ヤマガラ 07.07.03





展望台で子育て奮闘中



 「パッ、パパッ」歯切れのよい羽音と共に、ヤマガラという野鳥がくちばしに虫をくわえて何度も行き交う姿を目にします。どうやらこの辺りに巣があるようです。
 ここは、南但馬自然学校の“雲海展望台”と呼ばれる大変見晴らしのよい場所です。ヤマガラの行動を観察していると、エサをくわえた親鳥は雲海展望台の東屋に何度も通ってきます。親鳥がエサ捕りに出かけたすきに、東屋に駆け寄り辺りを見回しましたが、巣らしきものは見あたりません。目を凝らしてくまなく探してみると、放射線状に広がった屋根の中心に僅かなすき間があり、このスペースを巣に利用しているようです。耳を澄ませば、か細いヒナの声も聞こえてくるので間違いありません。

 ヤマガラを驚かさないように、ブラインド(観察用テント)を張り、しばらく観察することにしました。ブラインド内で待機していると、早速、エサをくわえて親鳥がやってきました。まずは屋根の内側に逆さにぶら下がり、周りを警戒してから巣の中に入っていきます。巣は私が予想していたよりもずっと奥にあり、残念ですがヒナの様子をうかがい知ることはできません。しかし、親鳥の羽音が聞こえると同時にヒナの声も大きくなりますので、きっとヒナたちは親鳥の帰りを首を長くして、今か今かと待っていることでしょう。
 エサを運ぶヤマガラを見ていると、くちばしにくわえている虫は1匹や2匹ではありません。いったい何匹の虫をくわえているのでしょう。そこで写真を拡大して数えてみると、確認できるものだけでも4匹はいるようです。きっとくちばしの奥や見えないところには、まだたくさんの虫をくわえているはずです。また、くちばしに張り付いた花びらを調べれば、ヤマガラがどんなところを餌場にしているのかわかるかも知れませんね。

 それにしても、このヤマガラはずいぶんいい場所に巣をかけたものです。まず、ここは屋根の下ですから雨風の心配は不要です。それに、天敵のヘビやテンも手が出せませんし、カラスのくちばしも入らないので安心して子育てができます。ただ、唯一不覚だったのは、ここが南但馬自然学校の施設であったということだけでしょうか。雲海展望台は本校を利用する子どもたちが、登山に向かうと必ず立ち寄る場所です。時には中央のテーブルをみんなで囲みお弁当を食べることもあります。
 こうなるとヤマガラは巣に近づけません。展望台の周りを、あっちに行ったりこっちに行ったりしながら、子どもたちが立ち去るのを待っています。でも心配はいりません。子どもたちがここを使用するのは、ほんの一時のこと。ヤマガラは辺りが静かになると、何事もなかったかのように、またせっせとエサ運びに精を出しています。

 そんなヤマガラ親子に事件が起こりました。ある日、様子をうかがいに行くと、中央のテーブルの上に一羽のヒナの姿がありました。おそらく何かの拍子に巣から落ちてしまったのでしょう。私が見つけた時には既に冷たくなっていました。その翌日もヒナはそのままの状態でしたが、3日後には姿はありませんでした。この雲海展望台には、テンがあちらこちらに縄張りを示すマーキングをしています。おそらくヒナはテンの糧となり自然に戻っていったのでしょう。
 その他のヒナは、鳴き声を聞く限り順調に育っているようです。ヤマガラのヒナたちは、間もなく遅い巣立ちを迎えることでしょう。

文責 増田 克也

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