ヤブサメ 08.06.17




声はすれども姿は見えず



 南但馬自然学校には“ヤブサメ”という小さな野鳥が棲(す)んでいます。その体格は、体長が約10.5センチ、体重は7〜9グラム程ですから、スズメよりもずっと小さな小鳥です。こんなに小柄(こがら)なヤブサメですが、春に日本へやってくる渡り鳥で、遠く南の台湾(たいわん)やミャンマーなどから海を越(こ)えてくるとは驚(おどろ)きます。

 この小さく逞(たくま)しいヤブサメに会いたいと思いませんか。しかし、ヤブサメは名前にもあるように、ササや草が生い茂(しげ)る、藪(やぶ)の中で生活しているため、観察できる機会が大変少ない野鳥です。
 ヤブサメに出会うには鳴き声を頼(たよ)りに探すのが近道です。その声は「シシシシシシーー」と、甲高(かんだか)く尻(しり)上がりに大きくなる声でとても小鳥のさえずりとは思えません。初めて聞く人は虫の音に間違(まちが)えてしまうことでしょう。この特徴(とくちょう)のある声が聞こえる場所で、じっと静かに待つとヤブサメに出会えるはずなのですが、草木が茂るこの季節では、声の調子からすぐ近くにいるとわかっても姿は全く見えず、以前から何度も悔(くや)しい思いをしました。

 それなら作戦変更(さくせんへんこう)です。きれい好きな野鳥たちは、体を清潔に保つために水浴びを欠かしません。藪に潜(ひそ)んで暮らす忍者のようなヤブサメでも、水浴びをする時には外に出てくるはずです。そこで、山を流れる小川にできた淀(よど)みに狙(ねら)いを定め、ヤブサメがやってくるのを待つことにしました。
 ところが、周りでさえずる声は何度も聞こえてきますが、2時間待っても3時間待っても姿を見せません。こうなればヤブサメと我慢(かまん)くらべです。

 山の日暮れは駆(か)け足でやって来ます。午前中から待ち続け、ついに辺りが暗くなり始めた午後7時、小川の上流から、ワルツでも踊(おど)るように、体を右に左にクルクルと回転させながら小さなものが下ってきました。オリーブ色の体、目の上にある眉毛(まゆげ)のような線、そして短い尾羽、これは間違いなくヤブサメです。ところが、やっと姿を見せてくれたのもつかの間、上の写真を1カット撮(と)ったところで、水浴びもそこそこに飛び去っていきました。

 数日後、再び山へ向かい小川で待つことにしました。すると、今度は明るいうちに現れ、水浴びをするヤブサメを観察することができました。ではその様子をご覧ください。

気持ちよさそうな水浴びです

水浴びの最中も警戒(けいかい)を怠(おこた)りません

水から上がって一休み

今度は顔から水へ

地面で生活するためにしっかりした足をしています

 どうですか、ますますヤブサメに会いたくなってきませんか? でも「山で辛抱(しんぼう)強く待つ自信がない」と思われる方は、南但馬自然学校の“はく製コーナー”へどうぞ。本校では事故などで命を落とした野鳥や動物たちをはく製にし、子どもたちの教材として活用しています。ただし、はく製コーナーのヤブサメは水浴びをしませんので予めご了承(りょうしょう)ください。

文責 増田 克也

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