割も担うことになる。その人が記者会見の時の司会役を行ってもよい。学校を孤立させないという意味から言えば、教育委員会が介入をするという意味ではなく、連携をする、あるいは支援をするという観点が大切だ。交代も必要になるので、引き継ぎをするためには2人1組でないと連続性が保てない。できればチームで派遣し、現場をサポートできるような体制を組むことができれば、危機管理の非常に重要な要素になると思う。
- 機動部隊ではないが、そのようなチームとして派遣できるようなシステムができればと思う。そしてその派遣される人たちは、常勤でそのような対応に長けている人でないといけない。重油の流出災害が小さな町で発生したことがあり、町役場では対応しきれず、県の防災担当の職員が急遽入った。そのために県の現地対策本部という名前にはなったが、実態は小さな町をサポートをしている。同様に、たとえ対象が地教委であっても、県が支援するという立場で派遣するくらいの心意気があると、非常にスムーズな対応になるのではないか。
- 県教育委員会の組織として、県下に10カ所の教育事務所がある。現実には、県教委からは大きな事件のときは直接出向くが、通常の場合は教育事務所が対応し、情報が入ってくるようなシステムになっている。
- 事件が起こると、マスコミは県教委に取材したり、管理者である市郡町の教育委員会に取材したり、とにかく現場でということで取材したりとまちまちになる。そういう点からも、県教委、地教委、学校の三者が連携していなければ情報が乱れる。三者及び教育事務所も含め、同じ認識を持てるように努力している。
(10) 心の理解とケア
1 コーディネーターとしてのスクールカウンセラーの役割
- 心のケアに関する取組を実施していく上で、当該校のスクールカウンセラーは、教員や保護者、子どもと外部からのさまざまな専門家とをつなぐコーディネートを行うことが重要だと考えている。
- 地域のそれぞれ学校は個性があると思っている。従って、そこにいるスクールカウンセラーもその学校のことをよく知っているわけで、コーディネートするには適任だし、またその力がないといけないと思う。また、派遣される専門家は当該校の近くの者が望ましい。
2 学級担任とスクールカウンセラーの連携等
- 今後、スクールカウンセラーは2つの面で問われてくると思う。1つは、有効な結果を生みだしてるかどうか。マイナスのことが発生した場合は、ある種、医療行為と同じようにしていく必要があるのではないかと思う。もう1点は、学校という組織の中でカウンセラーをどう位置づけるかということである。例えば低年齢になればなるほど子どもにとって、学級担任の存在は大きい。しかし、カウンセラーに任せますということになっていくと、ある意味で安易に先生がカウンセラーのところに行きなさいということになってしまう可能性がある。両者ともキーワードは責任ということになるが。
- 基本的に学校では先生が主だと思っている。それは学校でも先生方によく話している。たかがカウンセラー、されどカウンセラーですと。子どもたちは、カウンセラーといくら良い関係ができたとしても、基本は先生であるということは疑いのない事実である。そこをどう先生方に認識していただくか、そのあたりの啓発がスクールカウンセラーである私たちにまだまだ不足しているのだと思っている。
3 チームとしての対応の必要性
- 危機時のコーディネーターの役割はとても重要である。ただ、今の状況を考えると、中学校で週8時間であり、危機が生じたときにはその役割を担うのは難しい。
- 国としても、徐々にスクールカウンセラーの配置を拡充する方向でいるが、県としてはできるだけ早く各学校にスクールカウンセラーが常駐できるような体制をつくっていただければと思う。
- アメリカでは常勤のカウンセラーがコーディネーターとして活動し、常に学校の管理職とも連携が図られている。日本ではここまでいかなくても、緊急時には数週間はその学校に滞在できるような体制がとれればよいと思う。
- 本県では、重大事件の発生後にスクールアドバイザーを派遣しており、また新たな体制についてもそのような方向で検討を進めているところである。
- イギリスに行ったときに、ケンブリッジ大学の犯罪学専門の方と話をしていて、新潟での何年にもわたる監禁事件のことが話題になった。あれは殺人行為であるということで殺人を適用するべきだと、また、日本は、このような事件が発生したときどのようなチームをつくるのか、ということを聞かれた。イギリスでは必ず、複数の専門家が集まる。精神科医、教育家、心理学の専門家等できちんとチームを組織し対応がなされる。日本の場合、このままでいけば、カウンセラー頑張れということだけで、終わってしまう可能性も感じる。やはり、問題の深刻さに応じたアフターケアの在り方を今後、考えていかなければいけないと思う。
5 委員長挨拶(小出委員長)
- 本日の第4回検討委員会をもって、本検討委員会での協議を終えることとなる。このような悲惨な事件が二度と起きないように祈っているわけだが、なかなかそうとも言えない現状の中、各学校が危機管理の在り方を見直すためのガイドラインを提示するということで協議を深めてきた。
- 本ガイドラインは、危機管理の在り方を提示するだけでなく、むしろ学校というもの、あるいは地域というものを考え直す1つの資料になるんではないかと思っている。そういう意味でかなり啓発的なガイドラインができたのではないかと思っている。
- 学校には、ぜひ有効に活用していただくことを期待している。そして、本当の意味での開かれた社会、開かれた学校あるいは学校への地域の参加という取組を積極的にしていただければと思っている。最後になりますが、熱心にご協議いただきありがとうございました。
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